第84話 『本物』の中二病

 『俺』が僕に話しかけてきた。

 僕が『俺』を認めたことで、脳内で普通に会話が可能になったようだ。


(変わろうか? ご主人様)


(ありがとう、でも、僕がやるよ。最後くらい、自分で決めないとね)


(いい返事だ。ただ、ちょっとだけ俺にやらせてくれないか? それに奴とも話がしたい)


(分かったよ)


 出来る限り『俺』の願いを叶えると決めていた。

 それに『俺』には何か考えがあるようだ。


「やあ、おはよう。『俺』が目覚めたぜ」


「……おはようございます。貴方はいったい何者です?」


 ネビュラの方もさすがは魔王の気概というか、『俺』に対して、大きな戸惑いはないようだ。


「いい女じゃないか。気に入ったぜ。俺の女にならないか?」


「奇遇ですね。私も貴方を気に入ったところです。貴方こそ、私のものになりませんか?」


「いいや、駄目だ。お前が俺に全てを捧げるんだ」


「いえいえ。貴方が私の忠実な部下となるのですよ」


 互いに狂った価値観を押し付け合う二人。

 ある意味では気が合うのかもしれない。

 永遠に結ばれることは無いだろうけど。


「つまり、勝った方が言う事を聞くって事で、いいですね」


 ネビュラが魔法兵器を展開する。

 僕達が話し込んでいる間に、全ての魔法兵器の再生が終わってしまっていたらしい。


「馬鹿な奴です。悠長に仲間と話しているから、私に回復と動ける時間を与えてしまったのですよ」


「そんな勝ち方をしても、つまらんだろ? それに、お前に構うより仲間との時間の方が大事だったらしいぜ」


「それは、私が『下』だということかぁぁぁぁ!」


 魔法兵器の一つが『俺』を襲う。


「なるほど。早い。だが……」


 その攻撃を『俺』はギリギリ避ける。

 本来なら光の速さのはずだったレーザー。

 だが最大レベルの底力の恩恵によって、今の『俺』の世界は全てが遅いのだ。


「ふ、なるほど。口先だけではないようですね。ですが、次の攻撃を避けられますか? 今度は左右に加えて、前後からも行きますよ」


 だが、ネビュラにはまだ余裕があった。

 なぜなら、奴の本気の攻撃は、常人には回避不能だからだ。


「確かに、それは避けられないな」


 静かに目を閉じる『俺』。そして……



「俺だと、あんたには勝てない」



 あの『俺』が負けを認めた。

 どんな相手にでも理不尽に勝利してきた『俺』でも、ネビュラには勝てなかったのだ。

 まさしくネビュラは、最強の魔王だろう。


「おや、認めますか。なら、諦めて私の部下となりますか?」


「くくく、『俺』だと無理だが、『俺じゃない』なら話は別だ」


 その声は、この上なく嬉しそうだった。


「そもそも、どうして俺が奴を『ご主人様』と呼んでいると思う? 根っこの部分では、奴の方が俺より『上』だからだよ」


「何を言っているのですか?」


「こういうことだ。代わるぜ、ご主人様」


 そうして『俺』が目を開けたころには、再び主導権が『僕』に代わった。


 ……ああ、そうか。そういう事だったのか。


 まったく、『残酷』な事をしてくれるよ。

 でも、覚悟を決めよう。『受け入れよう』


 自分の中の全てを…………さらけ出してしまえ!


「こ、これは!?」


 そんな僕を見たネビュラが、驚愕と恐怖の両方を併せ持つ表情をしていた。



「な、なんだ、この『中二病ブースト』の異常な数値は!?」



 そうだよ。当たり前だろ。

 だって僕は、もう一人の自分という『妄想』を作り出して、そいつを『悪』という事にして、自分は『正義』のヒーローという妄想をさらに重ねて生きてきた人間だ。


 妄想による妄想だけの人生。

 なんというクソガキ。

 恥ずかしいなんてものじゃない。


 その妄想は、『傷みを感じない』というあり得ない現象すら引き起こした。

 そんなの最高レベルの『中二病』に決まっている。

 だが、それが『中二病ブースト』として、この世界で力となるのだ。

 それなら、認めるしかない。


 『僕』も『俺』もスペックは変わらない。

 でも、中二病という点では大きな違いがあった。


 今まで『俺』が強烈な中二病だと思っていたが、それは大きな勘違いだった。

 『俺』の中二病なんて、ただのだったんだ。


 根っこの本当の中二病は、主人格の僕だった。


 僕こそが、のだ。


 『俺』との対話で理解はできた。

 受け入れる覚悟もできた。

 後は、ただ前に進むだけだ。


 「さあ、始めようぜ」


 自分を解放する。

 口調が『俺』に似て来たのが分かる。


 そうだよな。

 だって『俺』は僕の一部であり、同一の存在なのだから。

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