第85話 中二病コンビネーション

 そうして最後の戦いが始まった。 


「今度こそ、死になさい!」


 ネビュラの魔法兵器による一斉射撃が、今度は『不規則』に僕を襲う。


 正面からの攻撃は『底力』で強化された素早さで、スロー補正がかかるため、回避できる。


 だが、左右や後ろからの攻撃は避けられない。

 これは千奈でさえ対応できなかった攻撃だ。

 本来なら、回避不可能のはずだった。

 しかし……


(ご主人様、右に避けろ。その次は左だ)


 『俺』によるサポートがあれば、話は別だ。


(見えない部分は俺に任せろ。俺がナビをしてやる)


 最初に『俺』がネビュラと戦闘をした理由だ。

 奴はそうして敵の攻撃パターンを見切っていたのだ。


 正面の攻撃は『僕』。死角からの攻撃は『俺』。

 お互いにできる事を集中すれば、ネビュラの攻撃にも対応できる。


 やはり、『俺』はもう僕の妄想ではないかもしれない。

 僕たちは二つの人格に分かれていたのかもしれない。


 そして『僕』が『俺』を完全に認めたことで、僕たちは連携することが可能となったのだ。


「な、なんだ? 二人いる!?」


 ネビュラにも見えているのだろうか。

 いや、あるいは幻想なのかもしれない。

 もっと言うなら、全てが僕の『妄想』の可能性すらある。


 でも、今は考えない。

 ただ、敵を倒す。それだけだ!


「くうう! あと1なのに! たった1を削ればいいだけなのにっっ!」


「その『1』がお前のミスだ」


 ネビュラは失敗した。

 人々が苦しむ姿を見たさに、どうせ痛みで誰もその恩恵を発揮できないと思って、本当に『底力』の効力を数十倍にしてしまった。


 僕たちのような痛みを感じない体質を持つ人間がいるなんて、夢にも思わなかったのだ。


 さらに軽々しく『愛の無い天使』を発動した事も失敗だろう。


 いくら痛みを感じなくても、体力をちょうど『1』に調整するのは、本来なら難しいはずだった。

 ダメージを食らいすぎると、死んでしまうからだ。


 しかし、愛の無い天使は確実に体力を『1』にする仕様なので、僕たちは図らずとも最強の底力を発動することができた。


 言ってしまえば、ネビュラは自ら最強の敵を生み出してしまったことになる。


 その能力は、光の速さのレーザーすらスローモーションにしてしまうほどのスペックだった。


 そこに加えて最大級の中二病ブースト。

 更にはリルとヒカリの強化魔法で僕の強化倍率を底上げしている。


 とどめは『僕』と『俺』の連携攻撃。

 あらゆる点で既に死角はない。

 今の僕たちを超える人間は、間違いなく存在しないだろう。


「化け物! あなたは、化け物です!」

「上等だよ、魔王」


 そんなものはこの世界で何度も言われてきた言葉だ。

 もはや慣れてしまった。


 今更そんな事を言われても、僕は何も感じない。

 この世界での洗礼は、色々な意味で僕を変えた。


 それが良い事なのか、悪い事なのか。分からない。

 でもいいじゃないか。それが僕だ。

 もう目を背けない。逃げるのはやめだ。


 痛み、化け物、クズ、人間失格。

 いいだろう。これら全てを受け入れてやる!


 なんとでも呼ぶがいいさ。

 こいつを倒すためなら……初めてできた友達を守れるためなら、僕はどんなものにだってなってやる!


 ネビュラ本体に剣が届く位置まで近づいた。

 ここで一撃を決めれば僕の勝ちだ。

 底力で圧倒的な攻撃力を得た今なら、その一撃で決まるだろう。


「馬鹿め! そもそも剣士で私には勝てないのですよ!」


 歓喜の表情となったネビュラが剣を構える。

 勝利を確信している顔だ。

 奴の素早さは50000。

 それは速度を超える事は誰にもできない。

 その速度は、防御も回避も不可能。

 僕の体力はたった1。


 ネビュラに近づいた時点で、僕たちの負けは確定のはずだった。

 しかし……


「はあああああ!」


 互いに一閃。

 その瞬間、全ての音が止まった。

 勝ったのは、僕なのか。

 それとも、魔王か。


「ふ、ふふふふふ」


 魔王が笑う。

 勝利の笑み?


「あなたは本物の……化け物です」


 違った。

 それは絶対に勝つはずの自分が負けた。

 そのあり得ない事実が、あまりにもおかしくて、自然と出た笑い声だった。


 そう、防御も回避も不可能なら、先に攻撃を当ててしまえばいい。


 レベル99で最大限まで上がったステータスを、底力と中二ブーストにより数十倍に引き上げて、さらに強化魔法で底上げした僕たちの最後の攻撃。


 それは、わずかにネビュラの攻撃の速度を上回っていた。

 僕たちの剣が不可能を可能にしたのだ。

 魔王が、その場に倒れた。


「ふう」


 勝った。

 僕は勝利の手ごたえを感じ取っていた。

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