第34話 知りたくなかった真実

「『カース』!」


 闇の瘴気がこちらへ迫る。


 私は瘴気を横に飛んで避け、詠唱を開始した。


「我が魔力を糧に生み出されし煉獄の炎よ、万物を燃やし灰燼と化せ!『ヘルフレイム』!」


煉獄の炎がメフィストに向かう。


しかし、メフィストが生み出した闇の瘴気に触れた瞬間、腐敗し消え去った。


「言ったはずです!私の闇魔法は対象を腐敗させると!それは魔法も例外ではない!」


「チッ……!」


 真正面からではラチが明かない。


 ならば、居を突くしかないか!


「リーリア!フェイ!その場から動かないで!」


「え!?は、はい!」


「『ミストフィールド』!」


 私の周囲で霧が発生し身を隠す。


 いかに強力な魔法といえども、当たらなければ意味がない。ならば姿を消し、死角から攻撃すればいいだけだ。


 私は極力魔力を消し、霧をかき分け、メフィストの影を探し当てた。


――ここだ!


 創成した炎の剣を振るう。


 しかし、それは瘴気で作り出した影であった。


「なっ!?」


 デコイ!?してやられた!


「やつはどこに!?」


「ここですよ」


 すぐ真横。


 メフィストはこちらに手の平を向けていた。


「しまっ――」


「カース」


 闇の瘴気が、私の体を飲み込んだ。


▲▽▲


 食らった瞬間、私は終わったと思った。


 私の肉体は腐り落ち、チリも残らず消えるはずだった。


 しかし……


「……あれ?」


 私は瘴気に包まれた自分の体を見る。


 確かに私は奴の闇魔法を受けたはずだ。


 だが私の体には、なんの影響もなかった。


「バカな!なぜ効かない!」


 なにか知らないがチャンス!


「『エクスプロージョン』!」


 手の平から放たれた熱線が地面に着弾し、爆発する。


 その衝撃で霧が散った。


「クッ!」


 とっさに避けたのか、メフィストに大して手傷はさほどなかった。


 だがそれ以上の成果はあった。


 私は後ろに飛び、リーリアとフェイのいる所まで後退する。


「え!?え!?どうなったんですか!?」


「奇襲は失敗した。……けど、収穫はあったよ。あいつの闇魔法、私には効かなかった」


「え!?な、なんでてすか!?」


「さぁね」


 メフィストはガリガリと頭をかいて思案していた。


「バカな……。私の闇魔法は対象を腐らせるはず……。これに耐性を持つものは私以上の魔を持つ者のみ。そんな者が魔王様なき今いるはず……」


 そこまで言った後、メフィストはピタ、とかいていた手を止めた。


「いやまさか!あなたは……あなた様は!」


 メフィストは目を輝かせる。


 なんだ?さっきからコロコロと表情を変えて。


 まあ今はいい。私にあの魔法が効かないならやりようはある。


「フェイ、私のアシストをお願い」


「アォン!」


「リーリア、魔法の準備をお願い。いつ撃つかはあなたに任せる」


「っ!はい!」


 私の意図を察して力強く返事をする。


「じゃ、行くよ!」


 私は脚部を強化魔法で強化し、メフィストに向け跳躍する。


「『ヘルフレイム』!」


「『カース』!」


 獄炎と闇の瘴気がぶつかり合う。

 やはり魔法は効かないようで、闇の瘴気は炎を腐り落とした。


 だがそれでいい。今の私は囮なんだから。


「フェイ!」


「アォン!」


 フェイが氷の矢をメフィストに降らす。


「ッ!」

 

 だが、それすらもメフィストは闇魔法で防いだ。


「こんなもので私を殺そうなど……」


「いいや、これでいい!」


「ッ!これは……!」


 メフィストは自らの足を見る。


 パキィィン!


