第3話 予期せぬ再会
「失礼します。今日からこの学園に編入してきた
職員室に入って自己紹介すると、先生たちの視線が一斉に僕に向けられる。
好意的な視線というよりはこちらを探るような視線だった。
それにしても、忍者を育成する学園という割には普通の格好の人ばかりだ。
眼帯の先生をじーっと見ていると、その先生が席を立ちこちらに近づいてきた。
身長は僕よりも少し高いくらい、細身でアッシュ色の髪が特徴的だ。
美男にも美女にも見える中性的な顔をしているが、身に着けているスーツはレディースのものだから、恐らく女性だろう。
「貴様が編入生か」
「はっ!
「なんだその喋り方は?」
「貴様と呼ばれたので軍曹閣下は軍隊っぽいのがお好みかと思い、変えてみました!」
「不愉快だ。普通にしろ」
「イエス、サー!」
「二度も言わせる気か?」
睨まれたので、敬礼をやめて楽な姿勢にする。
おかしいな。僕が見たインターネットのサイトでは「ノリがいいと人に好かれやすい」と書いてあったんだけど。
ナナシさんにもよく睨まれたし、もしかするとこの学園では「にらみつける」が流行っているのかもしれない。
「私が貴様の所属する梅クラス担任の
「キリちゃん先生ですね」
「は?」
「あ、しずちゃん先生の方がいいですか?」
「舐めているのか?」
「滅相もない。ただ、折角なら先生と仲良くなりたいなと思いまして」
前の学校でも、中学校でも先生と仲のいい生徒は先生にあだ名をつけていた。
きっと、あだ名には人と人の距離を縮める効果があるに違いない。
「……好きにしろ」
「うぇーい。キリちゃん先生、彼氏とかいんの? いなかったら僕が立候補しちゃおっかなー的な――あいたっ」
好きにしろと言われたので、早速キリちゃん先生と仲良くなるべく話しかけてみたのだが、頭をひっぱたかれてしまった。
「好きにしていいのは呼び方だけだ。馴れ馴れしくすることは認めていない」
「すいませんでした」
なるほど。先生はチャラ系は苦手のようだ。
今後は真面目系で付き合っていこう。
「いくぞ、ついてこい」
「はい」
キリちゃん先生の後ろについて廊下を突き進む。
「どこへ行くんですか?」
「貴様らのクラスだ」
「梅クラスでしたっけ?」
「ああ」
梅かあ。
珍しいクラス分けな気がする。梅以外にあるとしたら松と竹だろうか。
「他にクラスはあるんですか?」
「ああ。松クラスと竹クラスがある」
「松竹梅ですか」
「そうだ。貴様らは落ちこぼれ集団ということだな」
その言い方は梅に失礼ではないだろうか。
梅だっていいところはたくさんある。干したら美味しいとか。
「そうですかね。僕は梅にもいいところはあると思いますよ。それこそ、松や竹にも負けないくらい」
少なくとも干して一番美味しいのは梅だ。
花も綺麗だしね。
「ほう。なら、結果で示すんだな」
キリちゃん先生はどこか楽しそうに笑っていた。
結果で示せ? 街頭調査でもしろと言うのだろうか。
するとしたら、なんだろう。
「松と竹と梅、ご飯に一番合うのはどれですか?」とかかな。
それにしても、忍者を育成する学園とはいえ先生から課題を出されるのはどこの学校も同じらしい。
「期限はいつまでですか?」
「一ヶ月以内だ」
思ったよりも猶予があった。
いや、短いか? でも夏休みの自由研究だと思えば適正な期限な気がする。
どちらにせよ、こういう課題には全力で取り組むべきだ。
なんせ、僕は授業料を免除にしてもらっている。
学園内での生活態度が悪いので退学とかになったら洒落にならない。
「頑張ります」
「楽しみにしている」
キリちゃん先生は真面目な生徒が好きな気がするし、ここはしっかりと期待に応えないとな。
「そういえば、一つ気になったんですけど」
「なんだ?」
「忍者を育成する学園の割には普通の格好の人が多いですね」
「当たり前だ。忍者は忍ぶものだ。現代社会に溶け込める格好を選べば、自然とそうなる」
なるほど。
じゃあ、僕らが想像するような忍者の格好って逆に珍しいのかもしれない。
