第26話 遭難

「………………」


「………………」


 ごうごうと降り荒ぶ降雪の中、私とリーリアは進む。


「……何か見えませんか?」


 リーリアが口を開いて聞くが、私は首を横に振るう。


「残念だけど何も。避難できそうな小屋も洞窟もないね」


「そう……ですか……」


 リーリアは力無く肩を落とした。


 ……まずいな。リーリアの体力が限界に近い。早く避難できる場所を探さなくては。


 焦る心に苛まれながら、私達は足を進めたのだった。


△▼△


 話を戻そう。


 私達は王都ファレッティアに向かう途中にある山を越えることとなった。


 だが、運悪く吹雪に会い、遭難してしまったのである。


「ど……どうしましょうか……」


「とりあえずどこか避難できる場所を見つけて、雪が止むまで待とう」


 というわけで、私達は避難できる場所を探しているのだった。


「……ん?」


 私は足を止める。

 目を凝らして少し遠くを見ると、穴があるのが映った。


 洞窟だ。


「リーリア、洞窟を見つけた!雪を凌げるよ!」


 私たちは小走りで洞窟の中に入った。


「はあ……」


 ようやく雪風をしのげることに安堵し、ホッと胸をなでおろす。


「……クシュンッ!」


 リーリアはくしゃみをする。


「うぅ……」


 彼女はブルブルと体を震わせ、いかにも寒そうだった。


 こんな寒い中雪で服も濡れたからな。


 乾かさないと。


「リーリア、服を脱いで。着たままじゃ逆に風邪をひいちゃう」


「は……はい……」


 リーリアが上着を脱ぐと、服に包まれていた胸が外にさらされた。


 胸のサイズは同年代の女の子の中でも大きい。対して私は……ノーコメントとさせていただこう。


「……………」


「どうしたんですか?テティアさん」


「……いいや、なんでも」


 私たちは濡れた服を天井に干した後、薪を作り、炎を点火した。


「はー。あったかいです」


「そうだね」


 そう言いながら、暖を取っていたその時だった。


「グルルルル……」


 洞窟の奥でうなり声がした。


 なんだ?と思いうなり声のした方向を見る。


 そこには、狼がいた。


 ただの狼ではない。

 その狼は雪のように白い体毛、氷のように透き通った鋭利な牙、そして並の狼を超える体躯を持っていた。


本で見たことがある。


あれは氷狼ひょうろう……雪山に生息する魔物だ。


「魔物ですか!?」


「……のようだね」


 リーリアを後ろに下げ、臨戦態勢を取る。……とはいえ、どうしたものか。


 氷狼は高い戦闘能力を持つ。


 だが、こんな洞窟の中でむやみに大きな魔法を放ったら生き埋めになってしまう。


「……ん?」


 そこで気が付いた。


 氷狼の背に矢が突き刺さっていたのだ。


――怪我をしているのか?


 思えば変な話だった。


 氷狼は高い戦闘能力を持つが、とても穏やかな魔物で、こんなに敵意をむき出しにすることはありえない。


 だが、深手を追って余裕が無くなっているのなら説明がつく。


 ならば、この場を収めるには、この方法しかない。


「……リーリア。いまから私がなにをしたとしても、動かないでおいて」


「……え?」


 私は魔力を解き、ゆっくりと氷狼に近づく。


「な、なにをしてるんですか!危ないですよ!」


「しっ!」


 私は口元に指をおいてリーリアを黙らせる。


「グルルルル……」


 氷狼は血走った目で私たちを睨みつける。


 そんな氷狼に私は警戒されないようゆっくりと近づく。


「怖くないよ。落ち着いて」


 声を小さく、優しく語りかける。


 しかし、氷狼の耳には届かなかった。


「ガウッ!」


 氷狼の牙が私の肩に突きたてられた。


「グッ!」


 強烈な痛みとともに、肩から鮮血がほとばしる。


「テティアさん!」


 リーリアが声を上げるが、反応している余裕はない。


「大丈夫……だから……。じっと……してて……」


 震える手を伸ばし、氷狼に突き刺さった矢を持つ。


「ふんっ!」


 残りうる力を込めて、矢を引き抜いた。


 ブシュッ!と血が噴き出し、氷狼が暴れるが、めいいっぱいの力で押さえつけ、叫んだ。


「『ハイ・ヒーリング』!」


 淡く優しく輝く治癒魔法の光が氷狼の傷口を包み込む。


 光が消えると、傷はきれいさっぱり治った。


「ウ……?」


 氷狼は警戒を解いたのだろう。

 氷狼は牙を離した。


「…………」


 氷狼は少しの時間困惑したようにその場で立ち尽くした後、洞窟の外へと行ってしまった。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


 そこまで見届け、私は膝から崩れ落ちた。


「テティアさん!?」


「やっぱり、無傷ってわけにはいかなかったか……」


 パキキキ……。


 音とともに、肩の傷が凍り付いた。


「こ、この傷は……」


「氷狼に噛まれた傷は、その氷気によって凍り付く。こんな程度ですんだのは、奇跡だね……」


「は、早く傷を……」


「それは、無理だよ……。傷が凍り付いてたんじゃ、治しようもない」


「で、ではどうすれば……」


「とりあえず、私を焚き火の前まで連れてって」


「わ、分かりました!」


 リーリアは私を引っ張って焚き火の前に出した。


「ど、どうですか?」


「うん、さっきよりはまし……かな?」


 痛い……寒い……意識が、遠のく……。


「ごめん……。ちょっと眠くなってきた……」


「テティアさんダメです!死んじゃいます!」


「大げさ、だなぁ……。心配、しなくても……すぐ……め……さめる……か……ら……」


そこで、私の意識は途絶えた。


――――――――――――――――――――


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