 メフィストの足が凍りつき、その場に固定された。


 そう、先程の氷の矢は攻撃のために放ったのではない。

 本来の目的は氷の矢によって地面を凍らせ、気づかれずにメフィストの足を凍らせるために放ったのだ。


「ここで終わらせる!」


 私は腕輪を外し、魔力を解放した。


 同時に頭部に隠されていた角が姿を現す。


「『フレイムソード』!」


 炎の剣を作り出し、振り下ろす。


 が、それも闇の瘴気により防がれる。


「やはりその角!その魔力!あなた様はやはり!」


「テンション上がってるとこ悪いんだけど、忘れてるんじゃない?」


「……なんですと?」


 ハッ、とメフィストはそこで気づく。

 私の後ろにいた少女が魔力を高め、今まさに詠唱を完了したことに。


「『クリムゾンサンダー』!」


 リーリアの手の平から赤雷が解き放たれ、メフィストに迫る。


「『カース』!」


 間一髪、闇の瘴気が赤雷を包む。


 しかし、相手は最速の魔法。

 腐敗が間に合わず、赤雷はメフィストの心臓を貫いた。


「カッ……!」


メフィストは信じられない目でリーリアを見て、地面に倒れた。


「ゴフッ、……ク、クク……油断、しました。まさかあのような……魔力も経験も未熟な魔法使いが、赤雷魔法を使えるとは……」


 私は地面に倒れたメフィストに近づく。


「それで、どういうこと?あなたは私の……なにに気づいたの?」


 私の質問に、メフィストは「クククッ」と笑いながら答える。


「それはあなた自身の目で確かめたほうがいいでしょう」


 ゴゴゴ……。


 重い音とともにメフィストの後ろで扉が開く。


「研究室にある私の日誌を見つけてください。そこに書かれてあります。あなたのことが……」


 そこまで言って、メフィストはこと切れた。


「どうします?」


「………………」


 私の本能が訴える。


 これ以上近づくな。

 知ってしまえば後悔するぞ、と。


 でも、好奇心には抗えない。


 私は意を決し、言った。


「行こう」


▲▽▲


 メフィストの研究室には様々な書物やメモがあった。


 それは魔法のことだけではない。

 実験動物が死ぬまでの過程や効率的に苦痛を与える拷問方法など、思わず吐き気を催したくなるようなものがこと細かく記載されていた。


 「日誌日誌……。あ、これじゃないですか?」


 リーリアは書物の山から表紙に何も書いてない物を見せた。


「私が先に見てもいい?」


「いいですよ。どうぞ」


「ありがと」


 私はパラパラとページをめくる。


 ページにはそれぞれ、メフィストの思いなどが書かれていた。


 どうやらこれが日誌のようだ。


 そして、ページをめくる中で気になるところを見つけた。


そこには、こう書かれていた。


-----


 魔王様は勇者に勢力を削られることに危機感を覚えていた。


 魔王様は言った、いずれ我は勇者どもに負けるだろうと。


 そこで魔王様は己の意志を継ぐ後継者として、子を設けることを決めた。


 母体として選んだのは、魔王様に匹敵する魔力を持った娘だった。

 その者は魔族でありながら同族のみならず人間にも慈悲を示すという精神的な欠陥があった。


 とはいえ、娘の実力は本物だ。

 魔王様は娘を手中に収め、孕ませた。


 やがて生まれた魔王様の後継者は、魔王様の角と母体である娘の金の髪を引き継いだ娘だった。


 魔王様は後継者を側近の魔族に預け、遠方へ避難させた。


 魔王様が敗れ命を落とした時、その意思を受け継ぐ芽が勇者どもに摘まれないように……。


-----


「……………………」


 その話はそこで終わっていた。


 次のページから王国軍と一戦を交えたことなど、関係ない事ばかり。


「リーリア、日誌はこれ以外ある?」


「いいえ、ありませんでした」


「そっか……」


――いやまさか!あなたは……あなた様は!


 メフィストの希望を見つけたような目。


——研究室にある私の日誌を見つけてください。そこに書かれてあります。あなたのことが……


 そして、日誌に書かれていると言われた私の真実。


 それから導き出される答えは、一つだった。


「私は、魔王の子供だったわけだ……」


――――――――――――――――――――


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