第22話:逆にアツい
スポーツの試合ではないけれど、パチンコもお昼ご飯というハーフタイムの前後で流れが変わることがある。もちろん、良い流れにあることもあればその逆もある。お昼を終えた2人にもそんな流れの変化が起きていた。
<ずちゅーーん!!>
イツキの台にチャンス到来。現時点で青保留。
「おぉっ! イツキ、きた感じじゃないっ?」
音に反応したナナが首をイツキに向ける。
「どうですかね。そろそろ当てておきたいですけど。」
画面を凝視するイツキは本日まだ当たりを取れていないので、いつもより真剣な目つきになっている。
「あっ! ああっ!」
イツキが画面を指さした。
そこには、森の喫茶店で動物たちに食べ物を提供するネコの"ワラッタ"が映っていた。このシーンでは、串団子を提供するのがデフォルトだが、今回はアイスクリームを提供していた。プレミア演出で当たり確定である。
「わーっ!! やったじゃんっ! 当たったねっ! てか、アイスクリーム配ってる"ワラッタ"、ちょーかわいいっ!」
演出に気づいたナナは、もうイツキに許可を取らず、横から画面を撮影した。
<ぎゅいーーーん!>
<ぴぴぴぴぴぴぴ!>
<ずがごーーーん!>
"
<ぶーーーーん!!>
<きゅいっ!きゅいぴぴぴぴぴーん!!>
<ばばばばばーーーーーん!!>
<333>
「イツキ、ないすぅ!!」
「よかったです……!」
パチンコを打ち慣れているイツキにとっても、
朝、イツキがこの台を選んだのは、最近の当たり履歴を見るに、RUSH(確変)に入ったときに伸びる可能性を感じたからだった。もちろん、そんな予想はやるせない思いだけを残して虚しく崩れ去ることもあるのだが、今回はいい感じで的中した。
RUSH(確変)での当たりを順調に積み重ねていくイツキ。気づけば、連チャン数は10連目前、持ち玉は15,000発を越えようとした。
「やっばっ! あっという間に10連しちゃうじゃんっ!! やっぱ、イツキすごっ! 天才じゃんっ! てかっ、演出たくさん見れて、横にいるだけでまじ楽しいっ!!」
この前、並びで打った時のように人の台でも本気で楽しめてしまうのがナナのすごいところだ。結果は11連。投資分をまくり、結構なプラスが出たところでイツキのRUSH(確変)は終了した。
「また、いっぱい出したねっ! わたしの台も見習ってほしいんですけど…。」
ナナは自分の台のように嬉しそうだった。一方、お昼以降ナナの台はうんともすんとも言わず、お昼前に8,000発あった持ち玉も3,000発程度にまで減っていた。
「イツキ、どうする? もう帰るっ?」
「うーん、、まだ出そうなので、もうちょっと粘ってみようと思います。」
「イツキさん、強気だねーっ!! じゃあ、私も粘っちゃおうかなっ!!」
2人はもう一回当たりを目指して、腰を据え直した。
いわゆる通常時と言われる当たっていない時間帯は人によっては"つまらない"と感じるものだ。それが長い時間となるとなおさらだ。また、周りの当たり具合なんかにも気が散ってしまい集中力を欠いてしまうこともある。
イツキも夕暮れ時になってくると疲れや退屈を感じるものだが、隣にナナがいて、たまに会話をするだけでこんなにも楽しい時間が流れるものなのかと驚いた。まさに、これが"誰かと打つという楽しさ"なんだと実感していた。
「あちゃーっ、だめだーっ。 せっかくの持ち玉、消失っ!!!」
何回かチャンスはあったもののそれをうまく活かせず、ナナの持ち玉はあえなく全ノマレ。いつの間にか当てられないナナに戻っていた。
「少しだけ、現金投資するかっ…! くぅ〜〜っ。。」
ナナは仕方なく、追加投資を始めた。ナナのもちぐまぬいぐるみも、気持ち元気がなさそうに下を向いていた。
<ぴろんぴろん♪>
チャンスが到来したのは、追加投資を頑張っているナナの台ではなく、再びイツキの台だった。
「「おっ!!」」2人は同時に声を出した。
「イツキ! また当てちゃってよっ!!」
自分はもはやマイナス域なのに、それでもちゃんと人の当たりを願うことができるナナの姿に、"ナナさんは、本当にパチンコが好きないい人なんだなぁ"とイツキはもはや感動さえしていた。
<ぎゅーーーん、ぴきっつ!>
<ばばばっつ!ずごーん!!>
ド派手な音とともに、どんぐり保留が割れて、中からもちぐまが現れた。
「まってまって! もちぐま保留っ!! わたしがこの前ハズしたやつっ!!」
ナナは思わず、ちょっと大きめの声を出してしまった。そう、もちぐま保留といえば結構アツいにも関わらず、以前ナナがハズしてしまった苦い思い出のある演出だ。
「イツキっ! わたしの
いつにも増して、興奮気味のナナはもちぐまぬいぐるみの頭を3回撫でてから、イツキの台にぬいぐるみをセットした。
「わかりました。僕はハズしませんよ!笑」
なんの確証もなかったが、ナナの大事なもちぐまぬいぐるみを託されたイツキは勝負師らしくニヤッと笑ってみせた。
<もちぐまの風船旅行! ★★★☆☆ >
<森の喫茶店までもちぐまがたどり着けばボーナス確定!?>
「これこれっ!! 今日は当たるところが見たいっ!」
5つの風船を手に空を飛び、森の喫茶店を目指すもちぐま。
と、そこにカラスの群れが…!
群れの通過により、もちぐまの風船は3つも割れてしまった。
「えっ? いきなり3つも割れるっ!? ひどくない?無理じゃんっ! わたしのときは2つだったよっ!」
「いえ、多分これは逆にアツいです。」
イツキは画面を見つめたまま、冷静にナナの不安をなだめた。
お次は雷をともなった雨雲がもちぐまに襲いかかる。
風船がまたひとつ割れてしまった。
<ずどどどどーん!!!>
もちぐまを最後に襲うのは巨大ミサイル!
前回のナナが散ってしまった場所だ。
(おそらくこれまでの森物語と同様の演出法則であれば、ギリギリの展開になる方がアツい。 ゆえに、風船1個でミサイルにのぞむのは激アツのはず! これはもらった!)
<!!PUSH!!>
イツキは当落ボタンを確信を持って押した。
<すがごーーーーーん!!!>
<びしゅーん、びしゅーん、びしゅーん!!!>
<ぴぴぴぴぴ、ばばばばば!!!>
<777>
「うわっ! やりーーーっ! イツキ、うまいっ!!」
「ナナさん、
ちょっと恰好がついたイツキは、ナナにほっとした顔で笑いかけた。
その瞬間、ナナはハッとした。以前自分がハズした演出をイツキが当ててくれたことよりも、世界が一瞬スローに感じるようにイツキのほがらかな笑顔に意識がいってしまったのだ。ナナは自分でも何が起こっているのかわからなかった。
「ナナさん、写真! 写真、撮らなくていいんですか?」
「あ! ああっ! そだそだっ! 写真写真っと!!」
写真を撮ることも忘れ、ぼーっしてしまったナナは、イツキの言葉で我に返ると慌ててスマホを取り出し、無事に演出をカメラロールに収めた。
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