第4話

「海だー!」

「海だね。」

「え、それだけ?反応薄くない?」

この人は海に来たらもれなく全員テンションが上がると思っているのだろうか。

それにしても綺麗だな。

「屋上からちょっと見えたけど近くで見ても綺麗だねえ、どう?海と女子高生。絵になるんじゃない?写真撮ってもいいんだよ?」

「いや撮らないよ」

写真は撮らないがたしかに彼女の言う通り絵になる、さすが学校のマドンナと呼ばれるだけのことはあるな。

いつかあの人が「人生とはわからないものだ」と言っていたがその通りだと今この瞬間初めて実感した。

ほんの1時間前死のうとしていた僕が今、学校のマドンナと海に来ているなんて誰が想像できただろうか。

「ねえ!こっち来てみなよ!暑いとはいえ10月の海はやっぱりちょっと冷たいねえ」

僕がぼんやり考え事をしているうちにもう彼女は靴と靴下を脱いで浅瀬で遊んでいる。

水音を立ててキャッキャッとはしゃぐ彼女はまるで漫画やドラマのワンシーンのようで思わずスマートフォンを取り出して構える。

「写真、撮ってもいい?」

「お、撮るなら綺麗に撮ってよ?てか別にお伺い立てなくてもいいのに、真面目だなあ。」

「勝手に撮って盗撮犯になりたくないからね。」

スマホの画面越しに彼女を見つめる、やはり整った顔立ちをしている。私情を抜きにして美人か否かと尋ねたら百人中百人が「美人」と答えるだろう。

数枚写真を撮ってみたが被写体は常に動いているし僕の写真技術じゃきっとブレているだろうなと思いながら確認をする。

「撮れた?どれどれ綺麗に撮ってくれたかな?」

彼女とスマホをのぞき込む。

太陽の光が水面に反射して、はねた水滴と笑顔がマッチして素人にしては良い出来栄えだと思う。

「おお、めっちゃ綺麗じゃん!え、写真部?カメラマン志望?」

「残念ながらただの自殺志願者です。」

「もったいないなあ、わたしの遺影を撮ってほしいくらいの出来なのに。」

「そんなに長生きしたくないんだけど。」

「遺影を撮ることとそれまで一緒にいることは拒否しないんだ?」

「うわ、そんなトラップが。」

僕たちの笑い声は、波の音に溶けていった。

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