ちょっと着てみたかったんだけどな。かっこいいし。
そうこうしている内に梅と書かれたクラスが見えてきた。
「先に私が入る。貴様は私が指示を出したら入れ。いいな?」
「はい」
僕の返事を聞くと、キリちゃん先生は教室に入っていった。
知り合いが一人もいないのは心細いが……いや、ナナシさんがいた。
そうだ、もしかしたらナナシさんは梅クラスかもしれない。そう思うとちょっと心が軽くなってきた。
暫くすると、キリちゃん先生の「入れ」という声が聞こえてきた。
深呼吸を一度してから、扉を開け教室に足を踏み入れる。
神様どうかナナシさんと同じクラスにしてください。それが無理ならナナシさんの知り合いとかナナシさんの友達とか、ナナシさんとなんらかの繋がりがある人がいるクラスであってくださいお願いします。
「失礼します」
教室内にはたったの五人しか生徒がいなかった。
少人数学級というやつだろうか。
皆、共通の制服に身を包んでおりどこからどう見ても普通の高校生だ。
ただ、残念ながらナナシさんの姿は無かった。
気を取り直して、顔を上げ自己紹介をする。
「編入生の服部鳶尾です。趣味は反復横跳び、特技は反復横跳びです。よろしくお願いします」
空気は微妙。
拍手の音は聞こえるがその数は少ない。
流石に僕でも分かる。失敗とまではいかないが、成功とも言い切れないだろう。
「は、反復横跳びって……まさか、あの服部か?」
肩を落としていると、ポツリと聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
顔を上げると、そこには茶髪の整った顔立ちをした爽やかなイケメンがいた。
えっと、彼は確か……。
「
ああ、そうだ。斎藤君だ。
中学で同じクラスだったから覚えているんだ。
「服部、貴様の席は斎藤の隣だ」
「えっ」
「なんだ? 文句があるのか?」
「いえ、なんでもないです」
本音を言えば、編入して女の子と隣の席になる、なんてアニメのような展開を期待していた。
まあ、現実はこんなものだよね。
寧ろ、知り合いなだけありがたい。
空いている斎藤君の隣に座る。
「久しぶり、斎藤君」
「あ、ああ。久しぶりだね、服部君。これからよろしく」
「よろしくね。ところで、斎藤君は
「は、はは」
僕の渾身のギャグに対する斎藤君の反応は引きつった笑みだった。
忍者要素を上手く絡めた革命的なギャグだと思ったのだが、斎藤君にはうけなかったらしい。
「服部、私語は
「すいません」
おっと、キリちゃん先生に
やっぱりキリちゃん先生は真面目な人が好きみたいだ。
斎藤君との会話は後でするとして、身体をキリちゃん先生の方に向けて話を聞こう。
「さて、本日から貴様らも第二学年だ。知っての通り、この学園では一流の忍を育成している。だが、一向に減らない依頼主の老害どもに比べ、忍の数は年々減少しており、万年人手不足だ。そのため、二年生、三年生には学生だろうと関係なく任務に当たってもらう」
「はい」
「なんだ服部?」
「拒否権はありますか?」
「ない」
なんてこった。
これから忍者を目指す若者たちとの刺激的で胸が
僕はまだ
「ちなみに、手裏剣は使いますか?」
「時と場合によるが、今時手裏剣を好んで使う物好きは滅多にいない」
な、なんだって。
忍者と言えば手裏剣なのに、手裏剣を使わないなんてことがあるのか……?
僕がショックのあまり固まっている間にもキリちゃん先生は話を続けていく。
よく覚えていないけど、任務があるときは呼び出されるというところだけは聞き取れた。
まあ、でも僕は編入生だ。
おまけについ先日まで反復横跳びがちょっと得意などこにでもいる普通の高校生だった。
そんな僕にいきなり任務が来るなんて、そんなアニメのようなことあるわけが――。
「ああ、それと服部。貴様には
――これなんてアニメ?
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