第5話 明かされる真実
「おかしくない?」
「なにが?」
午前の授業が終わり、昼休みになると同時に僕は斎藤君に声をかける。
「ここって忍者を育成する学園なんだよね?」
「そうだね」
「じゃあ、なんで普通の高校でするような授業なの?」
そう。午前中に僕が受けた授業は国語に数学、英語、地理だった。
期待外れとしか言いようがない。
僕は正直「今日の授業は身代わりの術の練習でござる。ニンニン」みたいな授業をするのだと思っていた。。
「忍者は忍ぶ者だからね。現代社会に溶け込むためには普通教育を受けるのは必須だよ」
そういえば、キリちゃん先生もそんなことを言っていた。
でも、それならわざわざこの学園で学ぶ必要は無いんじゃないだろうか。
「安心しなよ。午後からは忍者に関する授業だから」
僕の不満が表情に出ていたのか、斎藤君は安心させるようにそう言った。
それはちょっと楽しみだ。
気になっていたことが明らかになったことだし、お昼ご飯にしよう。
もちろん、お弁当は持っていない。購買はどこだろうか。
「斎藤君、購買ってどこ?」
「購買なら食堂の横にあるよ。僕も食堂に行くつもりだったし、一緒に行く?」
「おお、心の友よ」
「じゃあ、行こうか」
早速、斎藤君について教室を出て食堂に向かう。
僕が編入生だからだろうか、やけに人の視線を感じる。
遂には斎藤君までもが足を止め、僕の方をジッと見つめてきた。
「服部君、反復横跳びで移動するのはやめてくれないかな?」
「なんで?」
「目立つじゃないか」
「大丈夫。いずれ慣れるよ」
実際、中学の時も高校の時も最初こそドン引きされていたが途中からは誰も気にしなくなった。
大事なことは継続することだ。
「そうかもしれないけど……はぁ、まあいいよ」
斎藤君も納得してくれたようだし、よかったよかった。
その後も人の視線をかき集めながら、無事に食堂についた。
食券機で暖かいそばを選択し、おばちゃんに注文する。
流石の僕もそばを待っている間は反復横跳びはしていない。
それにも関わらず、僕に向けられる視線の数は一向に減らない。いや、僕だけじゃない。
注意深く周りを観察すると、視線が向けられているのは僕と斎藤君の二人だ。
なぜだろう。
もしかして、僕がそば、斎藤君がうどんを頼んだから「あの二人は竹馬の友ね!」と驚かれているのだろうか。
「なんか見られてるね。僕らのことを竹馬の友だと思ってるのかな?」
「流石に違うんじゃないかな」
「じゃあ、なんで見られているんだろう」
「それは、僕らが梅クラスだからだよ」
そう呟く斎藤君の表情は苦々しいものだった。
「はい、そばとうどんね」
斎藤君の表情が変わったことについて聞きたかったが、それより先にそばとうどんが出来た。
めん類は放っておくと伸びる危険性が高い。
斎藤君には申し訳ないが、話はあとにしよう。
おばちゃんにお礼してから、斎藤君と共に空いている席を探す。
学園中の生徒が一斉に利用するからか、食堂の中は多くの人で賑わっており、空いている席は殆ど無かった。
「あ、斎藤君あそこ空いてるよ」
「は、服部君そこは……!」
僕が見つけた席は窓際にある四人掛けのテーブル席だった。
一人先約がいるみたいだけど、これ以上空席探しに時間をかけてそばとうどんが伸びるのは避けたい。
「すいません。ここ、空いてますか?」
「どうぞ」
よかった。幸いにも先に席に座っていた黒髪ポニーテールの少女は快く相席を許してくれるようだ。
……ん?
黒髪ポニーテール?
