第29話 リーリア奪還
教会の地下には、空間があった。
そこには地下牢があり、その他にも尋問室のようなところがあった。
そこの一つで、私は信者の一人に説得を試みていた。
「だから、私は洗脳なんてされてないって言ってるじゃないですか。それに、角の生えてないリーリアが魔族なわけないでしょ」
「あなたは洗脳されていることに気づいていないだけです。角については、何らかの隠ぺいを施しているのでしょう。これについては私どもが調べ……」
ダン!
机を叩く。
ビクッ、と信者の肩が震えた。
「彼女になにかしたら、タダじゃおきませんよ……!」
「ひい……!」
私の瞳を見て、信者は恐れおののいた。
と、その時だった。
「騒がしいな。なんだ?」
ドアが開かれ、女性の声とともに誰かが入ってくる。
まず目に入るのは紫紺の髪。肩に届かないほど短いながらも手入れの行き届いたもので、艶やいていた。
白いスーツに身を包みながらも女性的なシルエットが見て取れる。さながら男装の麗人のようだった。
「セシル様!」
セシルと呼ばれた麗人が、私の方を見る。
「あまり騒がないでくれ。君には魔族と協力関係にある疑惑が掛けられているからな」
「騒ぎたくもなります。だって、あなたたちは人間である彼女を投獄しているんですから」
「……つまり君は、私たち教会がミスをしたと?」
「そうですよ。……そもそも、仮に魔族だとしてなんの危害も加えていないのに捕えるのは間違って――」
次の瞬間、セシルが凄まじい速さで私の首を掴み、その勢いのまま壁に体ごと私を叩きつけた。
「グッ……!」
「なんの危害も加えていない……?だからなんだ!」
セシルの顔が鬼の形相に変わる。
「魔族は存在自体が悪だ!人類の敵!世界のガン!駆除すべき害獣だ!やつらの存在を認めた時点で殺すことは、我々の義務なのだ!」
セシルは唾を吐く勢いでまくしたてる。
その目には明確な憎悪が宿っており、狂気に染まっていた。
この人……なぜそれほどまでに、魔族のことを……。
その答えが出る前に、セシル手が私の首から離れた。
「今日はこれ以上やっても無駄だろう。……この者を部屋に入れておけ」
「は、はい!」
「ごほ……ごほごほ!」
咳き込む私にセシルは腰を降ろして肩をおいた。
「すまない、手荒な真似をした。だが分かってほしい。君は今、洗脳されているにすぎない」
「私は……洗脳なんか……」
「されている者は皆そう言う。安心したまえ、私たちが必ず洗脳を解いてみせよう」
そう言い残し、セシルはその場を立ち去ったのだった。
▲▽▲
「それではこちらにお入りください。また明日、洗脳解除のため取り調べを行います」
そう言われ、私は軟禁室のようなものに入れられた。
地下室よりはまともなところだったが、最低限のものしかなく、手狭なことには変わりない。
便宜上は魔族に洗脳された哀れな被害者という訳なのか、杖などの脱走に使えそうなもの以外は取られることはなかった。
これは不幸中の幸いと言うべきか。
もし腕輪を取られでもしたら、魔族だとバレてしまっていた。
「さて、どうしよっか」
とりあえずリーリアがどこにいるか調べようと、彼女の魔力を読む。
良かった。彼女の魔力はちゃんと感じる。
とはいえ、明日どうなるか分からない。
「…………」
先ほどの女……セシルだったか。
あの女の魔族に対する憎悪、あれは常軌を逸してる。
あんなのがいるところに、リーリアが捕らえられているのは命にかかわる。
「……よし、決めた」
私は扉に手を添えた。
「『ウインドカッター』」
呟いた次の瞬間、扉に切れ込みが入り、粉々に破壊された。
杖のない私には危険がないと思ったのか、看守等はいなかった。
「やるべきことは一つ、リーリアを連れて脱走する!」
▲▽▲
迷路のようになっている地下通路を進む。
――いた!
私は目的のものを見つけると、すぐそばの物陰に隠れた。
私の視線の先……リーリアのいる牢の前には看守が立っていた。
――けど、一人か。安心した。
私は手の平で杖に似た棒状の枝を作る。
杖なしで魔法を使うと魔族であることがばれるからな。形だけでも取り繕わないと。
「『ロックショット』」
ボソッと唱え、創成した岩の礫が、看守の頭に当たる。
「ガッ……!」
脳震盪を起こした看守は倒れた。
看守が気絶したのを確認し、地下牢に近づく。
「テ、テティアさん!?」
地下牢で鎖に繋がれたリーリアが目を見開いて驚く。
「助けに来た。早くここから脱出するよ!」
牢を破壊し、中へと入る。
「『ウインドカッター!』」
スパパ、とリーリアを繋いでいた鎖を切断し、自由にする。
「さ、行くよ!」
「は、はい!」
▲▽▲
「魔族が逃げた!」
「なんとしても逃がすな!殺して止めよ!」
脱獄したのがバレたのか、信者たちが慌ただしい。
だが、焦る心配はない。私たちには協力者がいるのだから。
「魔力を読んだ感じ、ここから真っ直ぐ行ったすぐ真上にフェイがいる!」
賢いと言うべきか、あの時私が捕らえられた時、フェイは反撃にでるのではなくその場を離れた。
そして、私たちが脱走すると読んで外で待っていてくれている。
「ごめんリーリア。荷物は諦めて。今は一秒でも時間が惜しいから」
「……はい。分かってます」
荷物を諦めるということは、リーリアは魔導書を手放すと言ことだ。
それは、彼女にとってとても酷なことだ。
だが今は、自分たちの命が優先だ。
「ここだね」
私は道路の突き当りで止まった。
ここの真上にフェイが待っている。
「それで、ここからどうするんですか?」
「そんなの決まってるじゃん」
私は手の平を天井に向け、唱えた。
「『エクスプロージョン』!」
手の平から生じた爆発が天井を吹き飛ばし、空まで突き抜けた。
「はっ……?」
リーリアは啞然とした顔で吹き抜けた空を見た。
「よし、行くよ」
がしっ、とリーリアを掴む。
ドン!
強化した脚力で飛び上がり、外へと出た。
「フェイ!」
近くに潜んでいたフェイが跳躍して来る。
私たちはフェイの背に飛びついた。
「行くよ!フェイ!」
「アォン!」
フェイは空中に氷の足場を作り、それを華麗に飛び越えていく。
あっという間にセレスティアを囲む壁まで近づき、飛び越えた。
「よし!セレスティアから脱出できた!」
「で、でもこれからどうするんですか!?」
「まずファレッティアまで走る!そこからマーリンに助けを求めよう!」
彼だって勇者の一人だ。
彼の庇護下に入れば、教会連中も手出しはできないだろう。
「このままファレッティアまで走って!」
私の言葉に従い、フェイは走り出そうとした。
しかし。
パキィィン!
突如として伸びてきた氷が、フェイの脚を凍らせた。
「なッ……!?」
この氷は、フェイのじゃない!?
「誰!?」
私は奇襲した者がいないか見回した。
「貴様ら良い覚悟だな。我らから逃げようとするとは」
そこには、剣を持った女の姿があった。
あの女は……!
警戒する私に、女……セシルはその手に持った剣を掲げ、告げる。
「処刑執行人セシル。今から魔族及びその協力者を処刑する」
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