第17話 死者の都
バキバキバキッ!!!
木々をなぎ倒し、迫る粘液の塊。
それらは捕食するように動植物を呑み込んで、逃げる私たちに迫っていた。
「ど、どうしましょう!?もうすぐそこまで来てますよ!?」
「しゃべる暇があるなら足を動かして!あれに摑まれたらさすがに私でも助けられないよ!」
「は、はい!」
私たちは逃げながら、どうしてこうなったのか回想する。
△▼△
「まずはリーリアの魔導書を直しに行こうか」
私はリーリアの破けた魔導書を眺めながら言った。
「え!?直せるんですか!?」
「うん」
私は頷いて、西の方角を指さした。
「ここから西に行くと、ユグドラシルへ着く。そこに行けば、魔導書を直してもらえるよ」
「そうなんですね。よかった……」
そんなことを話していると、「ん?」とリーリアは足を止めた。
「あれなんでしょう?」
「ん?」
私はリーリアの指さした方向を見る。
動物の死骸に張り付く粘液。
それは金色に輝いていた。
――あれはまさか……!
「リーリア逃げるよ!」
「え!?」
「あれはキングスライムだ!」
粘液が私たちに気づくと、広がって襲いかかってきた。
▲▽▲
スライム
体はドロドロの粘液のような魔物。
核を潰さなければ死なない不死性を持つが、その戦闘能力は低く、初心者向けの低級の魔物だ。
「でも、金色に輝くスライム……キングスライムは別だ。金色の体はダイヤモンドよりも固く、ちょっとやそこらの斬撃や魔法では通らない厄介な魔物だ」
「じゃ、じゃあ、凍らせて無力化とかできないんですか!?」
私の説明を聞いたリーリアは息を切らしながらそう質問する。
「できればいいんだけどね」
「『コールド』!」
パキィィン
スライムの身が凍り付き、動きを停止した。
「や、やった!これなら……」
リーリアは安堵の声を上げる。
が、すぐにそれが間違いであることに気づいた。
バキバキバキ!!!
スライムは自らの身を破壊しながら脱出した。
体が割れるがその身を再生させ、再び行進を再開した。
「スライムは凍っても意識を失わない。しかも、核が無事なら再生するから自分ごと氷を割るのも
「な、なにか手段はないんですか!?」
「あの鋼鉄の体を貫ける火力出せばイケる。でも、そうすれば森に燃え移って大惨事だ」
「でもこのままじゃ追いつかれ……」
リーリアはそこまで言って、進行方向を見て絶句する。
いや、進行方向は間違いか。
だって目の前は崖なんだから。
「ど。どうしましょう!?」
「そんなん決まってるでしょ」
手をつなぐ。
「飛び降りるよ」
「え?」
私たちは逃げ切るため、崖に落下した。
「ああああああああああ!!!!!!」
▲▽▲
「リーリア大丈夫?」
「は、はいぃ……」
上を見上げるがスライムは追ってこなかった。
ホッ、と胸をおろしつつも、当初私たちが考えていた侵攻ルートから外れたのは事実だ。
「私たちの現在位置を把握しなきゃね。とりあえず高台へ行こう」
「ま、待ってください……」
「ん?」
「こ、腰が抜けました……」
「…………」
ハァ、まったくこの子は。
「ほら立って」
私はリーリアの手を掴み、立たせる。
「あ、ありがとうございます……」
「それじゃここをまっすぐ進んでみようか」
▲▽▲
高台を目指し、森の中を進んでいく。
その中で、気が付いたことがあった。
「なんか、霧が濃いな」
周囲を取り囲む霧はさらに濃くなり、日の光さえも塞いだ。
魔力を含んだ霧なのか、魔力感知がうまくいかない。
「ど、どこでしょうか。ここ……」
「分からない。とりあえずもう少し進んでみよう」
私たちは霧の中を進んでいく。
とはいったものの、日の光は見えず、辺りは木々しかないためどこを歩いているのか検討もつかない。
幸運なことに魔物の気配はなかったが、人に出会うこともなく、ジワジワと体力が削られていった。
焦りで思考が支配されそうになったその時、森の中で、街らしきものを見つけた。
「こんなところに街?」
整備されていないのか、森に浸食されている。
しかし、人の気配はした。
「入ってみようか」
▲▽▲
街に近づいたが、門には見張りがいなかった。
街中に人はいるが、ふらふらと彷徨っている。
みな生気がなく、なんか青白い。
「なんか、不気味ですね……」
「そうだね」
とはいえここを出てもまた霧の中をさ迷うだけだ。
「とりあえず宿を探してみよう」
「え!?ここに泊まるんですか!?」
「仕方ないでしょ。この霧じゃ外に出るの危険だし」
「わ、分かりました……」
「じゃああの人に聞いてみるから、リーリアはここで待ってて」
私は近くにいる男に話しかけた。
「すみません。ここに宿はないですか――」
突如、男は腕をふりかざした。
「!?」
私はとっさにリーリアのいるところまで下がった。
「いきなり何するんですか!」
「ニ……ニンゲン……イキ、イキテル……」
うわごとのように呟く。
その目には正気どころか生気もなく、あるのはただ、狂気だけだった。
「ニンゲンー!」
男は発狂しながら襲いかかってきた。
――やむおえないか!
