第17話 雪の日の追憶

赤羽裕斗は思い出していた。

あの雪の日の出来事。

僕は中3の時に母親をカウンセラーに連れて行った。

待合室で座っていると、自分と同い年くらいの少年が母親と友だちに付き添われて入ってきた。



母親にも友だちにも心配されてるのに、それを分からないんだろうかと思った。

少年に拒絶されて帰っていく少女の後ろ姿は、寂しそうに見えた。


「牧野さんお入りください」

先ほどの少年が診察に入って行く。

母の敦子は髪がボサボサで力なく笑った



「赤羽さんお入りください」

母と一緒に診察室に入ると、担当したのは女性の医師だった。

敦子はその顔を見て驚愕した。

医師の方も目を丸くした。


「アンタ!!あの人をどこにやったの」

掴みかかる母親を僕は止めていた。

「どうしたんだよ?母さん!」


「この女が私から夫を悠斗から父さんを奪ったのよ!」

発狂する母。

僕は片山春というネームプレートをつけている医師を信じられない瞳で見た。


「確かに私はあなたの夫となる人と結ばれましたけど、私自身が頼んだことは一度もありません。彼が選んだことです。」

毅然とした態度で告げられて、直も掴みにかかろうとする母を抑えこむ。


「先生!大丈夫ですか?」

間に入ってきたのは葉月と呼ばれた少年。

その目には生気が宿っている。



僕は母を落ち着かせて、一緒に自宅へと帰った。

リビングに座ると独り言のように呟く。


「そうよ。私も男を頼ればいいのよね」

その表情はゾクリとするような笑い方で、僕は思わず尋ねる。

「母さん?」


「安心しなさい。祐斗に苦労はかけないわ」


こうして母は複数の男と関係を持つようになっていった。

僕は母親が男を連れてくる家にいるのが苦しくなって、それに反抗するかのように複数の女性と関係を持つようになっていった。

(血は争えないって奴だな。)


だけど、むなしさだけは心に残っていた。


放課後の図書室で暇潰しをしていた時、彼女に出会った。

大切に本に触れて愛しげにページをめくる彼女に惹かれた。

自分も本を読んで見ようと思うようになった。


文月の姿を思い浮かべる。

◇◇◇


放課後

祐斗は図書室へと向かった。


彼女の隣にいたのは、あの日。カウンセラーで出会った少年で、あの時の言葉で学校に居場所が出来るようになっていた。


その事に自分でもびっくりするようなもやもやとした感情に支配されていた。

(何で君だけが上手く行くんだ)


図書室は2年生の教室のある階にある。

「祐斗君!」

名前を呼ばれて振り帰るとそこにいたのは、自分のいとこである真由であった。

「真由ちゃん?」

「話があるの。」

真由は真剣な顔で祐斗と対峙した。



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