第10話 魔導士の受難
「……え~と、もう一回言ってくれるかな?」
「お願いです!私に魔法を教えてください!」
聞き間違いじゃなかったかー。
「一応聞くけど、なんで?」
「実は私、魔法を扱うの下手くそなんです。毎日練習はしているんですが、初歩的な魔法の発動さえできなくて……」
「……で、魔法使いである私に教えてほしいと」
「はい!先ほどの魔法、見事でした!あなた程の腕の人に教えてもらえば、もしかしたら私もと思ったんです!」
う~ん、面倒くさいな。でも、泊まらせてもらってるし……。
はあ。しょうがない。
「……分かった」
私の言葉に、リーリアはパァ、と顔を明るくした。
「本当ですか!?」
「うん。滞在している間だけね」
「いえいえ十分です!それじゃあさっそく特訓を…」
私は彼女の口を抑えるように手を出した。
「いや、その前にご飯を食べ終えてからでしょ」
「……あ。そうですね」
そうして、私たちはテーブルに戻って食事に戻った。
▲▽▲
食後、私たちは魔法の練習のため外に出た。
「うん。ここならよさそうだね」
私たちが来たのは村の外、人も建物もない開けた場所だ。
ここなら魔法を使っても村に被害はないだろう。
「じゃあ、まずは魔法の基礎から教えようか」
私はリーリアに魔法を一から教え込んだ。
「魔法は詠唱、イメージをすることで発動することができる。でも、詠唱は時間がかかるからとっさに発動できない。もちろん、詠唱を省略して魔法を発動させることができるけど、扱いは難しいし、威力も効果も落ちてしまう」
「なるほど」
リーリアはうんうんと頷いた。
「なにか質問はある?」
「いえ、大丈夫です」
「じゃあ、今からやってもらう魔法を使うからちゃんと見ててね」
私は杖を取り出し、詠唱した。
「我が魔力を糧に炎よ灯れ……『ファイア』」
ボウッ、と杖の先に小さな炎が灯る。
「おお~!」
リーリアは目をキラキラと輝かせながら炎を見た。
「じゃ、やってみて」
「はい!」
リーリアは腰から魔導書を取り出す。
「そういえば、その本どうやって手に入れたの?」
聞いたのは、単純に疑問からだった。
魔導書なんて骨董品、こんな辺境の村娘の彼女が持っていたのはどういう経緯があったのだろうか。
「いえ、元々は私のじゃなくて、お姉ちゃんが持っていた物なんですよ」
「お姉ちゃん?」
一人っ子ではなかったのか?
「はい。私には、10歳年の離れた姉がいたんです。まだ子供なのに、すごい魔法の才能があったみたいなんですよ。……でも、お姉ちゃんも両親と同じく亡くなってしまいました」
「……そっか」
姉について詳しく聞きたかったが、これ以上踏み込むのはリーリアにとって辛いだろう。
「じゃあ、練習を始めようか」
「ですね」
リーリアは左手に魔導書を開いて持ち、右手を前に出して詠唱した。
「我が魔力を糧に炎よ灯れ!『ファイア』!」
ボッ!と彼女の右の手の平に炎が灯る。
そして、その炎はみるみるうちに……なんか大きくなっててるんだけど!?
