第19話 望まぬ再会

旅人の移動手段は複数ある。


一つ目は徒歩。


これはお金はかからないが、目的地まで時間がかかる。


二つ目は交通機関の利用。


こちらは馬やグリフォンを用いた移動になるので時間はかからないが、逆にお金がかかる。


貧乏人にとってはなるべく手を出したくない方法だ。


では、お金はないが短時間で遠くまで行くにはどうするか。


それは商人の護衛に就くのが一番手っ取り早い。


旅人の目的地と同じ場所に向かう商人を見つけ出し、護衛としてつく代わりに荷台に乗せてもらうのだ。


これならばお金を使わず、それどころか護衛の報酬金をもらう形で目的地まで運んでもらえるのだ。


というわけで私たちは護衛として商人の馬車に乗せてもらい、とある場所まで共に運んで行ってもらった。


「ありがとうございます。ここまで運んでもらって」


「助かりました」


私とリーリアは馬車から降りて、商人に頭を下げた。


「いやいや、こちらこそ護衛ありがとう。これ、報酬金ね」


そう言って、商人は懐から巾着袋を私に渡した。


中身を確認して、私は驚いた。


「ッ!こんなにもらっていいんですか!?」


「ああ。あんたらがいなかったら死んでたかもしれなかったからね。このくらいの額、当然さ。………ところで、嬢ちゃんたちはなぜに?」


「彼女の魔導書の修理に来たんです」


私はリーリアの破損した魔導書に目を配る。


「なるほどな。じゃあ、俺は商売があるんで失礼するぜ」


そう言い残し、商人は馬車を出発させた。


「いやあ~。やっと着きましたね」


グイ~、とリーリアは体を伸ばす。


「そうだね」


私はそう返しながら、天高くそびえる巨大な大樹に目をやった。


世界樹の国、ユグドラシル。


この国には世界樹と呼ばれる巨大な大樹がそびえ立っている。


世界樹には特別な力が宿っていて、これを素材にすることで魔法使いが使う杖や魔導書などが作られるのだ。


そのため、ユグドラシルは杖、魔導書の原産地として、それ関連の商売が盛んに行われている。


当然、魔導書の修理、修復を生業とする店も存在する。


「ここならあなたの魔導書を直せると思う。たくさんあると思うから、自分の目で確かめて決めて。その間に私は宿をきめておくから」


「分かりました!」


という訳で私たちは別行動することとなった。


「さてっ、と……」


宣言通り今日泊る宿を探さなくては。


とは言ったものの、宿自体は値段を考えなければすぐに見つかるだろう。


ユグドラシルは世界樹の観光地としても有名な場所だ。


そのため泊るための宿も多い。


お金の問題も今回もらった報酬金で解決だろう。


「どこにしよっかなー」


そう言って、歩こうとした時だった。


「待ってくれ!」


パシッ、と誰かに手を掴まれた。


「ッ!?」


私は驚いて振り向いた。


そして、私の手を掴んだ者の顔を見て固まった。


その者は男だった。


年は14歳くらい。

冒険者らしく革製の防具を身にまとい、腰には剣を下げている。


だが、そんなことはどうでもいい。


重要なのはその顔。


黒の髪と瞳を持つその少年の相貌には、見覚えがあった。


私は、聞こえないくらい小さな声で少年の名を呟いた。


「アー、ノルド……」


かつての友であり、私をバケモノと罵った彼が、なぜここに……!?


「……あ、すまん。少し昔の友達に似ててな。思わず呼び止めちまった」


アーノルドはまだ私だと気付いていないのだろう。


慌てて手を離した。


「そ、そうですか……」


バクバクと心臓が鼓動する音が聞こえる。


「で、では……」


アーノルドから逃げるようにその場を離れた。


「あっ!おいっ!」


アーノルドの制止の声を無視し、走る。


走る途中、通行人にぶつかり、声がかかるが、それを返す余裕もなかった。

やがて人気のない路地に入った時には、息も絶え絶えだった。


「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」


——触るな……。この、バケモノッ!


あの時の彼の言葉が頭の中で反芻する。


「うっ……」


吐き気がこみ上げ、私はその場で胃の中のものをぶちまけてしまった。


――違う…違う違う違う


「私は…バケモノなんかじゃ…ない……」


絞り出すように言ったその声は、誰の耳にも届くことはなかった。


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