第25話 リザードマンの長

 リザードマンの襲撃を鎮圧後、私はそのことをエルフの長老、カミルに報告した。


「早いな、もう終わったのか」


 カミルは驚きに目を見開く。


 私は頷いて、


「はい。あと、リザードマンのアジトも見つけたました」


「「「…………な!?」」」


 私の言葉にエルフたちは驚く。


「ど、どうやって見つけたんだ?」


「私には、他人に記憶を喋らせる洗脳魔法があります。それを使って、どこにあるのか吐かせました」


「お前……洗脳魔法も使えるのか?」


「ええ。私の師匠がこういった搦め手の魔法が得意でしてね。私はあまり得意ではありませんが、直接的でない魔法に対して耐性の低いリザードマンにはちゃんと効きました」


「なるほどな。……それで、やつらはどこにいるんだ?」


「リザードマンはここから南方の洞窟に身を潜めています」


▲▽▲


「……あそこにいるのか?」


 エルフの戦士たちとともに洞窟へ。


「ええ。間違いないはずです」


 とはいえ、私の魔力感知の精度ではあの閉鎖空間の中の魔力を読み取れない。


 なので、ここは彼女に頼ることにしよう。


「リーリア、洞窟内にひときわ魔力の高い奴はいる?」


 言われたリーリアは、「う~ん」とうなって洞窟を見た。


「……奥に一人、高い魔力を感じます」


「多分それがリザードマンの長だね」


 リザードマンは基本魔法は使わない。

 だが、魔力は生命力に比例する。

 そして、強い者を長とするリザードマンの習性からして、魔力量の多い者が親玉で間違いないだろう。


「私が先行します。皆さんは後を着いてきてください」


▲▽▲


「敵襲だー!エルフどもが攻めて来たぞー!」


 洞窟の中、リザードマンの怒号が鳴り響く。


「『フリーズ』!」


 私は襲いかかるリザードマンを凍らせつつ、奥へ進んだ。


 他のエルフたちはどうだろうか?と思い後ろを見る。

 が、彼らも戦力として優秀なようで、リザードマンを次々と倒していった。


 そうしていく中で、奥に一際高い魔力を持つ者を感じた。


――見つけた!


 私はさらに奥に進む。


 少し進んだところで、開けた空間が私を出迎えた。


「ここは……」


 そこで気付く。

 目の前に、誰かがいることを。


「誰だぁ?お前」


 そう呟き、その誰かが立ち上がる。


 それはリザードマンだったが、普通じゃない。


 巨人のように膨れ上がった筋肉と体躯、その肉体を覆う鱗は鎧のように磨き上げられ、より一層強固に見えた。


 そして、ここからでも感じる強大な魔力。


 間違いない。こいつが探していた長だ。


「エルフの長老との契約であなたたちリザードマンを倒しに来た。できれば、投降してくれたらうれしいんだけど」


「……ハッ」


 リザードマンは鼻で笑う。


「舐めんじゃねえガキが。そう言って素直に従うとでも思ってんのか?」


「……いいや、思ってないよ。一応聞いてみただけだからね」


 私は体から魔力を放出し、臨戦態勢に入る。


「『エクスプロージョン』!」


 ドゴオオオン!


 親玉の体を爆風が包む。


 普通のリザードマンならこれで死んでいるはずなのだが、長は平然と立っていた。


 だが、その体はリザードマン特有の緑色の体ではなく、鋼色に覆われていた。


「……驚いた。まさかリザードマンが魔法を使うなんて」


 いや、厳密には魔法と呼べる代物ではない。


 金属系の魔法属性を体にまとわせているのだ。


 詠唱もなく、本来の使い方ではないが、奴の膨大な魔力が鋼のごとき強度を可能としているのだろう。


「へへへ……、驚いたか。なら死ね!」


 リザードマンの長が拳に鋼をまとわせ殴りかかる。


 防御魔法は間に合わない。私は体を魔力で覆った。


 拳が私の体に突き刺さった瞬間、内臓に響く衝撃が体を伝わる。そのまま風を切るスピードで吹き飛ばされ、壁に激突する。


「がはッ……!」


 なんて力……。これは、確実に骨は逝ってるな……。


「『アイシクルコフィン』!」


 パキィィィン!


 リザードマンの長の体が凍りつく。


「よし……。これで勝っ……」


 私は勝利を確信した。


 しかし。


 ビキ……。ビキビキビキ……。バキィィィン!


 リザードマンの長はなんと、体を覆う氷を破壊し、拘束から脱出した。


「なっ……!」


 なんて馬鹿力だ。


「ふう……。で?これで終わりか?」


 リザードマンの長は首をコキコキと鳴らし、挑発する。


「……冗談。勝負はこれからでしょ」


私は不敵にそう返し、さらなる魔法攻撃を放った。


▲▽▲


「『ヘルフレイム』!『ライトニング・レイ』!『ウインドカッター』!」


 私は次々にリザードマンの長に魔法を放った。

 しかし、それらは全て奴の鋼の肉体に跳ね返される。


「効かねえって言ってんだろ!」


 ダンッ!


