第4話:緊迫の激アツリーチ
ナナが打っている"
引いた玉を再度箱に戻してから、次を引くという点がポイントである。ゆえに、319回引いたら、必ず当たるわけではない。
もちろん実際は箱とピンポン玉ではない。パチンコ台の中央下部あたりにちょうどパチンコ玉一球分程度の穴がある。通称"ヘソ"と呼ばれている部分だ。このヘソに玉が入ると、一回抽選が行われる(箱からピンポン玉を引く)という感じである。
だいたいの台は、1から9の数字が演出とともにスロットのように回り、同じ数字が3つ
ちなみに、「222」や「444」のように偶数で当たるより、「333」や「777」のように奇数で当たる方が恩恵が大きい台が多い。
抽選中にヘソに玉を入れると"保留"として最大5つストックできるのがオーソドックス。保留にも種類があり、
ちなみに、母数である319回の抽選を行った際、当たりを引ける確率は約63%程度と言われている。これは、パチンコに限った話ではなく、確率論としての普遍的事象だ。
今の説明くらいが、ナナが持っている全知識だ。そんなナナの台にチャンスが訪れたのは、700回転に届こうとしていた時だった。
<ぴろりん♪>
ヘソに玉が入った時、いつもと違う音が鳴った。
(おっ!おっ! これはきちゃった系じゃないのっ?)
ナナの心拍数は一気に上昇し、ハンドルを持つ手もじわっと汗ばんだ。
<きゅぱーん♪>
"森物語"の通常保留である茶色のどんぐりは、青どんぐりに変化した。
(うん! まずは青保留! んでんでっ?)
<ぎゅーーーん、ぴきっつ!>
<ばばばっつ!ずごーん!!>
ド派手な音とともに、青どんぐりが割れて、中から"もちぐま"が登場。台の横に設置された"森物語"のロゴの
(え!待って待って待って! もちぐま保留なんですけどっ! たしか、これ期待度70%はあったはずっ! てかっ、もちぐま保留のもちぐま可愛すぎて困るっ…!)
ナナは興奮のあまり靴の中で、足の指を必死にグーパー、グーパーと繰り返していた。
<もちぐまの風船旅行!>
<森の喫茶店までもちぐまがたどり着けばボーナス確定!? ★★★☆☆ >
(なるほどなるほど! もちぐま保留はもちぐまリーチ演出に発展する感じねっ! これはもらったでしょ…!)
当たる瞬間を写真に収めるために、ナナは器用にスマホを構えた。
5つの風船を手に空を飛び、森の喫茶店を目指すもちぐま。
と、そこにカラスの群れが…!
群れの通過により、もちぐまの風船は2つが割れてしまった。
(いまので2つも割れるわけっ…? でも3つあれば…!)
お次は雷をともなった雨雲がもちぐまに襲いかかる。
風船があっけなくまた1つ割れてしまった。
(あちゃーっ。あと2つ! なにこれ、めっちゃドキドキするんですけどーっ! 70パーはずしたら、痛いってー!)
<ずどどどどーん!!!>
もちぐまを最後に襲うのは巨大ミサイル!
困り顔のもちぐまは耐えることができるのか……!
<!!PUSH!!>
ナナは、もちぐまぬいぐるみの頭を3回撫でながら、台の中央部分に設置された”まつぼっくり”の形をした
<みしっ…。>
ヒビが入り白黒になる画面。そして、すべての風船を失ったもちぐまは「やだーっ!」と言いながら森の中へ落ちていった。
(…………えええええーーーーっつ! これも演出だよねっ? 復活でしょ?)
ナナは自分の視界も白黒になったかと思うほど落胆しながらも、ナナは当落ボタンから手を離さず、祈る気持ちでしばらく画面を見続けた。
<しーん>
(うっわ。まじか。70パーはずした!? うそうそうそーっ、まじかまじかーっ。いやーーーっ。きっつ……!)
なかなか当たらずに回転数がかさむことをハマると表現するが、このハマっている時に激アツリーチを外すことは、打ち手に戦意喪失並の精神的ダメージを与えることもある。ナナも体から力と戦意がものすごい勢いで抜けていくのがわかった。
(もう、今日はだめか…。やめようかなー。でも、せっかく打ちたかった"森物語"に座れたしなーっ。700回転超えるとこまで打ったしなーっ。)
(さすがにもう当たるんじゃない? いやいや、当たらん時はいつまでも当たらんよなーっ。今日は粘っても当たらない気がするっ…。)
(あーーっ、もうどうしようっーー!!)
天使と悪魔ではないが、続行派と撤退派の二勢力がナナの中で争う。
(よしっ! 今日は勇気を出して撤退だっ!!)
熱くなった手でハンドルを握ったまましばらく葛藤した末、後ろ髪を引かれまくりながら、ナナは席を立った。どこか寂しげな空になったペットボトルをゴミ箱に捨て、最後に店内を歩き回りながら、他の台の
自分が勝った日は、他に当てている人を見てもなんとも思わないし、むしろハマっている人を心の中で応援する余裕さえあるものだ。しかし、楽しかったとはいえ、今日一度も当たりを引けなかったのナナは、当てている人が羨ましくてしょうがなかった。
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