第12話 ペン子、剣を握る
「もちろんだよっ!」
差し出された手を迷うことなく握りしめたペン子は、満面の笑みを浮かべながら、はっきりと答える。
お互いの手の温もりをその身に感じた少女達は、笑顔を交わす。
「ですが、危険だと判断したら必ずこの場から離脱してください。いいですわね?」
「うんっ! その時は皆で逃げようねっ!」
「いや、それが出来たら苦労はしないんだが……」
状況を理解しているのか、理解していないか。
その何とも言えないペン子の発言に対して、冷静に現実を叩きつけるアヴェンス。
「隊長、こういう時は空気を読んでくださりませんか」
「えっ、俺が叱られるんですか? 今こそ現実的な話をしないと駄目でしょう?」
「隊長、来ます!」
そうこうしつつも、再び迫りつつあったクラーケンを迎え撃つべく、アヴェンスは作戦内容を口早に伝える。
「フィエナ様は加護の発動をお願いします。一秒でも長く継続してくれると有難いです」
「かしこまりましたわ」
「それとペン子……だったか。
「分かった、やってみるよっ!」
「他の者も、引き続き足止めを続けろ! フィエナ様に傷一つ付けないよう、死ぬ気で守れ!」
『はっ!』
「よし、頼んだぞ!」
アヴェンスの合図と共に、皆が一斉に動き始める。
ペン子も華奢な素足をペチペチと打ち鳴らしながら後を追い、魔物の方へと向かう。
「そういえば、加護って言ってたけど、なんのことだろう? いやいや、今は戦いに集中しなくちゃ! 何か使えそうな物は……」
より強い一撃を与えるためには武器がいる。
そう判断したペン子は、キョロキョロと辺りを見渡し、戦いに使えそうな物がないか探る。
すると、甲板上に刀身の長い剣が無造作に転がっているのを発見し、足早に近づいてみる。
「わあぁぁ……こんな綺麗な素材の剣、初めて見た……!」
島にいたときでも、剣と称して氷の塊を振り回して遊んでいたこともあった。
だが、そんな子供のおもちゃとは比べ物にならない、ちゃんとした武器というものを見たのは初めてだった。
「うう……結構、重たい……」
初めての武器に興味津々なペン子は、
一度、剣を床板に下ろしたペン子は、目を閉じながら意識を集中させ、自身の手に力が集まるようにコントロールする。
光を纏いきったペン子は、床に置いてある剣に手を伸ばし、再挑戦してみる。
「持ち上がれっ!」
柄を力強く握りしめ、気合を込もった一声に合わせて体全体を使い持ち上げると、剣が天高く掲げられる。
先ほどとは打って変わり、持ち上がらなかったのが嘘かのように、軽々と扱えるようになっていた。
「軽い軽いっ! これなら問題なくあれが使えそう」
拾い上げた剣を天にかざしながら、武器の状態を確認するペン子。
その時――
「~~~♪」
「え……」
一瞬、体の芯が震えるような衝動を覚え、思わず握った剣をこぼれ落としそうになる。
慌てて後方を振り返ると、そこには片翼を広げたフィエナが、額に流れ落ちる汗に陽光を反射させながら、歌唱を響かせていた。
「……綺麗……」
唖然としながら、そんな言葉が自然と口から零れ落ちる。
囁くような優しい低音。かと思えば、力強く軽やかな高音域。
その繊細で神々しい歌声は、ペン子をふわりと包み込むように伝播し、血流が脈打つように超常たる力が体全身を駆け巡っていく。
「凄い……今なら何でも出来そう……!」
体が軽い。
フィエナの加護を一身に受けたペン子は、自身の手足を動かしながら、肉体に宿る未知の可能性を実感する。
ペン子は細く息を吸う。
「……よし!」
今は、見惚れている暇はない。
自分が出来ることを、目の前の敵に全力でぶつけるだけだった。
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