第14話:嘘が真実に変わる帰り道
「ナナさんは家どっち方面ですか?」
22:00過ぎ。帰宅する人たちが落ち着いてきた駅構内で、改札をくぐりながらイツキはナナにたずねた。
「下りっ! てか、1駅なんだっ! 天気がいい日とか、勝った日とかは気分がいいから歩いて帰ったりもするんだけどねっ!」
「ナナさんって、勝つことあるんですか?笑」
「うるさいなぁー!笑 たまには勝つしっ! てか、パチ友になったらなったで、いきなりいじってくるじゃんっ!笑」
気兼ねなくパチンコの話ができるからだろうか。ナナは終始楽しそうだった。
「あ、いや、いじっているわけではなく、、単純に気になったので…。というか、僕も1つ隣の東小金井駅です!」
「あはは、より失礼なんですどっ!笑 って、うそっ!? まじかっ! まさかの一緒の駅的なっ!? てことはさ、大学で会ったあのときに、"家が近くで…"とかノリでテキトーに言ったけど、あながち間違いじゃないっ?笑」
「そうかもですね! すごい偶然ですね。」
等速で進むエスカレーター。いつもはひとりのイツキだが、今日は一段あけて上にナナがいる。パチンコ屋でも感じたことだったが、ナナとこうして駅内を一緒にいることが、やはりイツキにとってはとても不思議だった。
それぞれの一日を終えた人々を乗せた中央線が駅のホームにさーっと入ってくる。2人とも1駅なので、ドアの近くのつり革につかまった。
「それにしてもなんか不思議だなーっ。」車窓から見える街明かりを眺めながら、ナナが小さくつぶやいた。
「何がですか?」
「いや、イツキってお店ですごく当ててることが多いじゃん? だから、何度か見たことはあったんだけど、こうして歳も近くて同じ大学で、友達として一緒に帰るとか、全然想像してなかったというかっ!」
「そう言われると、そうですね。僕はナナさんのこと知らなかったんですけど、お店にいる人とこんなに話したことないので、自分でも驚いてます。」
「なにーっ!? こんな美人を認識してなかっただとーっ!?笑」
「え、あ、すみません…! そう言うことじゃなくて、周りをあまり気にしていなかったので。」
「うそうそっ!冗談っ!笑 さっ!着いたよ、降りよっ!」
2人は住んでいる街に帰ってきた。2人がよくパチンコを楽しんでいる武蔵境駅のひとつ隣の東小金井駅。駅前は再開発で綺麗に整備されていて、街も人もとても落ち着いていた。スーパーやカフェも多数あり便利で安全。最近ではハンドメイドを扱う個人商店や個人経営の飲食店といったおしゃれなお店もどんどん増えてきた。まさに、学生が住むのにもうってつけの場所なのだ。
偶然出口も同じだったので、そのまま一緒に歩き出したイツキとナナ。当然お互いの家を知るわけはないが、5分ほど経っても2人はまだ一緒に歩を進めていた。
やがて、ひとつコンビニを通り過ぎたとき、一軒のアパート前でイツキは立ち止まった。
「ぼく、ここなんで!」
イツキはオートロック等はついていないごくシンプルな二階建てのアパートを指さした。まさに大学生が住んでいそうなどこにでもあるが、それでいて味わい深いアパートであった。
「あ、ここなんだっ! もはや毎日イツキの家の前、通ってたんだ!うけるっ! ほらっ!家も近かったじゃん!笑」
先日のその場しのぎの適当な嘘が結果的に真実に変わり、ナナはちょっと誇らしげだった。
「ちなみに、今日のパチンコ屋だけでいつも打ってるのっ?」
「基本的にはそうですね。 でも、新宿にあるお店の周年は毎年行っていますよ。 まだまだ先で、寒くなってくる時期なんですけどね。」
「あ、もしかしてエヌパヌ?」
「そうです!そうです! なんか、行っちゃうんですよね。」
「へぇーっ! あそこ大きいお店だよねっ! わたしも気になるっ!! じゃー、私の家はもう5分くらい先だから! またねっ! 今日はありがとっ!」
ナナは笑顔でイツキに手を振った。
「はい! では!」
イツキは自室のある二階に向い、コンコンと足音を立てながら外階段を昇り出した。
(今日は色々あったな……)
と、イツキが思うより早く、ナナの声が背中に届いた。
「ねぇーっ! 今度の週末、パチンコ行くっ? わたしオフだから朝から行こうかな!って思ってるんだけど、もしいたら声かけてよーっ!」
ナナは、スケジュールを確認したスマホを光らせたまま手を振った。
「朝から行くかは分からないですけど、見かけたら声かけます!」
イツキを振り返り、昇りかけた階段を片足だけ一段降りて答えた。
「うんっ! よろーっ!!」
ナナは再びイツキに手を振ると、心地よいヒールの音を響かせ、服の裾を風になびかせながら、街灯が並ぶ夜道の先に消えていった。
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