第24話 放課後の図書室
今日は12月24日
文月は赤羽と養護施設へ出かけた。
「何の本を読み聞かせるんですか?」
私は赤羽君の問いに、フフーンと鞄にしまっている本を取り出した。
「これよ!」
文月の取り出した本はサンタクロースが主役の絵本。
「クリスマスにぴったりですね」
赤羽はなるほどと目を丸くして頷く。
◇◇◇
養護施設に入ると、子どもたちは笑顔で出迎えてくれた。
赤羽君は意外にも子どもたちの扱いに慣れていて、読み聞かせも難なくこなしていた。
本の読み聞かせが終わって、施設の人にお礼を言われる。
「今日はありがとうございました。」
「また、伺います。」
文月と赤羽はお辞儀をして施設を後にする。
◇◇◇
帰り道
「赤羽君。子ども好きなの?」
「まあ、好きですよ」
文月の微笑みに赤羽は照れ臭さで話を返した。
「そんなことより、文月さん明日クリスマスですよね。牧野さんとデートですか?」
葉月の指摘に文月は顔を真っ赤にさせる。
「図星ですね」
クスクスと笑う赤羽君。
「もう!」
彼とこんな風に話せる日が来るとは思わなかったな。
文月は穏やかに微笑む。
◇◇◇
翌日のクリスマス
ピンクの毛糸の帽子をかぶる。
いつものお下げを下ろして、白のニットとベージュのロングスカート。
「行ってきます」
今日は佐々木公園で葉月とお昼に、待ち合わせをしている。
雪が降りそうなので折り畳み傘を鞄に入れる。
◇◇◇
佐々木公園に到着すると、葉月は既にいた。
「お待たせ!葉月」
「文月、僕も今、来たところだよ」
葉月は青いマフラーをして、紺のコートを着ている。
目を丸くしている。
「葉月?」
葉月は口を手で抑えて頬を染める。
「いや、可愛いなと思って」
私は微笑んでから葉月の手を握った。
「行こう?」
◇◇◇
代々木公園には季節の花が咲いていた。
植物好きな葉月と、公園巡りはデートの定番になっている。
(私は葉月が目をキラキラと輝かせて、好きなことを語っている顔を見るのが好きだ。)
冬の時期には白の水仙だ。
「文月、白の水仙の花言葉知ってる?」
「知らない」
葉月がそれはねと口を開いた瞬間、背後から声をかけられた。
「牧野君、藤倉さん!」
そこにいたのは、かつて葉月が助けたことのある元クラスメイト。
竹本豊だった。
◇◇◇
「竹本君?」
「何でここに」
私と葉月は驚く。
竹本は短髪にそろえ今は公園の掃除のバイトをしながら、通信教育を受けているとのことだ。
「この前、街で見かけてあの時のことを、謝らないといけないと思ったんだ。」
クラスの中心人物に苛めを受けてた竹本を救った葉月、そこから苛めのターゲットが葉月に向かって不登校になったのである。
「君は僕を助けてくれたのに、僕は逃げるように学校を辞めた。本当にゴメン」
「葉月...」
私が葉月の顔を見る。穏やかな表情だ。
「顔をあげてよ。竹本君。僕はあの事があって学校に優しい居場所を作っていけたんだ。」
行こう文月と声をかけられる。
葉月が足を進めると、竹本が声をかけられた。
「藤倉さん。牧野君はすごいね。尊敬しちゃうよ」
その瞳からは憧れの眼差しが感じ取れた。
◇◇◇
佐々木公園を出てから、お近場のカフェに入る。
サンドイッチやドリンクを注文してから、
「それにしても、竹本君に会ったのはびっくりしたな。」
葉月が口を開く。
「そうね。葉月、白の水仙の花言葉を言いかけたわよね?あれ何だったの?」
よくぞ聞いてくれましたとばかりの顔をする。
「尊敬だよ」
尊敬の言葉に先ほど竹本君が言っていたことを思い出す。
「今日会えたのは運命だったのかも知れないわね」
葉月はそうだと思い出すように、鞄の中からクリスマスプレゼントを取り出す。
「文月にクリスマスプレゼント渡すね」
「ありがとう。開けてもいい?」
包装紙を丁寧に開けると、綺麗な緑色のボールペンだった。
私はニコッと微笑む。
「大事に使うわ。葉月」
私からもプレゼントがあるの。
包装されている一冊の本を手渡す。
葉月は感嘆の声をあげた。
「これは海外の植物図鑑だ。ありがとう。文月」
幸せな表情の葉月を見て、私たちこうやって、好きなことを共有して隣を歩いていけたらいいなと思った。
窓を見ると雪が舞いおちている。
ホワイトクリスマスだ。
◇◇◇
エピローグ
冬休みが終わり、3学期が始まって間もなくの頃。
文月は図書委員の仕事で、放課後の図書室にいた。生徒たちの本の貸し借り。葉月からもらったペンで名前を記入していく。
大人しそうな女子生徒が入ってきた。
「まだ、時間がありますか?」
不安そうな瞳に文月は笑ってこたえた。
「もちろん」
そう言うと女子生徒は頬を綻ばせて、図書室に入って本を探していった。
放課後の図書室
様々な本との出会いがあるように、言葉が繋がれて人との絆が紡がれていく。
これは本を愛した私の青春の物語だ。
◇◇◇
10年後
高校時代のお下げの髪から、眼鏡をかけて、ハーフに髪をまとめている。
私は物語のプロットを高校時代に夫から、もらったペンで記していく。
「ママ、お腹すいた」
4歳の娘が甘えてきた。
「そうね。ご飯にしましょうか」
リビングにつくと、ドアがガチャリと開けられた。
「ただいま」
娘がパパだと走っていく。
私は後に続く。
「おかえり、パパ」
「ただいま、歩」
娘をハグする夫。
植物採集から帰宅した夫を出迎える。
「おかえり。あなた。植物採集は収穫あった?」
「うん。君と交わした夢を叶えられる日が着々と近づいているよ。」
彼が集めた植物採集をまとめて私が本にして、出版する。
二人の夢だ。
目を輝かせる夫は私の頬にかるく口付けた。
「私、高校時代の自伝を書こうと思うの。今プロットを作成してるんだ」
彼は微笑んで私に問う。
「タイトルは?」
『放課後の図書室』
おしまい
放課後の図書室 Rie🌸 @gintae
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