第3章

第17話 パーティーを追放する側って、なんであんな偉そうなんだ?

 シグル村を出発してから一年。俺は大陸中央部にある大きな街を拠点に生活していた。


 北へ飛び立ったカイルを追いかける様に大陸を北上し、小さな村々を経由しながらやっとたどり着いた。道中もカイルの情報を聞いて回ったが、ろくな情報を得ることが出来ず、もしかしたら大きな街に来れば何か情報をつかめるかも知れないと思い、ここまで目指してきたのだ。


 だが、実際たどり着いてみてもまともな情報を得る事は出来なかった。黒い大きな竜の様なモノが北の方へ飛んで行った。これ以外の言葉を話す人に出会う事は出来なかった。


 しかし、人の出入りが激しいこの街に暫く滞在すれば、北方からの旅人と出会う事が出来るかも知れない。そう判断した俺は、様々なクエストをこなして金を稼ぎながら、暫くこの街で生活をしていた。


 クエストと言っても、シグル村でやっていた事と同じような雑用が主だった。勿論モンスター討伐の方が依頼料は高額なのだが、競争率が激しく、言ってしまえば早い者勝ちだ。同じタイミングで受注をしても、先に倒した方の取り分となる。一方、雑用クエストは依頼料こそ高くは無いものの、受注する人が少ないためクエストに困る事は無かったし、確実に稼ぐ事が出来た。中には俺を指名してクエストを出してくれる人もいて、指名料をプラスで貰う事も何回かあった。


 そんな平凡な生活を送っていたある日、クエスト後に酒場へ寄る事にした。


 目的は酒ではない。


 慰霊祭で実感して以来、俺はほとんど酒を飲んでいない。今回酒場へ訪れた理由は情報収集のためだ。


 酒場は冒険者たちが一番よく集まるため、定期的に訪れては情報収集にあたっていた。直接話を聞くことも有ったが、耳を澄ますだけでも色々な情報が入って来る。そのため、ミルク一杯と魚を揚げた物で長時間居座るという事をよくやっている。


 通常であれば出入り禁止になる様な行為だが、酒場が発注している雑用クエストを複数受注しているので、酒場のマスターも許してくれている。


 今目の前にある酒場のドアも、俺が修繕したものだ。

 酒場に入ると、それとなく店内を見回した。


 カウンターには常連のオッサン達が三人。入り口近くのテーブルにはこの街を拠点とする四人組の冒険者パーティー。そして、奥まったテーブル席には見慣れない男女五人組のパーティーが座っていた。


 常連のオッサン達のバカ笑いや、四人組の話し声で会話の詳細は聞こえてこないが、男女五人組のパーティーは何やら深刻そうな話をしている雰囲気だ。


「おぅ、いらっしゃい。こっち座りな」

 酒場のマスターは俺が来た事を確認すると、男女五人組パーティーにほど近いカウンター席へ座るよう促してきた。

 勿論、このマスターは俺が情報収集へ訪れていることは理解している。

「いつもの頼む」

 俺がそう言うと、マスターは既に知っていたかのようにミルクの入ったジョッキと、フィッシュフライをカウンターに置いた。


 初めのうちは色々と注文をしていたが、いつしかこのメニューに固定化されてしまったため、席に着くやいなや出てくるのがもはや当たり前になっていた。


 ジョッキを一口呷ると、奥の席から若い女性の驚いた声が聞こえた。

「なんですって!? あたしをパーティーから追放する!?」

「ああそうだ。聞こえなかったのか?」

「ちゃんと聞こえてるわよ! そのうえで本気で言っているのか確認したんでしょ」

「いいか、これはパーティーの総意なんだ。これから北に向かったという黒竜退治に行くんだ。お前が一緒だと、正直足手まといなんだよ」

「どうして? あたしのどこが足手まといだって言うの? 散々攻撃魔法で援助して来たじゃない」

「確かにお前の魔法は強力だ。しかし詠唱時間が長すぎるし、魔力も大量に消費するからコスパも良くない。魔力切れの度に休憩なんてしていたら時間がかかりすぎる」

「雑魚敵との戦闘だったらコスパが良い方が有利かも知れないけど、黒竜を相手にするんでしょう? なら強力な魔法を使えた方が良いじゃない」

「でもさ、お前の魔法って地属性だろ? 相手は竜だ。空を飛んでる相手にどうやって魔法を当てるんだ? 石でも投げるんですか?」


 リーダーらしき男のその言葉に、周りの連中も笑い声をあげる。


「ウケる。黒竜に石ころなんて1ダメージも入らないっしょ?」

「そうそう。せめて回復魔法が使えればまだワンチャン有ったのにぃ」

 そう言われた若い女性は俯いて肩を震わせている。

「まぁ、そういう事だ。だから、さっさと出て行けよ!」

 リーダーらしき男は座ったまま女性の座る椅子を蹴った。


 俯いたままの女性は、それがきっかけとなったのかテーブルに小銭を叩きつける様に置くと、一言も発さず立ち上がり、肩を怒らせながら酒場を出て行った。


 俺はそれを横目に見ながらジョッキを呷ると、再びパーティーの方へ意識を向ける。追放された女性を追う事も考えたが、今は気が立っているだろうしこちらの会話からの方が黒竜に関しての情報がとれそうな気がしたからだ。


「いやぁ、清々したぜ。最初は魔法を使える奴がいれば戦闘が楽になるかと思ったが、逆にあいつの詠唱を守らなきゃならないしコスパも悪いし、いつ追放してやろうかと思っていたが、皆も同じ思いで居てくれて助かったよ」

「そうですね。リーダー殿の判断は間違っていないと思いますよ。これから長い冒険に出るのです。一つでも不安要素は無くさなければなりませんから」

 大柄の聖職者ぜんとした男が応えた。

「でもよー、これからどうすんだ? 帝国につながる街道は閉鎖されてるし、迷いの森にゃバケモンが出るって噂っしょ?」


 髪の逆立った鷲鼻の男が疑問を呈する。


「ウチは街道一択だと思うんですけど。迷いの森とかバケモンとか正直ダルくない?」

 金髪の薄着の女が気だるそうに頬杖をついた。

「私もどうにかして街道をゆくことをおススメいたします。迷いの森で無駄に疲弊するのは得策ではないでしょう」

「確かにそうだな。お前らの言う通り街道を通る事にしよう。そう言えば、国境付近の街で武術大会が開かれるって話だが、それに優勝すると欲しいものがもらえるらしい。もしかしたら、街道の通行許可証なんかもらえるかも知れないな。それでどうだ?」

「なるほど。それは良い案ですね。では、まずは北の街を目指し、その武術大会で優勝するとしましょう」

「ウチも同意ぃ」

「おっ、そうと決まればもう一度乾杯するっきゃないっしょ」

「そうだな。じゃあ武術大会優勝と、邪魔者の追放を記念して、乾杯!」

「「「かんぱ~い」」」


 乾杯を終えると、くだらない雑談が始まったため俺は耳を傾けるのは止めた。これ以上は有益な情報が出てきそうにない事と、他人の悪口やつまらない愚痴ばかりで気分が悪くなってきたからだ。


 マスターに確認してみると、どうやら昨日訪れたばかりのパーティーらしい。話の内容的に、マスターも少しだけ迷惑そうな顔をしていた。


 しかし、なかなか有益な情報を得ることが出来たかもしれない。恐らくカイルは帝国領にいる事。そして国境は封鎖され、迷いの森という抜け道が有りそうだという事。


 俺は残りのミルクとフィッシュフライを手早く片付けると、カウンターに代金を置いて酒場を後にした。

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