第4話 陽キャの取り巻きはたぶん陽キャ
朝のHRが終わり、キリちゃん先生が教室を出るや否や生徒たちは好き勝手し始めた。
机に突っ伏して寝る人、教室を足早に出ていく人、カバンから弁当を出して食べ始める人、反復横跳びを始める人……あ、最後の僕だ。
「は、服部君? なにをしているんだい?」
反復横跳びしていると斎藤君に話しかけられた。
「日課の反復横跳び」
「君は中学の頃と変わってないね」
そうだろうか。身長も伸びたし、反復横跳びの速度も変わった。
結構変わった気がする。
「それを言うなら斎藤君は……だいぶ変わったね」
「そっか。君にも分かるんだね」
中学時代の斎藤君と言えばキラキラと輝いていて、毎日が希望に溢れているようだった。
周囲にはいつも友達がいたし、斎藤君が体育で何かすれば女子たちから黄色い歓声が沸き上がるくらいにはスーパースターだった。
だけど、今の斎藤君は少し疲れているように見える。
目の下にもクマがあるし、何より今の斎藤君の周囲には僕しか人がいない。
じゃあ、この教室では僕が斎藤君の取り巻きをやるべきなのかもしれない。
えっと、斎藤君の取り巻きってどんな感じだったっけ?
まあ、いっか。ミーハーな感じを出せばきっとそれっぽくなるだろう。
「斎藤っち、もっと元気出せよ。マジタピオカ行く? タピオカ祭りでトックティック祭りバイブスぶち上がりっしょ」
「え……急にど、どうしたんだい?」
なんてことだ。
陽の象徴であった斎藤君がこのノリについて来れないなんて……。
朱に交われば赤くなるという言葉があるが、もしかすると斎藤君はこの学園で忍者という陰の雰囲気に呑まれてしまったのかもしれない。
このままではいけない。
折角、イケメン陽キャな斎藤君の友人ポジで女の子の知り合いを増やそうと思っていたのに、肝心の斎藤君がこれではおしまいだ。
「斎藤君、復唱して」
「え、な、なんで?」
「いいから」
「わ、分かった」
「じゃあ行くよ。ウェーイ」
「ウ、ウェーイ」
「もっとテンション高く」
「ウェーイ!」
「もっと!」
「ウェーイ!!」
「もっと、教室のテンションまでぶち上がるくらい勢いよく!」
「ウェイウェイウェーイ!!!」
素晴らしい。流石は斎藤君だ。
さっきまでの猫背でくたびれた様子が嘘だったかのように眩しい笑顔を浮かべている。
「イェーイ」
「イェーイ!!」
試しに手を挙げてみれば、すかさずハイタッチしてくる。
これだ。これこそ、僕が中学時代に密かに憧れ、ちょっとだけ
このまま斎藤君とバイブスぶち上げタピオカトックティック祭りに突入しようとした時だった。
「うるせーです」
斎藤君の後ろの席で机に突っ伏していた少女が顔を上げて、僕らを睨みつけた。
手入れが不十分なのかぼさぼさしているブロンドのショートヘアで、瞳は灰色だった。
目の下のクマが寝不足であることを証明していた。
「こっちは夜通し作業してたんだから、寝かせやがれです」
「それはごめんね。僕は服部鳶尾、君の名前は?」
「てめーに名乗る名はねーです」
それだけ言い残すとその少女は再び地面に突っ伏して寝息を立て始めた。
「随分と個性的な人だ」
「君に言われたくないと思うよ」
「僕が? いやいや、僕なんてちょっと反復横跳びが好きなだけのどこにでもいる高校生だよ」
「世界中探しても反復横跳びが日課な人は君だけだろうね」
褒めてくれるのは嬉しいが、斎藤君は少し僕を過大評価している気がする。
先日、僕が出会ったお爺さんも僕に会った日から反復横跳びを始めたそうだし、世界にはもっともっと凄い反復横跳びマスターがいるはずだ。
それはさておき、今一番気になるのは斎藤君の後ろの席の少女だ。
「ところで、この人の名前を斎藤君は知ってる?」
「ああ。彼女は
なるほど、分かりやすく言えば得意科目は図工ということか。
今後は由衣さんと呼ばせてもらおう。
丁度いい機会だし、他の三人のクラスメイトも教えてもらおうかな。
「他のクラスメイトのことも教えてくれない?」
「ああ、そうだね。じゃあ、先ずは君の後ろの席でお弁当を食べている生徒は
「おほひふ」
振り返ると、飯斗君は口いっぱいにご飯を詰めながらも挨拶してくれた。
ふくよかな肉体に細めの目。
うん、見た目だけで人を判断するのはよくないけど、飯斗君は多分いい人だ。
親しみを込めてイート君と呼ぼう。
「よろしく、イート君」
イート君に挨拶を終え、次は僕の左後ろにいる少女に視線を向ける。
長い前髪で表情が隠れている生徒だ。
こちらは由衣さんとは対照的に
「彼女は
斎藤君でも知らないのか。
まあ、これからお互いに分かり合っていければいいだろう。
「蠱蝶さん、僕は服部鳶尾。よろしくね」
「ひっ」
笑顔で挨拶したつもりなのだが、怯えられてしまった。
「斎藤君も挨拶してみてよ」
「え。まあいいけど。蠱蝶さん、こんにちは」
「ひいいっ」
うん。斎藤君が挨拶しても怯えているあたり、蠱蝶さんは人づきあいが苦手なのかもしれない。
「斎藤君の方が悲鳴大きかったね」
「それ口に出す必要あった?」
落ち込んでいる斎藤君の肩に優しく手を置いてから、蠱蝶さんの前の席に目を向ける。
HRが終わった途端に教室を出ていった生徒の席だ。
「ああ、その席の人は
「ヤンキーなのかな?」
「うーん、どうだろうね」
僕が自己紹介しているときやキリちゃん先生が話しているときは大人しくしていたから、そこまで悪い人には見えなかったけどな。
そうこうしている内に、チャイムが鳴り先生が教室に入ってきた。
これから授業が始まるみたいだ。
忍者を育成する学園の授業、楽しみだ。
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