第16話 少女の告白

あの後、村人たちは怪我人の手当、村の復旧作業を始めた。


当然、私も手伝った。


魔法のおかげもあってか、夜には全て終わらせることができた。


「ふう……」


私は息を吐きながらベンチに座った。


「疲れた……」


もう、魔力もあまり残っていない。今日村を出るのは無理だな……。


そう思った時に、


「テティアさん」


声がかかり、ビクッ、と肩が跳ね上がる。


ゆっくりと頭を上げると、声の主は案の定リーリアだった。


「リ、リーリア……」


「すみません。少し言いたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」


リーリアは真面目な顔で言う。


「うん……」


彼女が何を言いたいのか分かっている。


彼女は、怒っているのだろう。


私は彼女の家族を殺した者と同じ魔族なのだから。


どんな呪いの言葉を言われても文句は言えない。


「テティアさん」


リーリアは口を開き、


「私も、あなたの旅に連れていってください!」


と、予想外の言葉が飛び出してきた。


「え?ちょ、まって……え?」


今、リーリアはなんて言った?


連れていって欲しいと言ったのか?


私に?


「や、やっぱりムリですよね……」


「いや、そんなことは……。てゆうかその……怒ってないの?」


「へ?なにをです?」


リーリアはなんのことだかさっぱり、といった顔だった。


「なにってそれは……。私、魔族だったんだよ?あなたの家族を殺したのと同じ……。なにか、思うところがあるんじゃ……。」


「……テティアさん。あなた、ロイ君の話ちゃんと聞いてました?」


ハァ、とリーリアはため息をこぼし、しゃがんだ。


彼女と目と目が合う。


「同じ種族だからって、私の家族の仇とあなたはまったくの別人でしょう。仇を恨むことはあっても、あなたを恨むなんてこと、絶対にしません」


「…………」


この村の人たちは、本当にすごい。


彼女たちは私の力を……私が魔族であることを知っても受け入れてくれている。


「そんなことよりも、あなたが私を連れていってくれるかどうか聞きたいです」


リーリアは再度聞く。


私は少し考えた。


正直、今の彼女では失礼だがお荷物だろう。


とは言ったものの、一人旅は寂しいし、なにより私はもっと彼女と話がしたい。


私は、リーリアと旅がしたい。


だが、その前に一つ聞いておきたいことがあった。


「なんで急に、一緒に行きたいなんて思ったの?」


私の質問に、リーリアは少しうつむいた。


「急……ってわけじゃなくて、もともと心のどこかで思ってたんですよ。けど、あの魔族に負けて……自分の無力を痛感して……私は、もっと強くなりたいと……そのために、あなたに魔法を教わりたいと思ったんです」


「そう……」


「ダメな人間ですよね、私って……。せっかくあなたが自分でやっていけるって言ってくれたのに、結局はあなたの力を頼るなんて……」


リーリアの自嘲に、私はううん、と顔を横に振って言った。


「そんなことないよ。自分が最善だと思う道を選ぶのはけっして悪いことじゃない。強くなるには独学よりも誰かに教わって真似た方がいいと私も思うしね」


「!じゃあ……」


「うん。これからもよろしくね、リーリア」


私は立ち上がり、リーリアに向けて手を差し出した。


「はい!こちらこそよろしくお願いします!」


リーリアはにっこりと笑ってその手を取った。


その笑顔はまるで、天使のようだった。


▲▽▲


次の日の朝


リーリアは村にある小さな墓場を訪れた。


リーリアは歩いて、4つの墓石の前に足を止めた。


それらには彼女の父、母、姉、ザラの名が刻まれていた。


リーリアはしゃがんで、その顔に小さな笑みを作った。


「お父さん、お母さん、お姉さん、……お父さん。寂しいでしょうが、いったんお別れです」


そう言って、祈るように手を合わせ、目をつぶる。


やがて、リーリアは静かに目を開けて立ち上がった。


「では、またいつか」


リーリアは立ち上がって墓石に背を向けた。


その時、


——ああ。行ってらっしゃい


「!」


振り返る。


が、そこには誰もいなかった。


「今のは……」


ザラの声が、聞こえた気がした。


恐らく、幻聴だったのだろう。


それでも、リーリアはにっこりと笑って言った。


「はい!行ってきます!」


▲▽▲


「テティアさ~ん!」


村の入り口でをしていた私の耳に、元気な少女の声が届いた。


振り返ると、リーリアが手を振りながらこちらに走ってきていた。


「お別れはすんだ?」


「はい!……って、それなんですか?」


リーリアは私の後ろにあるものを指さした。


「ああ、これはゴーレムだよ」


ペチペチ、と後ろにある巨大な土人形を叩きながら答えた。


「ごーれむ?」


「簡単に言えば自動で動く戦闘人形かな?村の近くに置いておこうと思って」


「どうしてそんなものを……」


「昨日みたいなことがあっても対処できるように一応ね。あなたも嫌でしょ?旅に出てる間に村が滅ぼされましたー、ていうのは」


「……確かにそうですね」


「でしょ?」


私はそう言って、ゴーレムを起動させた。


ブゥン、とゴーレムの瞳に緑色の光が灯り、立ち上がった。


「……あの、何から何までありがとうございます」


「いいよ、別に。……そんなことよりも、寂しくない?」


「え?」


「その……別れを済ませたからって、家族と離れるんだからさ。大丈夫なのかと思って」


私の言葉に、リーリアは首を横に振った。


「いいえ。さみしくなんてありませんよ。いつか必ず……立派な魔導士になって帰ってきますから」


「そう……」


——きっとなれるよ


「ん?何か言いました?」


「いいや何も。……それじゃ、そろそろ行こうか」


「ハイッ!」


こうして、私とリーリアの二人旅が始まった。


――――――――――――――――――――


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