第3話 育て親の昨


数日後。

琥珀はレモンを連れて、さくを訪ねた。

居酒屋、春の店主、昨は、40歳を過ぎている。

しかし妙な色気と貫禄かんろくがあり、実に若々しい。何よりも、蘭の花のごとく、美しかった。実に瑞々みずみずしい。


薄紅色の肌に、黒菫色の瞳、雀色の長髪。

蜜柑色の着物に、黒い帯。


ただものではない、気配を、琥珀が感じ取った。


「私は、紆余曲折あって、家を勘当されたんだ。もう、数十年も前の話さ。

やさぐれている時に、桜墓地の桜木の下で、赤子の蓮を、拾ったのさ」


夕暮れ時。

居酒屋のカウンター席で、琥珀とレモンが、昨の話に、耳を傾けている。


「貧乏でたくさん苦労したが、蓮のおかげで、乗り越えられた。あの子は私の生きる支えであり、希望だよ」


数日前。

蓮が、朱桜祭りの巫女の舞い手に、選ばれて、昨は、大喜びしたらしい。


「蓮は今年で、17歳。選出されるのは、18歳まで。昔から、そう、決まっているのさ」


おでんを煮込みながら、昨が、感慨深そうに話している。

 

「では、この街に伝わる、黒い噂を、ご存じですか?」


意を決して、琥珀が、訪ねた。


此花街では、何年も前から、少女、巫女が、姿を消していた。

つい最近、骨の一部が、ある岩窟側で、発見された。

見付けたのは、街の人間だ。


消えた巫女との因果関係は、無いが、かなり、怪しい。


実のところ、琥珀は、此花街の内情を調べる為に、ここにやってきた。

琥珀の主が動いたのは、投書があったからだ。


巫女の失踪には、それなりの地位の者も、関与していた。つまり、官僚だ。


此花街には、過去、金の鉱脈があった。金山は今でも、微量だが、金がれる。

今は、有害ガスが出るとの事で、一般人の立ち入りを、禁止している。


「このところ、確かに、街は不穏だよ。夜になると、街の人間が急に凶暴になり、怪我人も、増えている。しかし、原因が、分からない。祭りを執り行うのは、たたりをしずめる、意味合いもあるのさ」


お皿に盛られた、熱々のおでんを、箸でいただくと、琥珀が、考えを巡らせた。


「琥珀は、初対面だが、どこか、うちの蓮と、似ているね。お節介で善人。簡単に、人に、騙されそうだ」


昨が真っ直ぐに、琥珀を見ている。その目元は、ゆるんでいた。


「あの、私も、人見知りしますが、昨さんは、どことなく、好きです。勘ですが、信用に値する人、と言うか、なんかすみません」


もじもじする琥珀が、可愛らしく映ったのか、昨が、色っぽく笑った。


「ふふ。これは予感だけどね。貴方とうちの蓮は、きっと、気が合うよ。お人好し同士、仲良くなれるさ」


上品に笑うと、昨が、琥珀達からお金を取らずに、おでんや惣菜を、ばんばん食べさせた。

なんだかんだ、昨も、面倒見が良かった。









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花皇旗―雨夜の月、蒼天のさくら- あんころもっちん @sumiki41

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