第13話 お別れ

私がこの村に来て、一ヶ月が経った。


私とリーリアはいつものように村の外……なにもない開けた場所にいた。


「じゃあ、今から教えたことがちゃんとできているかテストするね」


私はそう言いながら、水晶体を作り出した。


さらに、水晶体に自律的に動いて飛ぶように魔法をかける。


ビュンビュンと飛び回る水晶体に、私は指を指してリーリアに言った。


「赤雷魔法を無詠唱で、かつ一発であれを壊して」


「分かりました」


言われたリーリアは魔導書を開いた。


しかし、リーリアはすぐに魔法を撃たなかった。


彼女は集中し、観察しているのだ。


水晶体が自らの視界に入るのを。


しばらくの間、静寂が続いた。


「…………」


「…………」


やがて、リーリアの視線ど真ん中に水晶体が入った。


「『クリムゾンサンダー』!!!」


すさまじい一条の紅い雷が放たれ、その先にあった水晶体を打ち抜いた。


水晶体は中心を打ち抜かれ、粉々に砕け散った。


「や……」


リーリアは、ポツリと呟いて、


「やったー!」


リーリアはぴょんぴょん跳ねながら、うれしそうに叫んだ。


「見ましたかテティアさん!ちゃんとできましたよ!」


「うん。おめでとう」


これでもう、私がここにいる意味はなくなっちゃったな……


そう言葉に出すのを必死にこらえ、言った。


「じゃあ、お別れだ」


▲▽▲


「じゃあ、元気でね」


次の日の朝、私は村の入り口で見送りをしてくれたリーリアにそう言った。


「……あの、もう少しいることってできないんですか?まだ教えてもらいたいこと、いっぱいあるんです」


リーリアはそう言うが、私は首を横に振った。


「ダメだよ。旅人がそう何カ月もいたんじゃ、愛着が湧いて離れられなくなっちゃう」


「です、よね……」


リーリアは悲しげにうつむいた。


はあ。しょうがないな。


「リーリア」


「は――」


リーリアが返事を言い終わるよりも前に、私は彼女の頭にポン、と手を置いた。


「へ……!?」


「大丈夫」


優しく彼女の髪を撫でる。


「あなたには魔法の才能がある。私がいなくても、きっとやっていけるよ」


「…………はい」


私はそっと手を離した。


そうして、私が出ようとした時、


「あ、あの!」


「ん?」


「あ、いや……えっとその……今まで、ありがとうございました」


ぺこり、とリーリアは頭を下げる。


「こちらこそ、止めてくれてありがとうね。楽しかったよ」


また、彼女に会えるといいな。


そう思いながら、私は村を出た。


リーリアはテティアの姿が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。


▲▽▲


「……結局、言えなかったな」


テティアが去り、その姿が見えなくなった後、リーリアはそう呟いた。


本当は、彼女についていきたかった。


今よりももっと話したかったし、魔法もたくさん教えて欲しかった。


けど、言えなかった。


言わなければ、一生後悔するのに。


「本当にバカだな、私って……」


自嘲するように呟いて、目尻に貯まった涙を拭おうとした。


その時、


「よう」


ヒタ、と誰かの手が肩に置かれた。


「ッ!」


リーリアはその手を振り払い、後ろを振り向いた。


そこには……一人の男が立っていた。


年は20代前半。


色が抜け落ちたような白髪に、死体のような青白い肌が不気味な雰囲気を醸しだしている。


しかし、それだけではない。


男の右側頭部から、捻れたような一本の角が生えていた。


「ま……ぞく……」


人類の敵、世界を滅亡に導こうとした者。


そんなのがなぜ……いや、そもそもどうやって現れた!?


「な……んの……用、ですか……?」


困惑でろくに動かない頭を必死に動かして、なんとかそれだけは言えた。


魔族は答える。


「別に、お前に用はねえよ。……俺はただ、こうしに来ただけだ」


魔族はパチン、と指を鳴らした。


ドガァァァン!!!


次の瞬間、地面から岩がせり上がり、近くに建っていた家々が吹き飛んだ。


家の中にいたのだろう。


近くに感じていた村人の魔力が消えた。


死んだのだ。


「な……!?あなた!いったいなにを!?」


「見ての通り、殺しただけだが?」


さらり、と魔族は平然と言った。


「そういうことを聞いているのではありません!どうして殺したのかと聞いているんです!!」


「あ?お前バカか?」


魔族は自らが引き起こした惨状を見せつけるように手を広げ、笑うように言った。


「そんなの、楽しいからに決まってるじゃないか!」


「……は?」


楽しい?


人を……殺すのが?


「人間どもを殺すときの肉を抉る感触!弱い奴をいたぶる優越感!そして、死ぬ時に見せる絶望の表情!それが……たまらなくいいんだ……」


この魔族は、何を言ってるんだ?


リーリアには、この魔族が言っていることの一ミリも理解できなかった。


代わりに、フツフツと煮えたぎった怒りがリーリアの頭を支配する。


「今すぐ……出てってください」


リーリアは魔導書を構えた。


「なに?まさか俺に言ってんの?お前、本当のバカか?俺が素直に、はい出ていきますと言うとでも?」


「出てってください!じゃないと、撃ちますよ!」


ハァー、と魔族はため息をついた。


「いいぜ、やってみろよ。ほら」


クイクイ、と魔族は挑発するように指を動かし、挑発した。


リーリアの頭は、今度こそ怒り一色に染まった。


「我が魔力を糧に紅き雷帝の鉄槌よ、彼の者を裁け!『クリムゾンサンダー』!」


一条の紅い雷が、魔族に向かって突き進む。


「ほお、赤雷魔法か。人間のくせにやるじゃないか。――まあ、俺には関係ないけどな」


次の瞬間、赤雷が消えた。


「な!?」


――消えた!?なんで!?


その時、一条の赤雷がリーリアの脇腹を貫いた。


「……は?」


リーリアは自分の脇腹を見た。


そこには、自らの赤雷によって抉られ、ぽっかりと空いた脇腹があった。


▲▽▲


一方その時、テティアは、


「……あ」


彼女は自分の頭を押さえた。


「帽子忘れた……」


――――――――――――――――――――


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