第7話 恋だろう?

翌日の昼休みのことである。

文月と真由は食堂に行く。


「私はペペロンチーノ。真由ちゃんは?」

「ハヤシライス」

2人は席について、手を合わせる。

『いただきます。』


私はフォークでパスタをくるくると巻いて、口に含んだ。

「美味しい」

真由ちゃんも同様の表情だ。


「真由ちゃん、祐斗君は年上の彼女とかいるの?」

昨日年上の女性と一緒にいたから気になって尋ねた。

「文月ちゃん。祐斗君が気になるの?牧野君とはどうなってるの?」

少女漫画も好きな真由は興味津々だ。

「葉月は幼なじみよ」

頬が赤らむ。本当に?と文月に聞く真由。


窓を見ると校舎の花壇で園芸部の3人が、水やりをしている。

葉月の生き生きとした表情を見ると、園芸部がもう一度、学校へ行こうと思えた優しい居場所なんだなと思う。


高1の時、イジメに会って不登校になった葉月を見てることしか出来なかった私。

文月は暗い気持ちを引きずられないように、真由の顔を見て答えを待つ。


「中3の時からいろんな彼女と付き合ってたのよね。年上もいたみたい」

呆れたような口調で話す。

「そ...う」

「でも、仕方ないのよね。

悠人君の家庭も複雑だから...」


それって、質問しようとする前に声をかけられた。

「ご一緒していいかな」

すると隣に座る人物が塩ラーメンをトレイに、のせて席についた。


赤みがかった茶髪。ネクタイを緩くゆるめていた。赤羽祐斗である。


「祐斗君、文月ちゃんが年上の女の人といたって。彼女なの?」

おさげの髪の真由は童顔だが直球に尋ねた。

「昨日呼ばれた気がしたんだ。彼女じゃない。友だちだよ。文月さん」

ニコッと微笑む。

「さん....」

目が点になる。

そう言えば彼に名前を呼ばれたのは初めてだ。


「今度の日曜日、僕らで映画観に行かない?」

「映画?」

「うん、100憶超えのアニメ映画」

真由はキラキラした眼差しで頷く。


「勿論行くわ!真由ちゃんも行こうよ。いいよね。祐斗君」

「もちろん」

意味深に微笑む悠人

◇◇◇


葉月は校舎の花壇から、文月と祐斗が話してる様子を目撃した。

「部長?」

奈歩が声をかけるも返事がない。

「しっ」

瑠偉が人差し指を唇に寄せる。

「部長が自分で動き出すまで待とう。」

奈歩は瞼を閉じる。

(恋は動かないと愛にはならない。私も瑠偉君と出会って恋を知った。部長の場合、あまりにも近くて恋と気づいてないだけなんじゃないかな)


◇◇◇

午後の授業は国語だ。

私と葉月と真由ちゃんで、源氏物語の葵の上についてのレポートをまとめて提出した。

キンコンカンコンとチャイムが鳴る。

加藤先生が、今日の授業はここまでと言ってから教室を出ていった。

葉月は先生の後をおって教室を出ていく。

私と目があったけど、反らされてしまった。

(どうしたのかしら。)


◇◇◇

「先生待ってください。相談があるんです。」

階段を下りようとした加藤が振り向く。

「園芸部のことか?」

白衣に紺のネクタイ。天然パーマの髪をわしゃわしゃとかきむしる。

「いや、違います。その...今まで当たり前のように近くにいた女性のことが気になるってどういう気持ちなんでしょう。その人と話してる異性にまで靄がかかったような感情になってるんです。」

葉月の言葉に加藤は目を丸くした。

その後、大きなため息をついた。

『そりゃ...恋だろう?』

その言葉で僕は本を読みながら微笑む文月が浮かぶ。


「恋...」

放心してしまう。

僕が文月に...

「で、相手は香取か?」

「奈歩ちゃんは恋とは違う感情です。」

彼女と亡くなった姉の奈津さんが育てた植物の写真に僕は救われたから...


「じゃあ、藤」

加藤先生が廊下で文月の名前を出そうとするので両手で口元を覆った。

「しー!」

ぷっと吹き出しそうな加藤の顔に、葉月は眉間に皺を寄せた。


「まあ、葵の上のレポートだよ。牧野。」

真面目な表情で話す加藤。

「え?」

「大切な人がいるなら、素直になれってことだ。手の届かない場所に行ってしまってからじゃ遅いぜ?」

加藤先生は奈歩ちゃんの姉である奈津さんの恋人だった。切なげに揺れる瞳に僕は何も言えなかった。


帰り道

夕方の校舎

図書委員が終わった文月に声をかけられた。

「葉月、一緒に帰ろう?」

窓が開けてあって、ふわりとお下げにしてる三編みがゆれた。

「うん。待ってるよ。文月」

僕は口角をあげて答える。


この心地よい関係を壊したくない。

僕だけの特別な時間だから....



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