第8話 恋の自覚は突然に

 帰りの電車内、僕は文月と隣同士に座る。

肩がトンと触れるだけども心臓がドキドキと動いてしまう。

意識してない時は普通に出来たことだ。

(落ち着け。僕!)

呼吸を整えたあとに話を切り出す。

「そう言えば、文月、昼休みに彼と何話していたの?」

彼の言葉で赤羽祐斗のことであると文月は察する。

「日曜日に映画見に行かないかって、誘われたのよ」

その言葉に僕は掠れたような声で尋ねる。

「それってデート?」

文月は目を丸くする。

ぷっと吹き出して笑う葉月

「まさか、真由ちゃんも一緒よ。アニメの映画を観に行くの」

その言葉にホッと息をつく。

「そうなんだ。」

二人で他愛ないお喋りをしてから、その日は帰路についた。

◇◇◇


土曜日は文芸部の活動で図書室にいた。

後輩の宮沢加恋は夏休み前は、ポニーテールであったが今の髪型はボブだ。

(園芸部の香取さんに似てる)

相変わらず略奪愛や不倫関係の本ばかり読んでるわね。

夏休み前に起きたことは知っている。

彼女が月島君と香取さんの関係に嫉妬して、香取さんを資料室に閉じ込めたこと。

恋は人を狂わせる。

行いは褒められたものではないけど、そこまでの恋をしたことがない私はちょっぴり羨ましく思ったのだ。

「何ですか?文月先輩」

「ううん、何でもないわ。加恋ちゃん」


学校の文芸誌に載せる題材の本を選んで、文芸部の今日の活動はおしまいになった。

お昼までなので、今日は加恋ちゃんとスタバに入る。季節にあった新作メニューを頼んで、注文したコーヒーを飲んだ。

「こういう場所で、ゆっくり読書タイムは至福よね」

文月は笑顔で語りかける。

「はい」

加恋は同意するように頷いた。


「先輩は園芸部の部長と付き合ってるんですか?」

直球の質問に文月に目を丸くした。

「違うわよ。彼とは幼なじみ。どうしてそんなことを聞くの?」

「だって先輩、園芸部の部長が視界に入ると目でおってますよ。好きな人のことは見つめていたいと言うじゃないですか?」

「そう...かしら」

私が葉月のことを...幼少期から今までの葉月の笑顔が浮かぶ。

私は葉月に恋してるのー...

顔がかあっと熱くなる。

「でも、あの部長さん夏休み前に奈歩と佐々木公園でデートしてたんですよ。だから、略奪のチャンスが私にもあるかと思って」

私は動揺をする心を悟られないように、彼女の話に相づちをうつのに精一杯だった。


◇◇◇

帰宅後

眼鏡を外して机の上に置く。

自分の部屋のベッドで寝転ぶ文月。


(葉月...)


ぴろりんとLINEが鳴る。

友達申請が届く。

赤羽悠人からだった。


《真由ちゃんから教えてもらいました。

赤羽祐斗です。

文月さん明日は11時に上野の映画館でいいですか?》

正直、映画を観に行く気分ではなかったけど、パンダの了解のスタンプだけ押して送信した。


◇◇◇

赤羽悠人の部屋

『うん。ごめんね。日曜日は予定が入ってしまって。真由ちゃん、映画は来週にしてもらっていい?文月さんには僕から送っておくよ』

『そういうことなら仕方ないわね。分かったわ。祐斗君』


スマホの電話を切って机に置く。

ネクタイを程いた祐斗はフッと笑みを浮かべた。




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