第40話:素直な帰り道
約3時間ぶりに帰ってきた東小金井駅は、夜もふけたため人はだいぶ少なく静かだった。日本の7月らしく蒸し暑く、湿気が目に見えそうだった。イツキとナナはさっきの話をしながら、とぼとぼと家に向かってゆっくり歩いた。
「さっきは僕が相手だったんであんなツンケンしてましたけど、江奈は結構いいやつなんですよ。人のことを素直に応援できるし、僕だってそれに何度も助けられてきました。"幼馴染"っていうとなぜかあんなに怒るんですけど、ぼくにっては本当に付き合いの長い幼馴染なんですよ。」
陰で人の悪口を言う人は世の中にたくさんいるが、
「うんうんっ! 江奈ちゃん、めっちゃいい人だと思うよーっ! だって、わたしなんて今日が初対面で、しかもスロットを打ってるところにいきなり話しかけたんだよ? 普通は嫌じゃん? それなのに、親切にたくさんアドバイスしてくれたのっ!」
イツキに対しての江奈の"ツンツン"具合には若干驚いたものの、江奈がいい人であるということに関しては、ナナも全く同意見だった。
「あっ!そうそうっ! 江奈ちゃんの力は借りたけど、今回の勝負はわたしの勝ちだよねっ!?」
ナナはスロットの勝負があまりに楽しかったので、つい本題が頭から飛んでいたが、そもそもの勝負の件を思い出した。
「あの、ナナさん。その節は、色々すみませんでした!」
イツキはナナの顔を見て謝ったものの、すぐに恥ずかしくなって斜め下を向いた。しかし、頑張って話は続けた。
「ナナさんに乗っかって勝負こそしましたが、仮に僕が勝っていたとしても、、これからは大学でもナナさんを避けずに、普通にナナさんと仲良くできればと思っていました。その、、この前学食で会ったときに、あまりにナナさんが人気者というか有名人というか、、とにかくすごい人なんだって知って、それでぼくなんかがナナさんと仲良くしているのに引け目を感じて、気づけば自然と避けてしまってたんです。そこまで意図的ではなかったのですが、その、嫌な思いをさせてしまって、本当にすみませんでした…。」
なぜだろう。辺りが暗く、人のいない夜道は、少しだけ人の心を素直にする。イツキはここしばらく感じていたわだかまりとナナへの申し訳ない気持ちが自然と言葉になった。
イツキの言葉を聞いたナナはスッと歩く足を止めた。
「……イツキ、わたしもごめんっ! そんな引け目なんて…、大事な友達にそんな思いをさせたくなかった…。イツキがどう思っているかとか、ちゃんと考えきれてなかった。たしかに、わたしはちょっと目立つ方なのかもしれないけど、わたしだってわたしが仲良くしたいと思った人と仲良くしてるつもりだからっ! その、、なんか上手く言えないけどっ、、これまで通り普通に仲良くしてほしい。」
ナナはイツキというせっかくできた趣味があう友達の気持ちを、汲み取れきれていなかったという後悔が表情に滲んだ。
「いえ、ナナさんが謝ることではないですよ。勝手に自分を卑下して、壁を作ってしまったのは僕ですから。でも、さっき思ったんです。ナナさんが蹴った石がたまたま2回もぼくに当たった、というまさにパチンコみたいな偶然の出会い。せっかくなら、お互いが"いい出会い"だと思える方がいいよなって。」
「……イツキっ!いいこと言うじゃんっ! てかっ、なんでそんなに自分を卑下したり、壁つくったりするのさっ?」
ナナは再び表情を笑顔に戻し、止まっていた歩を進めながら、イツキを見た。
「いや、だってナナさんって、この上ない美人だし、同じ人類とは思えないくらいスタイルもいいし、いつも元気で周りを明るくしてるし、おまけにすごくいい匂いもするし。」
夜道のせいか、それともナナが美人であることが当たり前すぎたせいか。美人とかスタイルがいいとか、面と向かって女子に言わなそうなことを、なぜかこの時のイツキはスラスラと言葉にした。
さすがのナナでさえ、男子からこんなに真顔で淡々と褒められると、思わずドキッとしてしまい思わず下を向いた。同時に、顔が熱くなるのも感じたので、夜で助かったとナナは思った。
「へ、へぇ〜っ、匂いかいでたんだっ?!笑」
ナナのごまかし半分、いじり半分の返しのおかげで、ようやくかなりストレートなことを言ったことに気づいたイツキは「あ、いや、、」と急に慌てた。
「ただ、そんなナナさんに比べて、ぼくは冴えないと言いますか…。周りから見たら、ぼくなんかがナナさんと一緒にいると変だよなって…。」
話しているうちに、2人はイツキのアパートの前にやってきた。そこで再びナナは足を止めた。
「あのさ、イツキ。別にわたしは、"見た目がすべて!"だとかは思わない。でも、見た目によって自分に自信を持てたり、勇気が沸いたりってのはあると思うんだっ! だからさ、わたしが最初に言った"アレ"やろうよっ?」
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