第88話 大勝利とリレイズ

「トオルさん……トオルさん!」


 声が聞こえる。

 透き通った綺麗な声。

 まるで天使のような声だ。


「天使……ああ、ここが天国か。いや、地獄かもしれない」


 僕はうっすらと目を開ける。


「っ! トオルさんの目が覚めました! トオルさん! 私のことが分かりますか!?」


「あれ? ここは天国でも地獄でもなさそうだな。妙にファンタジーな世界だ。そうか! ここは異世界! ついに僕は異世界転生を果たしたのだ!」


「ああ……トオルさんが訳の分からないことを口走っています。痛みに精神が耐えられなかったのでしょうか? ……ううっ」


「ヒカリさん、安心してね。それ、いつもの兄さんだから」


「ククク、トオルはいつもこんなこと言ってるのか?」


 千奈?

 それに僕に声をかけてくれていたのは天使ではなく、ヒカリだった。

 そばにリルの姿も見える。


「もしかして、僕は……生きているのか?」

「トオルさん!」

「ヒカリ!」


 ヒカリが僕の名前を呼ぶ。

 そして僕は両手を広げて、ヒカリを抱きしめる姿勢に入った。

 感動の……再会だ!


「トオルさんの……バカぁぁぁぁぁぁ!」

「ええっ?」


 なぜか怒られた。


「何を考えていたんですか? 死ぬ気だったんですか? みんなを守って死ぬことが、かっこいいとか思っていましたか? そんなの最低です! 死ねばただの負け犬です! トオルさんは、負け犬です!」


「ヒカリさん。よく言ったわ。まったく……このバカ兄は……」


 散々な言われようだった。おかしい。

 ここは英雄扱いされても良かったはずだが……。


「もっと周りのことを考えてくださいよぅ。トオルさんが死んだら、残された私はどうなるんですか? うわああん!」


「そうよ。兄さんが死んだら、私……私……っ! うっ」


「うわ! ご、ごめん!」


 ヒカリはともかく、千奈までも泣きそうになって僕を見ている。


 これは意外だった。

 どうやら、みんなに大きな心配をかけてしまっていたらしい。


「兄さんが死んだら、私は最高のサンドバックを失ってしまうじゃない!」


「えっ? サンドバック?」


「ゴホン。兄さんが死んだら、私は最愛の兄を失ってしまうじゃない! そうなっては、生きていけないわ!」


「そうですか」


 前半部分は、聞かなかったことにします。


「でも、なんで僕は生きているんだろう?」


「ヒカリのおかげだ。お前、最後にヒカリに魔法をかけてもらっただろ?」


 確かにヒカリが気を失う直前に魔法をかけてもらった。

 強化魔法だと思っていたが……


「あれは、リレイズだ」


「リレイズ!?」


 そういえばすっかり忘れていたが、ヒカリは死亡した時に自動で復活できるリレイズを習得していたのだった。


 しかし、リレイズは生き返った時の体力が1だ。

 普通はその時の激痛で、誰もが発狂してしまう。


 故に封印していたのだが、僕は痛みを感じないので、僕にとっては非常に有効な手段だったのだ。


 確かにそろそろリレイズの封印が解除される頃だった。


「よく気付いたわ。本当にファインプレイよ。ヒカリさん」


「えへへ。ブイ! です」


 ヒカリが千奈に向けて得意げにピースサインを送っていた。

 確かにリレイズは盲点だったかもしれない。

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