第7話 最終試験
マーリンとの修業は大変だった。
魔法の鍛錬、外の世界で生き抜くための術を学んだりと、とにかくやらなければならないことが多かったからだ。
何度も何度も、心が折れそうになった、くじけそうになった。
それでもなんとかやってこれたのは、外の世界への憧れがあったからだ。
外の世界――本で読んだ様々な国や街、景色。
実際に行ってみたい。この目で見てみたい。
そう思いながら、日々頑張ってきた。
そして、あっという間に3年の月日が過ぎ、。13歳となったある日のこと
「テティア。もう君に教えることは何もない」
マーリンは突然、そう言った。
「……はい?」
私は彼が何を言っているのか分からず、固まってしまった。
そんなのに構わず、マーリンは続ける。
「今から君が僕の教えをモノにしたのかを試す。外へ出てくれ」
マーリンはそう言うと家を出た。
「…………?」
一体何を試すのか疑問に思いつつも、私はマーリンについていった。
外に出ると、満天の星空が私たちを出迎えた。
それ以外には、何もない。
マーリンの家は3年前とは違い、村の隅にそびえる崖の上に移動していたのだ。
理由は、私が村人の人目に付かないようにするためだ。
もちろん、エレンたちとも黒竜の一件以来あっていない。
彼女たちは、今何をしているのだろうか。いや、今はこの時間は寝ているか。
なんて思いつつ
「あの、一体何をするんですか?」
私の質問に、マーリンは振り返って言った。
「今から僕と戦ってもらう」
「……は!?」
今、なんて言った?
戦う、と言ったのか?私と、マーリンが?
「いや。でも、待ってください。ここで戦ったら、流れ弾が村に当たるかも知れませんよ?もし当たらなくても、音でみんな起きちゃういますし……」
「ああ、それなら心配ないよ」
マーリンは懐から取り出した杖を上空に掲げた。
すると、私たちの周囲を半透明の壁が取り囲んだ。
「これは……結界魔法?」
恐ろしい完成度だ。これだけの規模を無詠唱で作り上げるなんて……。
しかもこの結界、魔法どころか音すらも通さない仕組みになっている。
これなら、周りの被害を気にせずにすむだろう。
「それで、戦ってどうするんですか?まさか師匠を殺せ、なんて言わないですよね?」
「いや、そこまでしなくていい。僕に一撃でも加えられたら、君の実力を認め、村の外へ出ることを許可しよう」
なんだ、一撃だけか。
ホッ、と息を吐こうとして、
「でも」
マーリンはすっ、と目を細めた。
「殺す気でかかってこい。じゃないと君、死ぬぞ?」
ゴゥ!とマーリンの体から魔力が放出された。
「…………!」
その圧倒的なプレッシャーに、体が屈してしまいそうになる。
怖い……逃げたい……。
後ろ向きな感情が、次から次に浮かび上がってくる。
だが、私はそれを振り払い、自らも魔力を放出させ対抗した。
「へぇ、やるね」
「お褒め頂き光栄ですよ!『ウォーターショット』!」
私は複数の水の球を作り出し、マーリンに向け撃った。
無詠唱の先制攻撃だ。避けられるはずがない。
狙い通り、マーリンは私の魔法をもろに受けた。
「やった!」
私は勝利を確信した。
しかしその直後、マーリンの体が霧となってかき消えた。
「な!?」
これは、幻覚魔法か!?いつ発動していた!?全然気付かなかった!
「いったいどこに!?」
私はマーリンを探そうと周りを見回そうとした。
その時、後ろから私の首を誰かが掴んだ。
「が!?」
驚きに目を見開きながら、なんとか顔だけを後ろに動かして犯人を見た。
それは案の定、マーリンだった。
「ぐっ!」
私は必死に手を動かしてマーリンの手を外そうとするが、びくともしない。
「がっ……あ……」
マズイ……。
目の前の景色が色あせていく……。
意識が遠ざかっていく……。
死……
「……んで、たまるかぁぁぁ!!!」
私は氷のナイフを作り出してそれを逆手で掴み、マーリンに振るった。
「おっと」
マーリンはそれを避ける。
しかし、絞めていた手が放され、開放された。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
ひさしぶりに吸うことができた酸素をあおぎながら、息を整える。
危なかった。
もう少し遅ければ、あの世行きだった。
「殺す気……でしたね?」
「だから言っただろう?本気でやらなきゃ死ぬって」
「なら、そっちが死んでも文句言わないでくださいよ!」
私はマーリンに手のひらを向け、
「我が魔力を糧に生み出されし煉獄の炎よ、万物を燃やし灰燼と化せ!」
私の手のひらに炎が集まり、
「『ヘルフレイム』!」
ゴォ!と火炎が放出され、マーリンに迫る。
しかし、
「我が魔力を糧に大地の恵みよ、矮小な存在たる我を守れ『アースウォール』」
マーリンの前に現れた土の壁に、私の魔法は防御されてしまった。
マーリンはハア、とため息をつく。
「この程度かい?なら、そろそろ決着をつけ――」
「我が魔力を糧に科の者を幻惑の霧に閉じ込めよ!『ミストフィールド』!」
ブワ!と私を中心に霧が発生し、結界内を白く染め上げた。
「よし!視界を封じた!これなら……」
「隙をついて僕を倒せる、かい?」
霧の中から突然、マーリンが現れた。
「な……」
なぜ位置が分かった。
しかもこんな迷いなく。
「魔力がダダもれなんだよ。どうやら、これで打ち止めのようだね、残念だよ。……さよなら」
マーリンは魔法で剣を作り出し、それを振り下ろした。
その剣の動きは、とても遅く感じた。
そう言えば、死ぬ直前は時間の流れが遅く感じると、どこかで聞いたことがある。
私は、死ぬのか?
何も果たせず、私はここで終わってしまうのか?
……いいや、まだだ!
だって、私はまだどこにも行ってない、なにも見ていない。
こんなところで、終われない!
私は半ば無意識に魔法を唱えていた。
「『ライト』!」
カッ!と手の平から強い光が発生した。
「クッ!」
あまりの光にマーリンは攻撃を中断し、目を覆った。
――今だ!
私はマーリンの懐に潜り込み、叫ぶ。
「我が魔力を糧に彼の者を爆炎にて吹き飛ばせ!『エクスプロージョン』!」
ドゴォォォン!!!
手の平から激しい爆発が起こり、マーリンは私もろとも吹き飛んだ。
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