第9話 デート

日曜日

私服は白いブラウスにベージュのロングスカート。肌寒くなってきたから紺のジャケットを羽織って黒のバッグを肩にかけて家を出る。

髪型はトレードマークになっている三つ編みだ。

上野駅に到着すると、赤のチェックのポロシャツに青いジーンズで待ってる赤羽祐斗がいた。


「こんにちは。文月さん私服も素敵ですね。」

彼に熱のこもった瞳で見つめられて、咄嗟に顔を逸らしてしまった。慌てて文月は話を切り出した。

「ありがとう。赤羽君。真由ちゃんはまだかしら?」

腕時計を見ると、11時を過ぎている。

「真由ちゃんは体調が悪くなったらしくて、今回はパスって」

「そうなの?大丈夫かしら」

悠人の言葉に文月は真由を心配する。


「だから、映画はまた今度にしましょう。」

悠人の提案に私は同意するように頷く。


(せっかくだし、上野の本屋でも行こうかしら)

「それじゃ、赤羽君。」

またと口に出そうとした所で、手首をパシッと掴まれた。

「文月さん。このまま帰るのもなんですし、僕と付き合ってくれませんか?」

ニコと笑う悠人、その言葉に目を丸くする文月。

(それってデートじゃない)

葉月の顔が浮かんで私は頬を赤らめる。

◇◇◇


その頃、上野動物園にデートに来ていた。

「動物たち可愛かったね。瑠衣君」

「うん。楽しんでもらえて良かった」

満面の笑顔を見せる奈歩。


彼女は僕が幼いころ、虐待を受けた両親から逃げる際に倒れた時に助けられた。

『いたいのいたいの飛んでけ』


傷痕に触れて、子どもの頃の奈歩は僕に言ってくれた。

高校で再会した時は運命かと思った。

疎遠になって一時、仲が険悪した弟と再び向き合うことが出来たのも彼女のおかげだ。


そっと手を繋ぐと奈歩は顔が赤くなる。

「そろそろお昼にしようか?」

「うん」


僕はジーンズに黒のTシャツ。奈歩は黄色のワンピースだ。


動物園を出た所で奈歩は何かに気づいたように声をあげる。

「あの人」

「どうしたの?」


(部長の幼なじみの藤倉さんと、隣のクラスの赤羽...?)

人混みで見にくいが手を繋いでるように見える。

デートかと予想をつける。

部長が早く告白しないから。

奈歩を見ると悩ましげな顔をしていた。


「藤倉さん何だか困ってるように見えたの」

「!」


僕はポケットのスマホに手を取る。

「瑠衣君?」

「部長に連絡入れようと思ってね」

僕は奈歩に笑みを浮かべた。


◇◇◇


瑠衣が葉月に連絡を入れる少し前に遡る。

葉月は近所を散歩していた。

(今日、文月は彼といるのか。赤羽...悠人。どこかで会ったような気がするけど)

曲がり角をまがると、犬を散歩していた真由と遭遇する。

「え、浅野さん!?」

驚きのあまりに声をあげる葉月

びっくりする真由

「牧野君どうしたの?」

彼女はピンクのトレーナーに長ズボンを履いていた。

葉月は自分のポケットで、鳴り響くスマホを手に持った。

液晶画面には月島瑠衣の文字。


この日のことを僕は一生忘れないだろう。


◇◇◇


悠人は文月の手首を掴んだまま歩く。


半ば強引に引っ張られて私は困惑した。

「赤羽君、ちょっと何処へ行くの?」

「ついてからのお楽しみです」



続く

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