第32話 魔族の根城
「なになに?『王都の近くで魔王軍の残党が見つかった。勇者たちは至急向かい、討伐せよ』?」
私は手紙を
「魔王軍の残党?まだいたんですか?」
「……のようだね。まったく、奴らも奴らだよ。魔王が死んで7年以上も経ったってのに、まだ悪さしてるんだから」
マーリンは手紙の続きを読む。
「え~と、『奴らのアジトは地図に書いてある』か」
もう一枚の紙には地図があり、とある箇所に印がついてあった。
「ここは……近くだね。教皇らを王都に連行した後でも間に合うでしょ」
そう言いながら、偶然、マーリンの指が印に触れた。
すると、周囲が光に包まれた。
「なっ……!?」
光が引くと、ダンジョンが目の前にあった。
「これは……」
手紙の続きを見る。
「『なお、目的地まで行けるよう地図に転移用の術式を施しておいた。これを使い早急に迎え』……?って、先に書いておけ!またセレスティアに戻らなきゃじゃん!」
マーリンの絶叫がダンジョンの前で響き渡る。
「よう、マーリン来たか」
「遅い」
声に振り返る。
そこには、槍を持った男と、弓を持った性別不詳の者が立っていた。
あの二人は、勇者像で見たことがある。
槍の勇者ドレイクと弓の勇者イアンだ。
「あん?だれだそいつら」
ドレイクは私たちを見る。
「僕の弟子とその弟子……とそのペット。転移術式に巻き込まれちゃったみたいでね」
マーリンがそう答えると、ドレイクは怪訝な顔をした。
「ふ~ん、お前が弟子を取ってたなんてな」
「それは今どうでもいいじゃん。……それよりも、クレアはどうした?」
「あいつは別件で動いてる。それよりも早く入ろうぜ。勘付いて逃げちまうかもしれん」
ドレイクはそう言ってダンジョンの入口を示した。
「まあそうだね。やることやって早くセレスティアに戻ろうか」
▲▽▲
私たちはダンジョンの中に入る。
ダンジョンの中は真っ暗かと思ったが、炎が付いており、薄暗いものの見えないほどではなかった。
「ドレイク。君は国王から今回見つかった魔族の残党が誰か聞いてる?」
「ああ。今回見つかったのは魔王軍幹部の三人だ」
ドレイクは三本の指を立て続ける。
「一人は時間魔法使いのユリウス。二人目は空間魔法使いのセスタ。そして三人目は闇魔法使いのメフィストだ」
「メフィスト以外聞いたことのないやつだね」
「おそらく抜けた幹部の穴埋めだろう。だが、だが、それでも魔王軍幹部を選ばれるってんなら『両角』よりはるかに強いのは確定だ」
ごくり、とリーリアは生唾を飲み込んだ。
「あの、そんなのがいるのに、勇者でない私たちも入って大丈夫なんでしょうか?」
「このダンジョンの近くには強力な魔物がうろついているからね。外で待つよりも、一緒に行動した方が安全だと思うよ」
「そうですか」
「だからって油断しない方がいいぜ。ここはもう敵地なんだからな」
ドレイクが警告したその時、
「それはそれは。よい心持ちです」
何の前触れもなく、目の前に黒髪の魔族が現れた。
「「「なっ……!?」」」
「こいつ!どっから現れやがった!」
ドレイクは槍を構える。
しかしその直後、イアンもろとも視界から消えた。
「消えた!?」
「いや!消えたんじゃない!ダンジョンのどこかに転移されたんだ!テティア、早く僕の後ろに――」
マーリンが言葉を言い終わる前に私、リーリア、フェイはその場から消え去った。
▲▽▲
「……ッ!」
一瞬の浮遊感を終えると、私たちは先ほどとは違う部屋に行きついた。
「ここ、どこでしょうか」
「ダンジョンの奥、かな?」
「ようこそようこそ。侵入者さん」
その声とともに、薄暗かった部屋に明かりがついた。
その奥には、何者かが立っていた。
白髪。やせた頬、クマのできた目、科学者じみた風貌。
両のねじれた頭の角は、そいつの性格そのものを表しているように見えた。
「
メフィスト。
槍の勇者、ドレイクの言っていた闇魔法使いか。
「自己紹介終わり。それでは死んでください」
メフィストは手の平を私たちに向け、
「『カース』!」
闇の瘴気が放たれた。
「『アースウォール』!」
とっさに岩の壁を出し、闇の瘴気を防ぐ。
しかし次の瞬間、岩の壁が腐り落ち、こちらへ突き抜けてきた。
「なっ……!」
防御魔法がきかない!?
「クッ!」
私はとっさにリーリアとフェイを押し倒すようにして瘴気を避ける。
瘴気は壁を腐敗しながら消えていった。
「な、なんですかあの魔法!?」
「私も分からない。闇魔法は本来対象の力を下げることに特化した魔法で、直接的な攻撃魔法はなかったはず……」
私の疑問に、メフィストは「クックックッ」と笑いながら答えた。
「闇魔法の本質は対象に負の影響を与えること。私はその本質を極め、研究し、対象を腐敗させるという負の影響を付与することに成功したのです!」
なるほど。直接的ではなく間接的に肉体を破壊するのか。
しかも、魔法による防御も効かないと。
「これは……やっかいな魔法だね」
苦笑いしつつ、そう私は呟いた。
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