第81話 魔王の奥の手?

 魔王の猛攻が千奈を襲う! 

 すでに千奈は攻撃を完全に回避する事を放棄しているようで、ひたすら頭や首への直撃を避けることに集中している。

 それ以外の部分は捨てていた。


「くっ!」


 肩に膝、千奈の綺麗な肌がレーザーに貫かれて、傷ついていく。

 傷自体は速攻でヒカリが治してくれるので、千奈は何とか急所への直撃を避けることができていた。


 それでも、千奈には凄まじい激痛が頭に残るはずだ。

 これでこの子の心が持つのか!?


 激痛に耐える千奈。

 こんなに辛そうな千奈を見るのは初めてだ。

 ヒカリも心配そうな表情となりながらも、ヒールを唱え続けているが……


「兄さん、ごめん」


 千奈がついに膝をついてしまった。

 やばい!

 ひょっとしたら、千奈の心が限界を迎えてしまったのか!


「痛みによる屈服完了。さよならです」

「やめろぉぉ!」


 嫌らしい笑みを浮かべたネビュラを見た瞬間、僕は奴に向かって自然と剣を投げていた。

 しかし、剣はまるで見当違いの方向へと飛んで行く。

 コントロールの悪い僕の腕では、ネビュラに直撃させることはできない。


 だが、その剣は運よくネビュラの魔法兵器へと命中した。

 ボンッと音を立てて、魔法兵器の一つが爆発する。


「ち、雑魚の分際で!」


 ネビュラの怒りの声が聞こえてくるが気にしない。

 僕が気にしているのは千奈だけだ!


「千奈! 頑張れ!」

「っ!」


 武器を失った僕には、もう応援することしかできない。

 だから、その分だけ全力で千奈にエールを送る。

 千奈にその思いが届いたのか、気迫を持ち直したようだ。


 加えて攻撃兵器を一つ破壊したことで、わずかながら千奈の負担は軽くなった。

 さらに目が慣れてきたのかもしれない。


 少しずつ回避の成功率が上がってきている。

 千奈……もう少しだ。もう少しだけ耐えるんだ。


「待たせた! よく頑張ったな、センナ!」


 リルの声が聞こえた。

 アルマゲドンの詠唱が終わったのだ!

 本当に、待ちくたびれたよ!


「これが神の怒りだ! アルマゲドンっっ!」


 そうしてリルがアルマゲドンを放つ。

 その瞬間、ヒカリが沈黙草を使う。


 これで相手を回復させてしまうことはない。

 しかし、それは同時に千奈も回復することができない。

 この作戦は諸刃の剣でもあるのだ。


 今の疲弊しきった千奈が隕石を避けきれるのだろうか?

 いや、千奈ならきっと全て弾いてくれるはずだ! 僕は信じている!

 ネビュラの方は即座に魔法兵器を自分の元に呼び寄せて盾にしていた。


「ぐ、うううう!」


 しかし、無数の隕石がその盾を破壊して、ネビュラ本体にダメージを与えていく。

 ネビュラは移動できないので、防御するしか方法が無いのだ。

 もっとも、動けたところであの隕石を回避するのは、千奈以外には不可能だろう。


 千奈の方は、きちんと隕石を弾き返している。

 心配は無用だったようだ。


 確かにあの光のレーザーに比べたら、相対的に隕石の速度は劣る。

 その間も隕石はネビュラに確実にダメージを与えていた。


 今回はヒカリの魔法を封じているため、回復魔法は発動しない。

 そして、アルマゲドンが終わった。


 千奈は無事に全ての隕石を弾いたようで無傷だ。

 ネビュラの方は全身が傷だらけとなっている。


「くっ、やってくれますね」


 しかし、奴はまだ生きていた。

 これは……まずいんじゃないか?


「ち、一発では倒せなかったか!」


 そのネビュラの姿を見たリルは、即座に再びアルマゲドンの詠唱を始めた。

 しかしその間、千奈はどうなる?

 ヒカリは回復を使えないぞ!


「安心しろ。奴の魔法兵器は全部壊した。再生するが、ボクの詠唱が終わるまでに、せいぜい1個か2個だ。それぐらいだったら、センナなら十分に対応できる。次のアルマゲドンで終わりだ!」


 その言葉を聞いて安心した。これで勝ったも当然だ。

 ネビュラはこちらの方を恨めしそうに見ている。

 奴は移動ができないため、どうしようもないのだろう。


「千奈、よく頑張ったね」

「兄さんの言葉のおかげよ。あれが無ければやられていたわ」


 ここまで来れば、僕達の勝利は確定だ。

 後はリルの詠唱が終わるのを待つだけである。


「ふふふ……はははははは!」


 しかし、突然ネビュラが笑い始めた。

 気が狂ってしまったと思いたいが、僕には嫌な予感が拭えなかった。


「素晴らしい。まさかここまで追いつめられるとは……。あなた達は真の勇者ですよ」


「それはどうも。命乞いのつもりかしら?」


 千奈が警戒しながらネビュラを睨み付ける。

 この子も嫌な予感がしているらしい。


「敬意を表して、あなた達には私の『奥の手』を披露して差し上げましょう!」

「なに! まだ攻撃パターンがあったのか!?」


 ネビュラの攻撃は、接近攻撃とレーザーの二つだけではなかったのだ!

 ネビュラの体が輝き始める。

 奴の言葉によると、奥の手らしいが、一体どんな攻撃なんだ!?

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