稼業

「んっ」

 部屋に嬌声が響く。今夜の相手は彼氏に浮気された女子大生だ。この仕事をはじめてから同世代を抱くことは少なくなったので少しだけ心が躍る。

 肌に指を這わせ、舌に舌を絡める。

 寝取りで一番重要なポイントは行為ではなく準備段階だ。性行為はおまけ。性行為をしたいと思わせた時点で寝取りは完了したようなものである。影山流の教えのひとつだった。

 しかし人間とは面白いもので、性行為をした/してないに明確なラインが引かれている。脳内でどれだけヤッていても、そのラインを越えない限りは無罪だ。

 だからぼくたちは、映像に残す。

 好きだった人にすら見せられないような汚くて動物じみた行為を、撮影する。

 それが一番ダメージになるから。絶望を与えることができるから。

 もちろん女性が嫌がったらしない。そういう場合は声だけ録音したり、行為中の思い出を話してもらうだけでも十分だ。

 しかし面白いことに、ぼくと寝た女性のほとんどは、映像を残すことに同意してくれる。

 少しだけ射精感が込み上げてくる。

 でもまだ果てない。彼女はまだ最大限の幸福に至っていない。心と体の両方を幸せにする。それが寝取り師の仕事であり、誇りだ。


 影山さんに弟子入りしてから二年が経って、ぼくは名の通った寝取り師になり、影山さんは四十歳になった。妖艶な美貌は変わらないが、艶のある長髪には少しだけ白が混じり始めていた。

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