第15話 その目に映るものは
「は?」
切り飛んだ右手を見ながら魔族は間抜けな声を出し、尻もちをついた。
「は?」
そして、きれいな断面をさらす手首を見る。
「は?え?な?は?はああああああ!?」
うるさい……静かにしてほしい……。
「クッ……クソッ!」
魔族は残った左手で自分の体に触れようとする。
キンッ
すかさず私は先ほどと同じように風の刃で左手首から切断した。
「ギャアアアアアアッッッ!!!」
魔族は悲鳴を上げる。
「どう、して……どうしてどうしてどうしてどうして!?」
「あなたの魔法……空間魔法でしょ?」
私は魔法で杖を引き寄せ掴みながら言った。
「空間魔法はものを別の場所に転移させる魔法。特にあなたの空間魔法は手の平で直接触らないと発動しないタイプ。だから手を切り落とした。分かった?」
「ち……違うッ!」
魔族は叫ぶ。
そして、訳が分からないと言わんばかりの顔でこちらを睨み、
「どうして……どうしてお前、魔法が使えるんだ!?」
「…………」
「魔族以外の種族はなんの道具もなしに魔法を使えないはずだ!どんなに優れた魔法使いでも……たとえ勇者であってもだ!なのに、お前はなぜ!?」
そこでハッ、と魔族は勘付いた。
「まさか!いや間違いない!」
魔族は手首から先のない腕でこちらをさし、
「お前……お前も魔族なんだろ!?」
「…………」
なにも言わない。
今は、なにも話す気分ではない。
「なぜだ!なぜ魔族が人間の味方をする!?」
「……そんなの」
杖の先を魔族に向け、言った。
「あなたには関係ないでしょ?」
杖の先に再び魔力が集中する。
「待っ——!」
爆発が起こり、魔族の体は跡形くもなく消し飛んだ。
▲▽▲
「…………」
私は魔族が立っていた場所を呆然と見ながら立っていた。
周りにはいつの間にか村の人たちが集まっていた。
けど、彼らの顔を見ることなんてできない。
みんな、あの時と同じように恐怖と嫌悪に満ちた顔をしているに違いないから。
早く、ここから離れよう。できるだけ遠くに……逃げよう。
私はそう思い至り、その場を去ろうとして——
パシッ、と手を掴まれた。
「……?」
振り返る。
そこには、一人の男の子が立っていた。
この子は確か……ロイだったか。
「お姉ちゃん、どうして逃げるの?」
どうして?そんなの決まってる。
「私も魔族だから……正体がバレた以上、ここにはいられないんだよ」
「魔族だから?魔族だからいられないってどういうこと?」
「そんなの、魔族は人類の敵だからに決まって——」
「でも、お姉ちゃんは僕のケガを治してくれたし、悪い奴を倒してくれたじゃん」
「お姉ちゃんはなにも悪いことしてない。逃げる理由なんて、ない」
違う。
そんなわけが……
「わ、私は魔族で、あなたたちを一瞬で殺せる力を持っているんだよ!?」
「それでも、お姉ちゃんが僕たちを助けてくれたいい人だってことには変わりない。そうでしょ?」
「あ…………」
ロイの言葉に、私は声が出せなかった。
「そ、そうだ!魔族だからって、強い力を持っているからなんだってんだ!あんたが俺らを助けてくれたことに変わりはない!」
「嬢ちゃんのあかげで死なずにすんだよ!」
「あんた、めちゃくちゃ強くてかっこよかったぞ!」
「私たちを助けてくれて、ありがとうー!」
村の人たちが次々に声を上げる。
それらは全て、私への感謝の言葉だった。
ふと、マーリンが以前言っていた言葉が蘇る。
——いつか必ず、君の力を……君が魔族であることを恐れず、受け入れてくれる人と出会うことができる
「ええ、師匠。確かにいましたよ」
——しかも、こんなにたくさん……。
私の頬には、熱いものが伝っていた。
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