第28話 教会都市セレスティア
うっそうとする森の中、白い影が突き抜ける。
その白い影の正体は氷狼であるフェイだ。
フェイは私とリーリアを背に乗せ、軽々と獣道を乗り越えていく。
「もうそろそろですかね?」
「そうだね。地図だとここの当たりのばずだけど……」
そう話してると、氷狼が足を止めた。
遠くに街があるのが見える。
「ここだね。教会都市『セレスティア』は」
教会都市『セレスティア』。
王都『ファレッティア』の近辺に存在する都市である。
「ここまで来れば、ファレッティアまで目と鼻の先だね」
「やっと…て感じですね」
リーリアの呟きは少し震えていた。
無理もないだろう。彼女の目的である姉の生存がこれで分かるかも知れないのだ。
「とりあえず今日はここで休息を取ろう。そんな疲れ切った顔のままじゃ、お姉さんも心配するだろうからさ」
「……はい」
リーリアは今すぐ向かいたいであろう気持ちをグッと抑え、頷いた。
「それじゃ、まずは入って宿を探そう。……行くよ、フェイ」
「アォン!」
フェイは一声吠えて答え、セレスティアへと向かっていった。
▲▽▲
「お前たち、旅人か?」
『セレスティア』へと入る前、門番に質問された。
「ええ、はい。『ファレッティア』に用がある為、今日はここで泊まって休息しようかと思いまして」
「そうか。……で、そいつは魔物か?」
門番はフェイを見る。
「そうですが、手なずけてありますので危害はありません」
「……分かった。質問はこれで終わりだ。お前たちをセレスティアへ入れることを許可する。……が、入るにあたってこれを付けてくれ」
門番は入ることを許可すると、バッチのようなものを私たちに渡してきた。
「……これは?」
「外からの訪問者であることを示すバッチだ。ここでは外の者が犯罪を犯すと極刑となる法律があるから、一目で分かるようにしているんだ。……決して、外すなよ?」
「分かりました」
「は、はい」
私とリーリアは胸に渡されたバッチをつける。
「よろしい。……では、セレスティアを楽しんでいってくれ」
▲▽▲
「それにしても、よくフェイちゃんも入ることができましたね」
「冒険者の中にはビーストテイマーっていう魔物を手なずける専門家もいるからね。そこら辺の規制は緩いんだよ」
「へ~、そうなんですね」
リーリアは納得したように反応する。
「とはいえ、一般人の中には魔物に忌避観を持つ人も少なくないし、フェイ自身もこんな人混みの中じゃストレスたまるだろうから、早く宿を見つけよう」
「了解です!」
「アォン!」
▲▽▲
「あ~、疲れた~」
無事、宿を見つけた私は借りた部屋に着くとベッドにダイブした。
あ、ダメだこれ。ベッドに入った瞬間今までの疲れがドッ、と出てきた。
「もうこのまま寝ていいかな」
「ダメに決まってるじゃないですか。ほら、今のうちに必需品を買いますよ」
グイ―、と手を引っ張り、私をベッドから引きはがそうとする。
「やだー。寝かせてー」
「あ、コラ。抵抗しないでください!」
ベッドでの応酬を繰り広げる私とリーリア。そして、それを呆れたように見つめるフェイ。
そんな中、ゴォ~ン、ゴォ~ンと大きな音が聞こえて来た。
「何の音ですか?これは……」
「さあ?鐘の音、かな?」
その時、扉がコンコン、と叩かれた。
「リーリア開けてみて」
「は、はい」
リーリアが扉を開ける。
そこには、宿の主が立っていた。
「休んでるとこ申し訳ないんだが、あんたらも教会に行ってくれ。今から話があるんだ」
「話?」
「行けば分かる。早く行ってくれ」
「「?」」
宿主の言葉に首を傾げつつも、私たちは教会へと向かうのだった。
▲▽▲
セレスティア教会。
この都市では歴史ある教会である。
話によると魔族に対し強い嫌悪と憎悪を持っているらしいので、近づきたくなかったのだが、結局来てしまった。
教会に来ていたのは私たちだけではなく、都市の住人や私たちのようにバッチをつけた旅人も多くいた。
しばらくすると、眼鏡をかけた男が現れた。その男は金の刺繍をあしらった神官服を着ており、教会の中でも高い地位にいることは一目で分かった。
「皆さんごきげんよう。私は教皇であるゲーティスです」
ゲーティスはにこやかに挨拶をすると、話し始めた。
「教皇様、本日はどうされたのですか?」
住民の一人がゲーティスに質問する。
「ええ。実はですね、我が教会都市セレスティアに魔族が侵入しました」
「「「……な!」」」
「ですが安心してください。今すぐ魔族がどこにいるのか分かります」
「教皇様!その方法とはなんですか!?」
「それは……これです!」
ゲーティスは右手に持っていたあるものを掲げた。
それは、セレスティアに入るにあたり付けるよう言われたバッチだった。
「今から私の宣言とともにこのバッチが光るものが現れます。その者が、魔族です!」
は!?それはつまり、魔族である私のバッチが光るということか!?
「テ、テティアさん。これって相当まずくないですか?」
リーリアが小さな声で私に言う。
彼女の顔には冷や汗が浮かんでいた。
「わ、分かってる。とにかく、どうにかしないと」
外すか?いや、今このタイミングで外せば逆に怪しまれる。
いったいどうすれば……。
しかし、そんな考えは虚しく、
「さあ魔族よ、姿を現すがいい!」
ゲーティスの声が響き渡った。
終わった。
そう思った。
しかし、私のバッチは光らなかった。
「……え?」
沈黙するバッチに、私は困惑した。
故障か?なにはともあれ、助かった……。
安心し、胸をなでおろす。
しかし……
「あ、あの……テティアさん……」
リーリアが私の肩を掴む。
「ん?どうしたの?」
私はリーリアの方を見た。
そして、目を見開いた。
リーリアのバッチが、光っていたのだ。
「その娘が魔族です。信者たちよ、彼女を捕らえなさい」
ゲーティスをリーリアを指差して言った。
すると、どこからともなく神官服の人間たちが現れ、リーリアの手首を掴んだ。
「キャッ!」
「ッ!リーリア!」
私はリーリアを解放しようと手を伸ばした。
しかし、背後からの衝撃とともに地面に叩きつけられる。
「ガッ!?」
背骨と胸部を打撃する痛みが襲い掛かる。
その痛みを奥歯で嚙み殺し、後ろを振り向くと、同じく神官服の人間が私を押さえつけていた。
「貴様、今魔族を助けようとしたな。人間が、なぜそのようなことをした」
「そん……なの……彼女が私の弟子だからに決まってるじゃない……」
私の言葉に、ゲーティスは「ふむ」、と顎を撫でた。
「どうやら彼女はそこな魔族に洗脳されているようですね。安心してください。私どもが洗脳を解いて差し上げます。……信者の皆さん、彼女とその魔族を連行しなさい」
「「「ハッ!」」」
私とリーリアは立たされ、どこかへと歩かされた。
実力行使に出ようかと思ったが、杖を出していないこの状況で魔法を使うのはあまりにリスクが大きいため、大人しく私は連行されることにした。
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