第15話:イツキの部屋

イツキは世界で一番落ち着けると思われる自分の部屋に帰ってきたというのに、全然気が休まらなかった。


これまでの人生でほとんど関わったことのない圧倒的女子感のある女子。そんなナナと成り行きとはいえ、パチンコを並んで打ち、一緒に家の前まで帰ってきたのだ。おまけに友達になったという。


現行のイツキスペックでは「いやぁ〜、今日は新しい出会いもあって楽しかったな〜!さーて、シャワーでも浴びますか!」のような処理はできず、しばらく部屋の端っこに座り、今日という日の整理に勤しんでいた。


イツキの部屋は一人暮らしの男子大学生にしては、全体的にシンプルでとても片付いていた。片付いているというか、そもそも家具やモノがほとんどなかった。良く言えば、ミニマリストというやつだ。しかし、座り込んだイツキがぼーっと眺める棚の隅一角だけは、モノがところ狭しと並べてあった。


そのどれもが、ナナが新台登場時にとても喜んでいたパチンコ台"森物語もりものがたり"に関するものであった。


1990年代から存在し、シリーズは76機種を数える伝説の人気パチンコ台"森物語"。イツキの棚に並んでいるのは、そんな"森物語"のポスターや登場するキャラクターグッズ、パチンコ屋に設置するパンフレットに販促アイテムだ。


中には、かなり昔のアイテムもあった。いや、昔のものの方が多いかもしれない。それらのポスターやパンフレットは色がせていたし、グッズは時の流れでゴムなどの素材が劣化しているものもあった。


しかし、置いてある物すべてが非常に大切に保管されていた。それは誰が見ても一目瞭然なのだ。時間の流れでどうしようもないところをのぞいては、非常に綺麗な状態を保っていた。


そんなイツキの部屋に置かれているアイテムは、相当なマニアやコレクターであっても、今やなかなか手に入れることができないものたちであった。

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