 地面を蹴り上げ、リザードマンの長がこちらに迫る。


「『ファイアーウォール』!」


 炎の壁が私を守る。


 だが、一瞬だけだ。


 炎の壁を突き破り、鋼の拳がこちらに迫ってきた。


「ッ!」


 私はとっさに身をねじり避ける。私はその勢いを利用して長から大きく距離をとった。


「クッ……!」


 手強い。私の今の状態、無詠唱ではこの程度か。

 だが、他にエルフがいる以上、魔族として本気を出すわけにはいかない。

 詠唱しようにもそんな隙は与えてはくれないだろう。


 万事休すだ。


 ……普通なら、ね。


「我が魔力を糧に……」


「させねえよバカが!」


 リザードマンの長が拳を振るい、私の頭蓋を砕こうと迫る。


 その時だった。


 バチィィィィィッッッ!!!


 突如視界外から放たれた赤雷がリザードマンの長の脇腹を貫いた。


「なっ……!?」


 リザードマンの長は吐血し、その場に倒れた。


「ありがとうね、リーリア」


 私は後ろを振り向いた。


「うまくいってよかったです」


 そう言って、洞窟の陰からリーリアが姿を現す。


 実は戦いが始まる前、私はリーリアに気配と魔力を消して私の後をつけるように言っておいたのだ。

 安易に本気を出せない今の状況で、私が手こずるようなことがあった場合に不意打ちの一発を食らわせてもらうためだったが、うまくいってよかった。


「さて……」


 私は脇腹から血を流し倒れるリザードマンの長に視線を戻した。


 リザードマンの長は息を切らして私たちを睨む。


「て……てめえ……卑怯、だぞ……。仲間を……潜ませるなんざ……」


「変なこと言うね。さんざん勝手に襲撃しておいて」


 言いながら、杖を上空に振る。

 すると、リザードマンの長の上空に鉄でできた巨大な大剣が作り出された。

 今の弱った彼なら、この魔法を防御することは叶わないだろう。


「じゃあね、さようなら」


「ク……クソがぁぁぁぁぁっっっ!!!」


 その言葉を最期に、鉄の大剣は長の首を跳ね飛ばした。


▲▽▲


 リザードマンの長を倒したことで、リザードマンたちは降伏した。

 

 それにより一年に及ぶ争いは終結し、私たちは無事内通者としての疑いが晴れ、自由の身となった。


「今回は助かった。……それと、無実のお前たちを不当に拘束したこと、皆を代表して謝罪する」


 カミルはそう言って、深々と頭を下げた。


「いえいえ、こちらこそそちらの領土に無断で踏み入ってすみませんでした」


「そう言ってもらえると助かる。……それにしても、報告を聞いた限りお前たちの実力は大したものだ。テティア、お前の師匠もさぞ高名なのだろうな」


「ああ……。えっと、信じてもらえないかもしれないですけど……私の師匠、マーリンです」


「……は?」


 私の言葉に、カミルはポカンと口を開けた。

 話を聞いていた他のエルフたちも、ざわざわとどよめき始める。


「マ、マーリンとはあの杖の勇者、マーリンのことか……?」


「ええ、はい……」


「————————ッ!」


 カミルは顔を真っ青にして、突然片膝をついて膝間ひざまづいた。


「「「ちょ…長老!?」」」


「お前たち何をしている!頭が高いぞ!」


「「「は……はい!」」」


 カミルに言われ、他のエルフたちも膝間ひざまづく。


「ちょ……ちょっとどうしたんですか!?」


「すまない。私たちは以前、勇者パーティーに助けてもらったことがあるんだ。その恩人の弟子を不当に拘束していたなど、末代まで祟られたとしても文句は言えない」


「そんな、気にしないでください」


「し……しかし……」


「私はマーリンの弟子ではあっても本人ではないんですから。顔をあげてください」


「そ……そうか……」


 カミルは立ち上がる。


「しかし、そうか……。あの方が弟子を……」


 カミルはしみじみとしたように言う。


「どうしたんですか?」


「いやな。マーリン様は勇者の中でも冷酷で人嫌いな方だったから、弟子をとるなんて不思議に思ったんだ」


「はぁ……」


 カミルの言ったマーリンと、私の知るマーリンの人物像が合わない。

 まあ、十年以上前のことだし、その間に人が変わったということだろう。


 一人でそう納得していると、リーリアが口を開いた。


「あ……あの!勇者クレアはどんな方でしたか?」


「クレア様か……。一番幼いながらも、リーダーシップのある女子おなごだったな。お前と同じ赤い髪も印象に残った。……そういえばお前、クレア様と少し似ているな?」


 カミルはジッ、とリーリアを見る。


「実はですね……」


 私はリーリアががクレアの妹かもしれないこと伝えた。

 そして、今私たちは真実を確かめるべく、勇者たちのいる王都ファレッティアに向かっていることも。


「なるほどな。……ならば、今回のお礼として近くの国まで送ろう。おい、今すぐ馬車を用意しろ」


「ハッ!」


 カミルに指示されたエルフの一人が外へと走っていった。


「いいんですか?」


「ああ。そのくらいはしておかないと勇者様に顔向けできないからな」


 それは助かる。疑いをかけられて災難だったが、どうやら良いこともあったようだ。


 しばらくして、用意された馬車の中に私たちは乗り込む。


「それではな。吉報を期待しているぞ」


「はい。ありがとうございます」


 こうして私たちはエルフの森を出て、また一歩王都への道のりを進めることができたのだった。


――――――――――――――――――――


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