第33話 神器開放
場所は移り、マーリンは魔族と対峙していた。
「テティアたちが他の場所に飛ばされた。これは、空間魔法だね?」
「ええ。他の方々には他の同胞が相手をしております。いくら勇者といえども、散り散りになってしまえば勝機は十分にあります」
「舐められたものだね。君たち魔族も長く生きれば脳は劣化するのかな?」
マーリンの挑発にセスタはピクリと眉を動かした。
「言葉には気を付けることです」
セスタはこちらに手の平を向けた。
瞬間、目の前に魔力の揺らぎを感じる。
――いやな予感がするな
避けた瞬間、背後の壁がねじ曲げられ、崩壊した。
「あぶな」
あのままあそこにいれば胴体がねじ切られ上半身と下半身が泣き別れになっていただろう。
「まだまだいきますよ!」
セスタはマーリンの周りの空間を歪め、ねじ切ろうと魔法を発動させた。
「舐めないでよね」
対してマーリンは魔力を読み、空間の歪みを避ける。
「なかなかやりますね。……では、これはどうでしょう」
セスタはマーリンの頭上にあった天井に手の平を向けた。
「『ヴァーゼラング』!」
ピシリ
天井にヒビが入る。
それは周りに伝播し、天井は崩壊した。
「おっ……」
瓦礫の流星群にマーリンは避けることができず、押し潰された。
ガラガラガラ……
瓦礫の転がる音が、虚しく聞こえる。
「圧死しましたか。……いや、これは……」
トガァァン!!!
爆発音とともに瓦礫が吹き飛ぶ。
「まったく、服が汚れたじゃないか」
服についた土汚れを払い、マーリンが土煙から姿を表す。その身は土や砂で汚れてはいたものの、血は一滴も流してはいなかった。
「やはり一筋縄ではいきませんね。……しかし、その杖はどうでしょう」
パキッ!
木の枝が折れるような音とともに、マーリンの持っていた杖が砕け散る。
「どうやら杖の方があなたの力に耐えられなかったようですね。さあ、どうしますか?いかに勇者といえども所詮は人間。杖がなければ魔法は使えないでしょう」
「……確かに勇者も杖がないと魔法は使えないよ。けどね、僕たち勇者にはコレがある」
手の平から光があふれ、やがて手中に何かが収まる。
それは、長い杖だった。
洗練された意匠に、先端には宝石がはめられている。さらにその杖は、魔力とは異なる異様なプレッシャーを放っていた。
「穴埋めとはいえ、幹部なら聞いたことはあるんじゃないか?」
慄くセスタにマーリンは続ける。
「僕たち勇者にはそれぞれ神器と呼ばれる特別な武具を持っている。そして、神器は勇者に権能を与えてくれるんだ。たとえば僕は――」
マーリンの体がねじ切られた。
セスタが空間魔法を使い、マーリンの胴体をねじ切ったのだ。
「ひどいなあ。話の腰を折るなんて」
ポン、とセスタの肩に手が置かれた。
「ッ!?」
再びねじ切る。
だが、マーリンの体が霧となって消えた。
「これは……幻影魔法か!」
「ご名答」
目の前にマーリンが姿を現す。
「そこかぁー!」
パチン
マーリンが指を鳴らした瞬間、セスタの足下から炎柱が上がり、セスタを包み込んだ。
「グアアアアアアアアッッッ!!!」
さらに現れたゴーレム腕がセシルの体を摑んだ。
「な、なんだ!?」
セスタは困惑する。
先程の炎もこのゴーレムもまったく魔力を感じなかった。
「そ……そうか!これも幻だな!私をだまし、ショック死でも狙おうということか!」
「そうさ。これは幻に過ぎない。……けどね、だましているのは君じゃない。世界だ」
「せ……かい……?」
「僕の魔法は世界を騙す。君が炎に焼かれると世界が誤認すれば君は燃えるし、君がゴーレムに掴まれると世界が誤認すればそうなる」
「ふざけるな!そんなでたらめな魔法、使えるわけないだろう!」
「そうだね。普通は使えないよ。でも僕には、この神器、『アヴァロン』がある」
マーリンは神器である杖、『アヴァロン』を掲げた。
「『アヴァロン』の権能は魔法解釈の拡大。それによって僕の幻影魔法は世界規模へと拡大し、世界の法則に干渉することすら可能となった。分かるかい?神器を出した今、君は世界を敵にまわしたも同然なんだよ」
杖をセスタに向ける。
「舐めるなよ、勇者!」
直後、セスタが空間魔法を発動し、ゴーレムの腕をねじり破壊した。
「世界をも騙す幻か。確かにでたらめな魔法だ。……だが、それには限度があるのだろう?」
セスタの発言にピクッ、とマーリンの眉が動く。
「際限がないのなら、なぜ私は存在しないと世界を騙さない?答えは簡単!できないからだ!理由は知らないが貴様は私に直接干渉できない!ならば、勝機はある!」
セスタが再び手の平を向ける。
「『今から君の腕は消える』」
マーリンがそう呟いた瞬間、セスタの腕が消えた。
「なっ……!?」
それだけにとどまらずセスタの体が急激に重くなり、地面に縫い付けられる。
「ガッ……!」
「際限はない、は違うね。実際には『君は今から死ぬ』と世界を騙すことはできる。けど、騙したことはいずれバレる。効果は永続ではないんだ。特に、現実味のないことはすぐにバレる」
言いながら、マーリンの左手にある物質が生まれる。
希少な宝石……金剛石だ。
金剛石は魔法で作られた偽物ではなく、地下深くから掘り起こされ、加工された天然の物に見えた。
しかし次の瞬間、宝石は霧となって霧散した。
「ほら、こんなふうにね。富も金も増やせない不便な魔法さ。だから、間接的に殺す必要があるんだよ」
「………………!」
それにしてもめちゃくちゃだ。
そうセスタは思った。
いくら勇者とはいえ、こんな力が許されるのか。
こんなの、勝てるわけない。
「『今から僕は、赤雷魔法を使える』」
マーリンの背後で赤雷が生み出される。
赤雷は収束し、形づくられ、竜の姿となった。この魔法はリーリアどころか他の赤雷魔法使いには使えない、マーリンだけの魔法だ。
赤雷の竜はその口を開き、光が収束する。
「『紅竜の雷』」
赤雷の竜の口から、赤雷の光が放出される。
「オオオオオオオッッッ!!!」
断末魔をあげ、セスタは跡形もなく消し飛ばされた。
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