第2話
『
――― 山田
日本橋の一角で、父子家庭の父親が子ども二人を殺害し、割腹自殺をした。
現場は閑静な住宅街で、保護者の教育熱も高い小学校があることでも有名だった。
自殺した男性は酒に酔うと、知人によくこう漏らしていたという。
「僕はずっと前から、社会人としてではなく武人として死にたいと思っていた」
自ら腹を裂いた現場には、遺書ではなく、辞世の句が詠まれていたという。
近隣の住人の話では、仲の良い三つ子がとても印象的だったという。だが、その末娘が一人、先月に自殺。その生涯を14歳で閉じてしまった。この家族にいったい何があったのだろうか――。
一ノ瀬
その時、季依の携帯が振動した。画面を見ると知らない番号からの着信だった。ふと客以外はすべて無視するようにしている。相手をするだけ時間の無駄だからだ。それに、思わぬトラブルに巻き込まれたりもする。そうだ、出勤前にコンビニに寄っておこう。今月の運勢を確認しとかなきゃ。
駅から北へと歩き、右に曲がった。少し歩けば、コンビニが左手に見えてきた。クリスマスシーズンらしい装飾がされている。季依は、自動ドアを開いた。入り口付近に 新年のカレンダーが並べられている。息を吸い込む音が聞こえた。
――なんだろう?と店内を見渡すと、中学生らしき 少年が驚いた顔をみせた。
瞬きをしている間には、もう、その少年の姿はなかった。
ふと脳裏に浮かぶことがあった。昨日のことだ。新宿三丁目にあるバーにいた。カウンター席にひとりで座りながら、ビールを飲んでいたのだった。隣には40代後半ぐらいの男性客がいたような気がするが、はっきりとは思い出せない。何か重要な話をしていたような気もするし、しなかったような気もする。曖昧な記憶だった。
モヤモヤとする中、季依はいつものように店に出勤して、お客さんに笑顔を向けながら接客をしていた。店は歌舞伎町にあり、中堅どころといったようなキャバクラだ。
先日から冬休みに入った学生や海外からの旅行客で賑わっているのではないかと期待をしていたが、何故か客が少なかったため、少し暇を持て余していた。今月の運勢、なんて書いてあったけぇ…。
季依はため息をつきながら、店の入り口を見る。誰かが階段を下りてくる音がした。キャバ嬢たちが男性を値踏みしている。そこには見知った顔があった。
「あっ、健斗さん! こんばんは!」
健斗の姿を見るなり明るい表情で声をかけた。そしてそのまま続けて言った。
「もしかして、杉下さんも来るんですか?」
「うん。まぁね」
「わぁ! じゃあ楽しみに待ってますね!」
季依は笑顔で喜んだ様子を見せた。だが、すぐにハッとした様子で申し訳なさそうな表情に変わった。
「あ……す、すみません……! 勝手に盛り上がっちゃって……!」
そんな彼女の姿を見た健斗は思わず笑みを浮かべてしまった。すると、それを見ていた季依はますます恥ずかしくなったようで慌てて言葉を紡いだ。
「いやっ……! べ、別に謝るほどじゃないですよね……! ただ、その……私の好きなお店を好きになってくれて嬉しいなって思っただけで……」
季依は顔を赤く染めながら必死に取り繕うとした。だが、そんな彼女の姿を見て更に愛おしさが増した健斗は嬉しそうに笑いつつ返した。
「幸せってのは、独り占めするよりもシェアした方が長く続くんだぜ」
「そ、そうですか……えへへ」
季依は思わず照れてしまい、それを隠すように俯いた。だが健斗はそれを見逃さず、彼女の顔を覗き込んだ。そして、優しく微笑みかけると季依が顔を上げた瞬間にキスをしてきたのだ。すると季依は驚きながらも抵抗することなく受け入れていた。
「いい女の条件って知ってるかい?」
季依が首を横に振る。「それは、俺が “いい女” と思うか どうかだ」と 健斗は からかうように言った。季依はさらに顔を赤く染めて恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに笑みを見せた。その姿にますます愛しさを感じた彼は再び唇を重ねると今度は舌を入れて濃厚なキスをしてきた。
それに対しても嫌がるような反応は見せず、むしろ自分から求めるように腕を彼の背中に回して積極的に舌を絡めてきたのだ。そんな姿に満足した様子の彼は一旦口を離すと囁くように言った。
「今夜は覚悟しておいて。たっぷりと可愛がってあげるから……」
その言葉を聞いた瞬間、季依の鼓動が高鳴り始めた。そして、期待に満ちた表情を浮かべると無言でゆっくりと首を縦に振ったのだった……。
―――
『カクヨムコン9』に応募する予定の小説です。タイトルも内容もラフ状態なので、いろいろと変更をしそうですが、完結に向けて頑張ります(´▽`)
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