第12話 リーリアの過去
夜
私は外に出て、夜風に当たりながら空を見上げていた。
夜空に浮かぶ星々を見て、キレイだなー、と思っていると、
「おや、テティアさん?」
ふと声をかけられ、振り返った。
そこには一人の男性が立っていた。
「あなたは……ザラさん?」
「おお。覚えてくれてたんですか」
「ええ、まあ。……えっと、どうしたんですか?」
「いえ。たいしたことではないのですが、少し話をお思いましてね。よろしいでしょうか?」
「?はい」
話?私なにかしたっけ?
「では、ここではなんですし、私の家に上がってください」
「はあ……」
私は言われた通りザラさんの家までついていった。
「……はい、どうぞ」
コト、と私の前に紅茶が置かれた。
場所はザラさんの家の中、私はすすめられたイスに座っていた。
「砂糖はいりますでしょうか?」
「いります」
「フフッ、分かりました」
ザラさんは砂糖を紅茶の中に入れ、かき混ぜる。
あっという間に、砂糖は紅茶の中で完全に溶け込んだ。
「ありがとうございいます」
「いえいえ」
ザラさんはそう言って、テーブルを挟んだ向かいのイスに座った。
それを見た後、私は紅茶を手に取って、一口飲んだ。
……おいしい。
「どうでしょうか?お味の方は」
「はい、おいしいです」
「そうでしょうそうでしょう」
ザラさんはうれしそうに、うんうんと頷く。
それにつられて私もうれしく思いながら、私は本題を口に出した。
「……あの、話とはなんですか?」
「いやなに、リーリアのことでお礼を言いたかったんですよ」
「リーリアの、ですか?」
「ええ。……テティアさんは、あの子の家族についてどの程度知っていますか?」
「少しだけですが……。皆さんリーリアが物心つく前に亡くなったんですよね?……あと、お姉さんが魔導士だったとか」
「ああ、そこまで知っていたんですね」
ザラさんは少しだけ目を見開いた。
「あの、良ければ教えてくれませんか?リーリアのお姉さんのこと……」
これを聞いてなんになるわけでもない。
ただ、興味があるので聞いてみた。
「いいですよ。ちょうど、私が言いたいことと被りますから。……ちょっと待っていてくださいね」
ザラさんはそう言うと棚から何かを取り出した。
それは、一つの小さな絵だった。
「これは写真といって、特殊な魔導具を使って背景を焼き写したものです」
写真には赤子を抱える少女の姿があった。
少女は容貌はリーリアと少し似つつも、彼女より大人びた印象のある美少女だった。
「この人がリーリアの姉、ですか?」
「はい。そうです」
なるほどこの人が。
ということは、この赤子はリーリアか。
「リーリアの姉、リーファは天才でした。齢10歳にしてあらゆる魔法を覚え、並の魔法使いとは比べ物にならない強さを持っていました」
「そんなにすごい人だったんですか?」
「はい。しかし15年前……つまりリーリアが物心をつくよりも前に、この村を魔族の軍勢が襲ったのです」
「魔族……」
その単語に、私は心臓を鷲掴みにされたような気分になった。
そんなことを知るはずもなく、ザラさんは続ける。
「リーファは、村のみんなを守るため、魔族たちに単身挑みました。……そして激闘の末、奴らを返り討ちにしたのです」
「す……すごいですね。それは……」
単身で魔族の軍勢を倒すなんて信じられない。
しかも、それを成し遂げたのが勇者でも魔族でもない10歳の魔導士が、なんて……。
「本当にそう思います。……しかし、そんな彼女でも全てを守ることはできなかった。彼女の手からこぼれた命……その中には彼女たちの両親、そして、彼女自身も含まれていたのです」
「……それから、リーリアは一人に?」
「そうです。ですから、私が代わりにあの子を育てました」
「へー」
……え?
「ザ、ザラさんが!?」
いや、それほど驚くことでもないか。
リーリアは物心つく前に一人になったんだから、誰かが世話をしていたに決まってる。
あれ?でも……
「二人は今一緒に暮らしていませんけど、なにかあったんですか?」
「あったといいますか……数か月前、あの子が急に言い出したんですよ。『このままあなたの世話になるわけにはいかない。あなたの負担を少しでも減らすために自立します』ってね」
ああ。だから彼女の家にあまり物が多くなかったのか。
住み始めたばかりなら、物が少ないのは当然だ。
「私はあの子に親として接してあげることができず、ずっと孤独な思いをさせてきました。あの子は私といる時はいつも笑顔で明るく振る舞っていましたが、そうみせているだけ。自分は寂しくないよと、そう思わせようとしているだけに過ぎないのです」
リーリアは、明るく振る舞っているだけ……。
彼女はああ見えて、心の奥底に深い闇を抱えているんだ。
私は……幸運だったのかもしれない。
私も家族を失ったが、父と母との思い出はちゃんとある。
それに、マーリンと出会い、彼と本当の家族のように暮らせた。
孤独だと思ったことは……ない。
「……ですがあなたと出会い、あの子は変わりました」
「……え?」
「あなたといる時のリーリアはいつも楽しそうにして……本当の意味で笑うようになったんです」
そうだろうか?
ぶっちゃけ私には始めてあった時となんら変わったようには見えないが……。
いや、この人はリーリアの育ての親だ。
私なんかが気づかないようなあの子の心の変化に気づけるに決まっている。
「本当に……なんとお礼を言ったらよいか……」
ザラさんはそう言って、深々と頭を下げた。
「いえ!そんな……」
私にそんな資格なんてない。
だって、私はリーリアの家族を殺した者達と同じ、魔族なのだから……。
「あの……どうかしましたか?」
ハッ、と前を見ると、ザラさんが心配げな顔でこちらを見ていた。
「い、いえ!そんなことないです!」
慌てて言いながら、私は先程思ったことを心の奥底にしまい込むように紅茶を一口飲んだ。
ふう…と息を吐いて気持ちを落ち着かせる。
そして、私は口を開いた。
「……そんなに自分を卑下しないでください。あなたは立派に親としての務めを果たしていると思いますよ」
「え?」
「だって、あなたが親として育ててきたからこそ、そうやって彼女の心の変化に気づけたんだと思うんです」
私の言葉に、ザラさんは不安げに聞いた。
「私は……親としてやっていけていたと思いますか?」
「はい。少なくとも私はそう思います」
「…………」
ザラさんは顔をほころばせ、救われたような顔をした。
「なんだが……自分が生まれて初めて認められた気がします」
「大袈裟ですよ、それは」
ザラさんは「そうですかね」と言って、アハハ、と私たちは笑った。
その時、コンコン、とドアから叩く音がした。
「おや?誰でしょうか?」
ザラさんは立ち上がってドアの前へと向かう。
ガチャリ、とドアを開けて現れたのは……
「リ、リーリア!?」
「あ!テティアさんここにいたんですか!」
リーリアは私を見つけると、怒りながらこちらへ来た。
「晩ご飯の時間になっても帰ってこないから心配したんですよ!」
「あ、ああ……。ごめん」
「もう!次からは気をつけてくださいね!……それで、どうしてザラさんの家にいるんですか?」
まずい。
さすがにリーリアに会話の内容を感付かれるわけにはいかない。
「い、いや!なんでもないよ!もう帰るところだし」
私はそう言ってはぐらかし、リーリアの元へと向かった。
「すみません、私はこの辺で失礼します」
「ええ。また機会があればお話しましょう」
「……はい」
こうして私とザラさんの、秘密の会話は終わったのだった。
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