「え?あ……あの、テティアさん?こ、これどうすれば……」
「い、いや!どうっていわれても!」
これはマズイ。
もしこんなものを下手に撃ったら地形が変わる大惨事だ。
かといってこのままにしておいたら私たちは暴発した炎に飲み込まれて死んでしまう。
「と、とにかく上に撃って!」
「う、上……上……。上ってどこでしたっけ!?」
「ああ、もう!」
私は彼女の右手を持ち上げた。
「はい!撃って!」
「は、はい!」
リーリアの手の平から巨大な火の玉が撃ちあがる。
火の玉は、はるか上空で爆発した。
「「ワアアアアアア!!!」」
爆発の衝撃で風は吹き荒れ、木々が吹き飛び、ついでに私たちも吹き飛ばされた。
「………………」
「………………」
しばしの間、私たちは仰向けに倒れたまま空を見上げていた。
「そういえば、魔法って詠唱・無詠唱にかかわらず発動に必要な魔力量を超えると爆発するんだった」
「……それ早く言ってください」
「ごめん……。私最初からそういうのできてたから忘れてた」
「なんかムカつきますその言い方……。」
と、そんなこんなでその日の練習時間は過ぎていった。
そして、家に帰って晩ご飯を食べた後、リーリアに勧められてお風呂に入ることとなった。
「ふぅ……」
私は湯船につかりながら、私は今日の練習を思い返した。
はっきり言って、リーリアは魔力のコントロールが下手くそだ。
それも、夜まで練習してようやく初歩的な魔法である“ファイア”しかできないほどに。
しかし、リーリアは私やマーリンほどではないが、並の魔族をゆうに超える魔力を持っている。
魔力のコントロールさえできれば、彼女は確実に強くなる。
将来が楽しみだ。
と、その時、ドアから声がかかった。
「湯加減どうですか~?」
声はリーリアだった。
「んー、大丈夫」
私がそう返すと、
「そうですか。じゃあ、私も入りますね」
「え!?」
ガチャリ、とドアが開き、一糸まとわぬリーリアが入ってきた。
「どうしたんですか?テティアさん」
リーリアが私を不思議そうに見たのは、私が体を沈めて縮こまっていたからだろう。
「ごめん。他の人とお風呂に入るのなんて初めてだから……」
「そんなに気にしなくて大丈夫ですよー、同じ女の子どうしなんですし。ほら、お背中見せてください。私が洗ってあげます」
「う、うん……」
私は意を決してリーリアに背中を向けた。
「くすぐったかったらいってくださいね」
リーリアは洗剤を付けたタオルでゴシゴシと私の背中を洗う。
普段一人では洗いづらいところも容易とはいえ、恥ずかしいな……。
いやいや、考えるのはよそう。
とりあえず、前は自分で洗おう。
「そういえば気になってたんですが、この腕輪ずっとつけてますね?」
「ああ、これ?ちょっと理由は言えないけど、肌身離さず付けてないといけないんだ?」
「ええっとつまり……そのくらい大切だということですか?」
「……うん。まあ、そんなところ」
別に、この腕輪は値のある高級品でもないし、親の形見というわけでもない。
だが、もしこれが外れてしまったら、マーリンの認識阻害が解け、私が魔族だとバレてしまう。
嘘を吐くのは心苦しいが、本当のことを言うわけにもいかない。
「そうですか。……じゃあ、触れないよう気を付けますね」
そう言って私の背中を洗い終わった後、リーリアは私の髪に手をかける。
「きれいな髪……。羨ましいです」
「そう?リーリアの赤髪の方がきれいだよ」
「いえいえ、そんなことないですよ」
リーリアはそう言って、自分の髪に手をかけた。
「こんな髪、目立つだけです。伸ばしてるのだって、切る機会がなかったからですし……」
「いつかは切るつもりなの?」
「はい」
こくり、とリーリアは頷く。
「私はもったいないと思うけどな」
「え?」
私はキョトンとするリーリアの髪に一房触れた。
「ひゃっ!?テティアさん!?」
「思った通り。手入れの行き届いた、鮮やかできれいな髪だ。これを切るなんて、もったいないよ」
「そ……そうですか?」
「まあ、リーリアがどうしても切りたいって言うんなら止めはしないよ」
「いえ、大丈夫です」
リーリアはもう一度、自分の髪に触れる。
「テティアさんのおかげで自分の赤い髪に自信が持てました。髪、切らないでおきます」
「……そっか。私もそのほうが目の保養になるよ」
「フフッ。なんですかそれ」
「私もなに言ってんだと思ったよ」
「……プッ」
「……ククッ」
一拍おいて、
「「アハハハハハッッッ!」」
私たちは笑った。
そうして私たちは体を洗い流した後、眠るのだった。
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