「あ、ナナシさん」
なんとその少女はナナシさんだった。
感動的な再会である。きっとナナシさんも喜んでくれるはず。
「あなたは……ッ」
なぜか睨まれてしまった。
まあ、そういうときもあるだろう。それより今はそばとうどんだ。
「斎藤君、ほら座りなよ」
「あ、ああ」
ぼーっと立ちっぱなしの斎藤君を呼び、ナナシさんと向かいあうように並んで座る。
「いただきます」
手を合わせてそばをひとすすり。
うん。落ち着く味だ。
するするとそばを
そういえば、斎藤君はナナシさんと初対面だった。きっと気まずいのだろう。
ここは二人の共通の友人である僕が橋渡し役を担わなければならない。
「斎藤君、この綺麗な人は僕の友人のナナシさん」
「違います」
「見ての通りちょっぴり照れ屋さんだけど、道案内してくれるいい人なんだ」
「人のイメージを勝手に決めないでください」
僕の紹介が気に食わないのかナナシさんは直ぐに反論してくる。
別に間違った紹介はしていないと思うんだけどなぁ。
「はは、仲がいいんだね」
「え? やっぱりそう見える? もしかして付き合ってるように見えちゃう?」
「冗談でもやめてください。こんな人を小馬鹿にしたような態度の人と仲がいいなど、吐き気がします」
「それは大変だ。酔い止め薬取ってこようか?」
「そういうところが腹立たしいと言っているのです」
残念ながらまだまだナナシさんは僕にツンツンしている。
だけど、斎藤君からすると僕らは仲良しに見えているみたいだし、この調子でナナシさんと良好な関係を続けていきたいところだ。
「ナナシさん、この人は斎藤君。僕のクラスメイトで友人になれそうな人だよ。陽キャなんだ」
「あ、斎藤です。えっと、ナナシさん、でいいのかい?」
恐る恐る斎藤君はナナシさんに問いかける。
ナナシさんはチラリと斎藤君に視線を向けると、表情を崩すことなく口を開く。
「桃井。この学園ではそう呼ばれているので、それでお願いします」
「あ、うん。ごめん」
「いえ、気にしないでください」
なんと、ナナシさんの苗字は桃井だったのか。
これは驚きである。
まあ、僕はこれからもナナシさん呼びさせてもらおう。
「その、余計なお世話かもしれないけど、ナナシ呼びが嫌だったら服部君に伝えた方がいいと思うよ」
「別に気にしていません。なにより……」
ナナシさんが僕に視線を向ける。
もしかして、そばが食べたいのだろうか。
「はい、あーん。あ、間接キスになっちゃうけど大丈夫? ちなみに僕は平気な人」
そばを差し出すが、ナナシさんは何故かため息をつき僕から視線を逸らした。
「バカにはなにを言っても無駄ですから」
「あ、あはは」
む。二人でなんだか仲良さげだ。
まあ、これで多少重苦しい雰囲気も和らいだし結果オーライとしよう。
会話している内に僕もそばを大体食べ終わってしまった。
後は斎藤君がうどんを食べ終えるのを待つだけだ。
そういえば、結局斎藤君の「僕らは梅クラスだから」という発言の真意はなんだったのだろうか。
斎藤君はうどんを食べなきゃだろうし、ここはナナシさんに聞いてみよう。
「ナナシさん、さっきから僕と斎藤君はやけに人から見られるんだけど、斎藤君によるとその理由は僕らが梅クラスだからなんだって。もしかして、梅クラスってスター集団だったりするの?」
ナナシさんは一瞬だけ斎藤君の方に視線を向ける。
その後、持っていた箸を置いた。
「斎藤さんがいる手前、言いにくいのですが、梅クラスは忍びとして大きな欠点を抱えた生徒が集められると言われています」
「桃井さん、僕に気を遣わなくていいよ。服部君にもはっきりと教えた方が今後のためになると思う」
「そうですか。では、遠慮なく」
ナナシさんがゆっくりと顔を上げる。
透き通るようなグレーの瞳が僕を写す。
「梅クラスは、落ちこぼれが集まるクラスです」
淡々とナナシさんは僕に現実を突きつけた。
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