第14話 ペン子、一撃を放つ
勢いよく飛び出したペン子は、船首で暴れ回るクラーケンへと一直線に向かう。
が――
「おっっっっっっそ!」
その勢いとは裏腹に、ペンギン歩きならぬペンギン走りを繰り出すペン子に対して渾身のツッコミを入れるアヴェンス。
慣れない陸地での走行。
お世辞にも素早いとは言えないゆったりとした足取りで、ペン子は剣を脇に構え、魔物へと突き進んでいく。
クラーケンが他の兵士に気を取られている中、少しずつ距離を詰めていったペン子は、複数の触手が激しく
「ギェエエエエエエ!」
それに気付いたクラーケンは、まんまと侵入してきた間抜けを始末すると言わんばかりに、
「危ない!!!」
危険を察知したアヴェンスが警告するが、触手はペン子の頭上まで差し掛かり、暗黒の影に覆われる。
やられた――そう誰もが思ったその時。
『ペンギン流奥義――
「なっ!?」
その揺れる黒髪に到達しようとする刹那、ペン子の姿が消える。
一瞬、全身が潰れて跡形もなく消えてしまったのだと錯覚したが、甲板には打ち付けられた衝撃で出来た窪みだけが残っていた。
「何だ、今のは……」
見えなかった。
消えたと思わせるほどの速度で横に跳躍し、
鍛え抜かれたアヴェンスですら、油断していれば捉えきれないほどの疾風の如き速度。
その驚異的な身体能力に、アヴェンス達は驚愕するしかなかった。
「ギィエエエ!?」
そんな動きを見て、本能的に危険を感じ取ったのだろうか。
クラーケンは残りの触手を次々と繰り出し、迫り来るペン子を止めようと狙いを集中させる。
力任せに振り下ろされる一撃。
かと思えば、足を引っかけるような緩急をつけた搦め手。
巨木ほどの腕を休めることなく動かし、縦横無尽のあらゆる軌道から攻め立て、小さき生物を
だが、飛来する触手に動じることなく、ペン子は目にもとまらぬ華麗なステップを刻むことにより、その全てを回避し続ける。
――見える。
今のペン子には、次に何が来て、どう動けば良いかが頭で考えることなく、自然と体が動いた。
その姿はまさに、本能のまま動く野生動物そのものだった。
痺れを切らしたクラーケンは
「うわあああ!」
回避不能の一撃。
前線で戦っていた何人かの兵が吹き飛ばされる中、触手の波がペン子に迫り来る。
――刹那。
「えいっ!」
掛け声とともに、巨人が足踏みしたかのような大きな音と振動を発しながら、ペン子は宙に向かい大きく跳躍した。
直後、薙ぎ払われた
幼さを帯びた白貌に強い風を受ける。
黄線混じりの黒髪をなびかせ、ペン子はそのままの勢いで船上から飛び降り、獲物の真正面に位置取る。
距離は、数メートル。
クラーケンのおぞましい巨眼が近づく中、ペン子は前傾の姿勢のまま携えた剣を逆手に持ち替え、狙いを定める。
そして――今持てるありったけの力を、その剣に込めた。
『ペンギン流奥義――
ペン子は、渾身の声で叫んだ。
そのまま小柄な体を一回転させ、腕が振り切るタイミングで光り輝く長剣を投げ放つ。
それはまるで、空から流れ落ちた星のような速度で、眼前の敵を貫いた。
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