第24話 エルフの森
「……さて、どうしようか」
「どうしようか。て、すごく呑気ですね。私たち捕まってるのに」
後ろ手を縄で縛られた赤髪の少女リーリアは、同じく縄に縛られている私にそう言った。
そう、私たちは捕まっていた。
なぜそうなったのか、今から説明しよう。
私たちは剣の勇者がリーリアの姉、リーファなのか確かめるべく王都ファレッティアへと向かっていた。しかしその道中の森を突っ切ろうとしたところ、エルフたちに襲われてしまったのだ。
追い払うことも可能だったが、下手に傷つけて因縁を付けられると困るので、わざと捕まることにした。
そして今、私たちは檻付きの荷車に運ばれている。
外を見渡すと、木の上に建てられた家々の窓から、エルフたちが興味深げに私たちを見ていた。
「あの~ちょっといいですか?」
「ん?どうしたの?」
「テティアさんってここがエルフの集落ってことは知らなかったんですか?なんか、そういうの知っていそうだと思ったんですけど」
「……まあ、エルフの集落は複数あるからね。大規模なところは知ってるけど、さすがに小規模なところは把握できないよ」
知っていれば避けて通っていたんだが、運が悪かった。
まあ、上に事情を説明すれば解放してもらえるだろう。
と、そんなことを考えていると、私たちを乗せていた荷車はある建物の前で止まった。
監視のエルフに連れられ、建物の中に入る。
そこには、椅子に座る少女の姿があった。
「……そいつらか。我が領土に入った愚か者どもは」
少女は立ち上がり、私たちを見上げる。
外見年齢は12歳くらいか。私たちよりも幼く見える。
だが、その貫禄は幼女のそれではなかった。
「お前ら。名は?」
「……テティア」
「リーリアです」
「テティアにリーリアか。……はじめまして。私はここの長老をしているカミルだ」
長老。この少女は確かにそう言った。
「え!?この子がですか!?」
こらリーリア。さすがに失礼でしょ。……私も驚いたけど。
「すみません、うちの弟子が」
「いや、構わんよ。……だが、私はこう見えてそこらのエルフよりも長い時を生きている。そこは心の内に刻んでおけ」
カミルは表面上、やんわりとそう言う。
どうやら気にしていたようだ。
「さて、一つお前たちに聞きたいことがある。……お前たち、リザードマンになにを指示されてここに来た?」
「リザードマン?」
私が首をかしげると、カミルは予想外の反応だったのか眉をひそめた。
「なんだ、お前たち違うのか?」
「はい」
「……そうか。てっきりこんな時期に来るから勘違いしたぞ」
こんな時期?いったいどういうことだ?
「あの、いったいなにがあったんですか?」
「実はな。私たちエルフは今、リザードマンの部族と争っているんだ」
「争って……?」
「ああ。奴ら、急に現れてここの領地を渡せなんて言って来たんだ。当然私たちは抵抗したさ。だが、奴らもしつこくてな。かれこれ一年以上戦っている」
「それは……大変ですね」
「ああ。……だからお前たちには悪いが、完全に身の潔白が証明されるまで拘束させてもらう」
……は?
「ちょ、ちょっと待ってください!私たちはリザードマンと関係はないです!」
「それは分かる。だが、物的証拠がない以上他の者達は説得しなうだろう。なにか説得材料があれば、今すぐ解放できるのだが……」
クソッ、最悪だ。一刻も早く王都に行かないといけないのにこんなところで足止めしていられない。
とはいえ、いったい何を提示すれば……。
その時、一人のエルフ兵士が入ってくる。
「申し上げます!リザードマンたちが攻めてまいりました!」
「チッ、こんな時にか。……お前たちは一旦牢屋に入ってろ。すぐに終わらせる」
「いや。待ってください」
「……なんだ?」
「私たちがリザードマンを追い返します。それで、身の潔白を証明できませんか?」
「な、なにを言って――」
まくしたてようとする兵士を、カミルが遮った。
「いいだろう、許可する。……だが、条件がある」
「条件?」
「ああ。今回の撃退だけではまだ八百長の可能性があるからな。やるなら、リザードマンの頭を仕留めるまでやるんだ」
▲▽▲
燃え盛る森の中、逃げ惑うエルフたちを人間と似た体躯を持つトカゲたちがいた。
彼らこそリザードマンだ。
「く、くるなぁ!」
エルフの青年は応戦しようと、手に持った弓をリザードマンに向け放つ。が、リザードマンの強靭な鱗は弓矢をいともたやすく弾いた。
「そ、そんな!」
青年の瞳に絶望が宿る。
「おら!死ねぇ!」
リザードマンの斧がエルフの頭をかち割ろうとした寸前、
「『ヘルフレイム』!」
私が放った魔法の炎がリザードマンを焼き焦がす。
「カッ……」
鱗では耐えられない熱量を浴びたリザードマンは口からプスプスと煙を吐き、その場に倒れこんだ。
「無事ですか?」
「あ、ああ。助かった。……て、あんたら侵入者の!リザードマンの手下じゃなかったのか!?」
「いや違いますから」
「信じられるか!違うなら証拠を出せ!」
エルフは不信感をあらわにしてと叫ぶ。
どうやらカミルの言ってた通りだな。証拠がない以上彼らは信じない。
なら、行動で示すだけだ。
「おいおいてめぇ誰だ!」
リザードマンの1人が私を見てそう吠えた。
私は返す。
「エルフの協力者、ってことでいいのかな?一応聞くけど、そっちに撤退する気はある?」
「ハッ!あるわけないだろ!お前も耳長どもも、全員ぶち殺してやるよ!」
リザードマンは剣を抜き、迫る。
「そう……」
分かっていたことだが残念だ。あまりこういった荒事はさけたいのに。
パキィィン
剣が私に振りかぶられる直前、目の前にいたリザードマンは凍り付いた。
「さて……。他にリザードマンは何人いる?」
私は目をつむり、周囲の魔力を読む。
……大体の位置は分かった。後は倒すだけだ。
リザードマンには強靭な鱗があって物理だろうと魔法だろうと通しにくい。
ならばどうするか。
――鱗もろとも凍り付かせる!
「『アイスフィールド』!」
パキィィン!
その音とともに、リザードマンたちは氷に包まれる。
こうしてリザードマンの襲撃は、誰も死傷者出すことなく鎮圧されたのだった。
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