第21話 魔獣ベヒーモス

▲▽▲


「落ち着きましたか?」


「うん……」


「そうですか。よかったです」


「……………………」


「……………………」


 しばらく無言が続いた。


 リーリアの目の前であんな大泣きしたなんて、顔から火が出る思いだ。

 そんな空気に耐えられなかったのか、りーリアは口を開いた。


「あの、良ければ教えてください。どうしてあんなに取り乱したんですか?もしかして、昨日お元気がなかったのと関係が?」


「…………」


 少し話すべきなのかを悩みつつも、結局私は話した。


 悪夢のこと。アーノルドのこと。そして、彼との別れを。


「そんなことが……。今まで、辛かったですね」


「でも、もう大丈夫だよ。ありがとうね」


「えへへ。そんなことないですよ」


 照れながら喜ぶりーリアに軽く微笑み返して、私はベッドから立ち上がった。


「じゃあ、魔導書を受け取りに行こうか」


「はいっ!」


 その後、私たちは魔導書店にて直してもらった魔導書を受け取った。


「よかったね。無事に直って」


「はい。ピッカピカです」


 リーリアはニコニコとうれしそうに笑って直ったばかりの魔導書を抱きしめた。


「あの、この後どうするんですか?」


「ん~。そうだね」


 アーノルドとまた会う可能性があるのでここから早く立ち去りたい。

 とはいえ、特に次の目的地が決まっているわけでもない。


「少し買い物をしながら考えよう」


「ですね!」


 私の提案にリーリアは元気よく頷いた。


 その時、


 カーン、カーン、カーン


 耳をつんざく鐘の音が、ユグドラシル全体に広がった。


「な、なんでしょう?」


 リーリアはキョトンとしていたが、私にはこれが何なのか分かった。


「これは……緊急招集の鐘?」


「緊急招集の鐘……?」


「なにか重大なことが起こった時に、戦闘経験のある者を冒険者ギルドに集めるための鐘のこと……って、私の師匠が言ってた」


 しかし、一体何が?


「とにかく、冒険者ギルドに行ってみよう」


▲▽▲


 冒険者ギルド。


 一般人、冒険者、貴族を問わず解決して欲しい事案をクエストとして発注し、管理する国際機関の通称名だ。

 冒険者や旅人はこのクエストを攻略することで報酬金をもらい、生計を立てている。

 私もお金に困った時はギルドからクエストをこなしてお金をもらっていた。


 そんなギルドに、私とリーリアを含めた冒険者たちが集った。


 なんだなんだ?と冒険者たちが騒ぐ中、彼らの前に一人の男が立つ。

 顎に蓄えた髭、彫りの深い威厳ある顔立ちから男がただ者ではないことが理解できる。


 男は咳ばらいをして、


「諸君、集まっていただき感謝する。私はここのギルド長のアルバートだ」


 アルバートは続ける。


「単刀直入に言おう。この近辺に、魔獣ベヒーモスが姿を現した」


 その一言に、冒険者たちはざわめいた。

 かくいう私も驚愕の目が見開いてしまう。


「あの、テティアさん。ベヒーモスって何ですか?」


リーリアはひそひそと私に質問した。


「魔獣ベヒーモス。竜よりも大きな体を持ちながら、世界各地を徘徊する神出鬼没の魔物だよ。戦闘能力だけなら、魔王軍の幹部にも匹敵する」


「それって、めちゃくちゃ強いじゃないですか!」


「そうだよ。だからギルドは私たちを緊急で集めたんだ。……しかし、妙だな」


「妙、とは?」


「ベヒーモスは神出鬼没と言っても人里近くに姿を現したことのない温厚で臆病な魔物なんだよ。それがなんで、人の多くいるこのユグドラシルに?」


 私はその場で考え込んだ。

 しかし、それを断ち切るようにギルド長アルバートは口を開く。


「本来ならば人的被害を抑え、避難をするのが定石だ。だが、我々は世界樹を失うわけにはいかない。よって、諸君らにはベヒーモスを撃退してもらいたい」


 アルバートはそう言って、深々と頭を下げた。


「撃退できた暁には、莫大な報酬金を与えることを約束しよう。どうか、諸君らの力を貸してくれ!」


▲▽▲


 ギルド長の演説が終わった後の反応はまちまちだ。

 自らの命を最優先にして逃げる者、報酬金に目を輝かせる者、ベヒーモスと戦えることを喜ぶ者。


「あの、私たちはどうします?」


「面倒ごとは避けて避難したい……ところだけど、世界樹がかかってるからね」


 世界樹は杖の元だ。

 それがもしベヒーモスに焼かれでもしたら人類はこの先魔法を使う道具を生み出すことができなくなる。


 人類はこの先衰退していくだろう。

 だがそんなこと、勇者であるマーリンは望まないはずだ。


「私は参加するよ。リーリアは避難を――」


「何を言ってるんですか!私も行きます!」


「リーリア……」


 反論しようとしたが、彼女は覚悟を決めた目で退きそうにない。

 ……まあ、実戦を経験させていた方が彼女の成長にいち早く繋がるか。


「……分かった。でも、できるだけ前に出ないようにね」


「はいっ!」


「よし、じゃあ準備を始めようか」


――――――――――――――――――――


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