第13話 隊長、死を決意する
「魔道兵は小出しではなく威力を高めた魔法を放て! 前衛は船体を損傷を最小限に抑えつつ、何とか敵の注意を引き付けろ!」
声を張り上げながら、残りの兵たちに指示を出していくアヴェンス。
フィエナの力で強化された兵士たちは、最後の力を振り絞りながら交戦を続けていく。
「我々、勝てますかね……?」
そんな中、傷を負ったアヴェンスの肩を支える兵士が、不安そうに尋ねてくる。
「分からん。だがやるしかない」
「そう……ですよね」
兵士の質問に、アヴェンスは淡々と返答する。
実際のところ、結果がどうなるかなんて、今の段階では分からなかった。
少なくとも、自分たちが劣勢以外の何物でもないことだけは承知しているが、わざわざ何度も口に出すことでもないだろう。
不安そうに目の前の光景を見つめながら、微かに震えている兵の肩。
ふと、彼の左手薬指に
彼の帰りを故郷で待っている家族がいるのだろう。
自分が死んだら、残された家族はどうなるのか考え、打ちひしがれているのかもあしれない。
それに比べて、アヴェンスには想い人や子はいないため、そういう意味では気負う必要はなかった。
「安心しろ。もうじき俺も動けるようになる。その時はタコの八つ裂きにしてやるさ」
震える兵を励ますように、軽く笑みを浮かべながら軽口をたたく。
(というか、俺がクラーケンの巨体に乗り込んで心中する、これしか方法はないだろうな)
己の野望のために戦い続けたアヴェンスにとって、最も取りたくはなかった選択肢。
しかし、この隊を預かる隊長としての責任があることもまた事実だ。
自分を信じてここまで戦い続けてきた仲間のためにも、覚悟を決める時が来たのだと、そう自分に言い聞かせる。
(仲間を信じて乗り越える……か。俺には
そう心の中で呟き、腰に吊り下げられた鞘に手を掛ける。
すると、そこにはいつものようなずっしりとした重量感はなく、収まっているはずの剣を抜こうとする右手が宙を泳ぐばかりだった。
「そうか、あの時落としたままだったな……」
触手に吹き飛ばされた際の記憶が瞬間的に蘇り、アヴェンスは辺りを見回しながら得物を探す。
しかし、記憶を頼りに視線をあちこちに向けてみるが、相棒とも呼べる剣は何処にも見当たらない。
「なあ、俺の剣を知らないか?」
痺れを切らしたアヴェンスは、傍にいた兵士に確認をとる。
「隊長の剣でしたら、あの子が……」
「何!?」
予想外のハプニングにぎょっと目を見開き、肩を震わせながら絶叫するアヴェンス。
「まずいまずいまずい! あれがないと力が発揮できないぞ!」
あの剣はアヴェンスの給料の半年分をつぎ込んで叩きあげられた、特注の一品。
切れ味、耐久、扱いやすさ。
どれを取ってもそこらのなまくらとは訳が違う。
そんな上質な剣と卓越した剣術があってこそ、アヴェンスの真の強さを発揮することが出来るのだ。
その戦いの鍵と言っても良い武器を、ペンギン少女は力強く握りしめていた。
「ペンギン娘!!! 一旦戻って来い!!!」
これから最前線へと向かうだろう彼女を呼び戻そうと、慌てて叫ぶ。
だが、時すでに遅し。
必死の怒号も虚しく、ペン子はクラーケンに向かって勇ましく飛び込んでいった。
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