第86話 ラスボスはたまに自爆をする

 ついに魔王は倒れた。

 だが……


「ふ、ふふ。これで終わりではありません」


 ネビュラは未だ笑っている。

 奴はまだ完全には死んでいない。


「こうなったら道連れです! あああああ!」


 ネビュラが力を込めた瞬間、奴の体が赤く光り輝いた。


「自爆します! このネビュラ、最後の輝きを刻み付けなさい!」

「ち、ラスボスなのに、自爆なんかするなよ」


 とどめを刺そうとネビュラに剣を向けるが、奴は嫌らしい笑みを浮かべている。


「私に触れたら、その瞬間に爆発しますよ?」

「……くそ」


 ハイドラといい、こいつといい、なんでこの世界のボスはこうも自爆したがるのか。


 僕はネビュラに向けた剣を振り下ろすのをやめて、飛び上がって天井を切り裂いた。


 天井が割れて、空が見える。


「ちょっと強引だけど、ごめん」


 倒れていた三人を思いきり投げ飛ばす。

 三人は空へと消えていった。


 このゲームは味方による攻撃ではダメージは受けないし、落下によるダメージも無い。


 僕がどれだけ強烈な力で投げようが、地面に激突しようが、ノーダメージなのだ。

 これで皆は、ネビュラの自爆に巻き込まれることはない。


 そしてその先には、リルを仲間にした時に訪れた町がある。

 そこに着地するように投げた。


 加減は難しいが、『底力』により、僕たちは力を調整する能力も人並み外れている。


 きっとうまくいくはずだ。

 誰かが皆を回復してくれるだろう。

 後は、僕が逃げるだけだ。


「貴方だけは、逃がしません!」


 しかし、城が結界で覆われた。

 結界を破壊しようと、剣で切るが、まるで手ごたえが無い。


「無駄です。その結界は、物理攻撃無効です」


 つまりは絶体絶命。

 もう助からない……か。


「ふふ。仲間を救い、英雄になるはずだった貴方だけが、この場で死ぬです。ねえ、どんな気分ですか? 悔しい? 悔しいですよね!? ファハハ!」


 魔王が笑う。

 最後に僕の悔しがる顔を見たかったようだ。

 だが……


「悪くない気分だよ」


 どうしてだろう。

 今の僕には満足感しかない。


 自分の事しか考えない僕がこの状況でこんな気持ちになるとか、思いもしなかった。

 ある意味では、これもネビュラのおかげかも知れない。


「ネビュラ。君に感謝しよう」

「…………ち」


 最後の最後で奴に対して思うのは、怒りでも恨みでも呪いでもなく、感謝だった。

 やはり、僕は頭のおかしい化け物なのかもしれない。


(ごめん)


 僕は最後に『俺』へ謝った。

 あいつに関しては完全に僕のとばっちりだ。


(なに言ってんだ。最高だよ。最高に楽しかったぜ、ご主人様)

(ありがとう)


 『俺』も満足してくれていたようだ。

 よかった…………と言うべきかは、分からないが。

 僕は『俺』へ体の主導権を渡す。


(なんの真似だ?)

(最後の時間は、君が使えばいい)


 今まで僕のために『悪』を演じてくれていた『俺』。

 最後くらい彼の好きにさせてやりたい。


 もう、に何かする必要はない。

 彼を縛り付けるものは全て取り払う。


(これで、君は自由だ。後は好きにしなよ)

(そうか。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうぜ)


 正直な話、『本当の自由』を得た俺が最後に何をするのか興味もあった。

 俺が最後に選んだ時間。それは……


「よっす、魔王さん。ちょっと話そうぜ」


 自分を殺す相手との対話だった。

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