「『エクスプロージョン』!」
「こ、殺しちゃったんですか!?」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう。……まあでも安心して。威力は抑えてあるから。多少ケガはしてるだろう……けど……」
煙が晴れる。
男は傷一つなく、ピンピンしていた。
「ハァッ!?」
「アアアアアアッッ!!!」
男の腕が伸び、私の首を掴む。
「カッ……!」
「テティアさん!」
「クッ……この……」
手で触れようとするが、透ける。
掴めない!?
どういうことだ!?こいつ無敵か!?
……いや、待て。もしかしてこいつは。
「ぐぁ……」
考えてる暇はない!
「我が……魔力を糧に……魔を、打ち消せ……『アーク』!」
私の詠唱とともに、手の平が光った。
その光は私の腕を掴んでいたゴーストの腕を完全に消し去る。
「グァァァァァ!」
腕が消えたことで、私の身は自由となった。
「今のうちに逃げるよ!」
リーリアの手を掴む。
「テティアさん手が!」
リーリアは私の焼け焦げた手を見て絶句した。
「今はそれどころじゃないでしょ!さあ走って!」
「は、はい!」
△▼△
「セイジャダ。セイジャダ」
「イキテカエスナ」
街のもの達が私たちを指差し、追ってくる。
「な、なんですかあの人たち」
「あれは恐らくゴーストだ」
「ゴ、ゴースト?」
「肉体を失い彷徨う亡者のことだよ。直接触れられない体、魔法への強い抵抗力……間違いない」
「つまり、この人たちは死んだ人たち……?」
「そう。そして、昇天することもできず、自我をなくして襲いかかってきたんだろう」
「コロセ……コロセ……」
「!?」
前方からもゴーストが来る。
「は、挟まれました!」
私たちは壁際まで追い込まれてしまった。
「逃げられないか」
死ぬかもしれないが、ここは……
「あなたたち!こっちよ!」
声がする。
壁から裂け目を作って伸びてきた手が私の腕を掴んでいた。
どこに通じているのか分からない。
とは言ったものの、このままチンタラしてたら亡者たちに押し潰される。
――腹をくくるか!
「リーリア手を掴んで!」
「は、はい!」
リーリアの手を掴むと同時に引っ張られ、裂け目に飛び込んだ。
一瞬の浮遊感の後洋館の中。
「ここは……」
「私たち、逃げられたんでしょうか?」
「いや、外が霧に覆われたままだ。おそらくここは街のどこかなんだろう」
私は霧に景色を遮られた窓を見てそう告げる。
「ええ。そうよ」
ギイ……
軋む音とともにドアが開かれる。
それは、ドレスを着た女性だった。
ゴーストと同じく青白い半透明だが、その目には理性があった。
「私の名はアンナ。あいつらと同じゴーストよ」
――――――――――――――――――――
「面白い!!」「続きが気になる!!」「これからどうなるの!?」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビュー等、応援よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます