第80話 千奈VS魔王

 いよいよ魔王と対面。

 今からラスボス戦が始まる。


「おや? リルさんじゃないですか。また来たんですか? あなたも懲りない方ですねぇ。パーティーを変えても、結果は同じですよ?」


 ネビュラが余裕たっぷりな様子でリルを見ている。

 確実に負けない自信があるらしい。


「ククク、同じかどうか、よく見ておくがいい。今度こそ、ボク達が勝つ!」


 リルも負けずに鋭い目つきでネビュラを睨み返す。

 彼女にとってはリベンジマッチだ。


 さて、僕達の作戦が通用するかどうか。

 さすがに少し緊張してきた。


「そういえばレオンさんは何処に行ったのかな? あの子に始末を任せようと思ったのに……」


「ああ、あいつなら、その先の洞窟で精神崩壊をおこしているわよ。私達の敵じゃなかったわね」


「ほほう?」


 不敵に笑う千奈。

 どうやらそれはネビュラにとって予想外だったらしい。


「不死身のレオンさんを倒したのですか。なるほど」


 ネビュラの目が細くなっていく。

 本性を現したか。


「どうやら、本当に腕を上げたようですね。いいでしょう」


 そうしてネビュラの周りに八つの光の玉のようなものが出現した。

 これが奴の攻撃用の魔法兵器らしい。


 それを見た千奈が少しずつ前へ歩いていく。

 大きく距離をとったリルは、すでにアルマゲドンの詠唱を始めていた。


「千奈、気を付けて」


 この子なら、どんな攻撃でも回避できるはずだ。

 それでも、僕は嫌な予感が頭から離れない。


「おやおや、最初の生贄はあなたですか。では、死になさい」


 その瞬間、ネビュラの魔法兵器の一つが光った。


「っ! くっ!」


 千奈がギリギリその光を避ける。

 遅れて地面には小さな穴が空いていた。

 それを見たヒカリが、震える声で口を開く。


「い、今のはなんですか? なにかが光っただけにしか見えませんでした」


「も、もしかして今のが攻撃だったのか!? 高速レーザーってレベルじゃないぞ! 光そのものじゃないか!」


 あまりにも早い攻撃だったので、僕達にはただの光にしか認識できなかったようだ。

 それでも、千奈はその攻撃を見切っていたらしい。


「…………まずいわ。思ったより、早い」


 しかし、そんな千奈の額から汗が流れ落ちる。

 この子が、こんなに焦った表情をしたのは初めてだ。


「よく避けましたね。誉めて差し上げましょう。でも、八連続でこの攻撃をかわせますか?」


 そうだ!

 ネビュラの魔法兵器は全部で八つある。

 今の速度の攻撃を様々な角度から八つ同時に攻撃されてしまったら、どんな人間でも回避不可能だ。


「では、本番と行きましょう! 今度は八連続です!」


 八つの魔法兵器を同時に展開させるネビュラ。

 それらは左右、そして前後からも攻撃を仕掛けてくる。


 何処からレーザーが来るか分からない!

 こんなのどうやって避けるんだ!?


 それでも必死に攻撃を避け続ける千奈だが、これだけの攻撃にさらされたら、いくらあの子でも避けきれない。


「ぐうっ!」


 千奈の肩から鮮血が飛び散る。

 ついに……攻撃を当てられてしまった!

 そんな……千奈がやられる?


 この子はいつだって、どんな相手にだって、圧倒的な勝利を収めてきた。


 魔物の群れに、ゴブリン希少種。無敵の魔人レオンも、30人のハイドラも、千奈の足元にも及ばなかった。


 だが、最強の魔王ネビュラは、そんな千奈をもさらに凌いでいたのだ。


 こんな奴が存在するなんて、悪夢だ。

 傷ついてバランスを崩す千奈。

 そんな彼女を見たネビュラの顔が狂気へと歪む。


「よく頑張りました。でも残念、これで終わりです」

「させません! ヒール!」

「む?」


 一撃でも攻撃を当てられてしまったら、痛みで集中ができなくなる。

 本来ならそこでネビュラの勝利が決定していただろう。

 だが、千奈の傷は、ヒカリによって瞬時に回復した。


「助かるわ。これでまた戦える。ありがとう、ヒカリさん」

「はい。でも、無理はしないでください」

「残念だけど、そうもいかないようね」


 千奈がネビュラに目を向けると、奴は鋭い目つきでこちらを睨み付けていた。


「い、今のは詠唱破棄? ふん、なるほど。そうやって耐える作戦ですか。なかなか面白い」


 ネビュラの目が本気になる。

 全力で殺しにかかるつもりだ。


 確かに千奈の傷は回復した。

 ただ、それでも一瞬とはいえ、千奈は『激痛』を感じたはずだ。


 その『痛み』は頭の中に少なからず残っている。

 つまり、体のダメージは回復できるが、心のダメージは回復できない。

 果たして、千奈の『心』は持つのだろうか?


 リルの詠唱はまだ終わらない。

 相手の攻撃が速いという事で、相対的にリルの詠唱時間が長く感じられる。


「ならば精神を壊すまでです! この痛みに耐えきれますか!?」


 ネビュラによる怒涛の攻撃が再び始まった。

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