第12話 迷子の子ども
銀杏並木
人々が歩く足音
秋の匂い。
(キスをされて..る)
何が起きてるか思考停止しかけた意識が覚醒すると、文月は祐斗のバンと胸を押し返した。
「止めて!」
涙目になりながら文月は声をあげた。
祐斗は薄く微笑む。
「文月さん..今日は楽しかったです。また、放課後の図書室に行きますね。その時、今日読んだ本の答えを聞かせてください。」
踵を返す祐斗はその場を去っていく。
「文月ちゃん!!」
後ろから呼ばれて振り返る。
「真由ちゃん?ど、うして」
私は疑問を口にしてから、横にいる葉月に気がついた。
呆然としている葉月の表情に、祐斗にキスされているところを見られていたことに気づいて、頬が赤くなって口元を抑えた。
「これは違うのよ。葉月!」
あとから園芸部の後輩の香取奈歩と月島瑠衣が合流して、一同は近くのファミレスに入ることになる。
それぞれドリンクバーを注文する。
文月は今日の事情を説明すると、悠人のいとこの真由が両手をパチンと叩いて、頭を下げる。
「ごめん。文月ちゃん、祐斗君のせいで」
「真由ちゃんが謝ることじゃないわ。」
葉月は冷静さを取り戻して尋ねる。
「赤羽君って文月のことが好きってことだよね?」
その言葉に奈歩も瑠衣も頷く。
「そうだと思うよね。瑠衣君」
「だけど、赤羽が強引になるようなトリガーがあったのかもしれない」
瑠衣の考えに葉月は文月に問う。
「文月、心当たりとかある?」
「全く」
私は首を振る。
「だけど...あの子。本当に私のこと好きなのかしら」
文月がポツリともらした言葉に真由は驚く。
「何言ってるの?文月ちゃん、キスされたんでしょ」
「そう...だけど..」
キスされる瞬間に見えた瞳が、母親に置いてきぼりにされた迷子の子どものように思えたの。
◇◇◇
ファミレスから出た5人
「私たちは赤羽君の様子、学校で探ってみます。」
奈歩が話すと瑠衣も続ける。
「同学年ですから」
それじゃと歩く二人を見送る。
「奈歩ちゃんも月島君もありがとう」
声をかける葉月。
文月は加恋が言っていた葉月と奈歩のことが気になっていたが聞けないでいる。
「私も家に帰って祐斗君の家庭のこと聞いてみる。」
「真由ちゃんありがとう」
「浅野さん付き合わせてごめん」
真由は微かな胸の痛みを感じる。
この二人は悔しいくらいにお似合いなんだ。
「何言ってるの。友だちでしょ」
◇◇◇
夕日がオレンジ色に輝いている。
皆が帰ったあと葉月が私に問いかける。
「文月...これから僕とデートしようか?」
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