第79話 最終戦に向けて作戦会議
ハイドラ30人を一瞬にして撃破した僕たち。
量産されたから、弱体化されていたのだろうか?
「いや、センナが強すぎて分かりにくかったが、それでもハイドラはかなりの強敵だったはずだ。本来なら、もっと苦戦してもおかしくなかった」
確かに、ハイドラが弱かったわけではないか。
こちらの戦力が強すぎたのだ。
「前に来た時はこいつらを全部倒すのに一時間はかかった。だが、今回は時間が10分を切っていたよ。こんなことができるのは、ボク達だけだろう。ククク、闇が震えるぜ」
それぞれラスボス前のいい運動になったようだ。
それだけでなく、改めて自信をつけることもできた。
コンディションは最高の状態でネビュラに挑めると言えるだろう。
「さあ、いよいよラスボス戦だ。その前に作戦会議をしよう」
目の前には大きな扉がある。
この先にネビュラがいるのだろう。
だが、その前に魔王についての情報を聞く必要がある。
「そうね。魔王ってのがどれほどのものか、聞きたいわ」
以前にリルはこの最強メンバーでも勝てるかどうかは微妙だと言っていた。
ネビュラはそれほどの強敵というわけだ。
「ネビュラの脅威は主に二つだ。一つは『素早さ』が桁外れなんだ」
「速さなら、私も自信があるわ」
「あいつの素早さが50000だと言ってもか?」
「ご、50000!?」
僕が驚愕の声を上げる。
千奈もさすがに驚きを隠せないようだ。
こちらの素早さは900程度だ。
それと比べたら、ネビュラの素早さは、まさに桁外れだったのだ。
「だが、安心しろ。ネビュラは戦闘中、移動ができない」
移動できない?
それなのに素早さが50000とは、どういう事だろう?
「つまり、近づいたらダメってことだ。接近戦じゃ異常な速さの攻撃で真っ二つにされる。しかし、飛び道具だったら攻撃ができる」
飛び道具。
要はリルのアルマゲドンでダメージを与えるという事だ。
「ただ、ここでネビュラのもう一つの脅威が関わってくる。あいつはレーザーも撃ってくるのだ。具体的に言うと、ネビュラが作る魔法兵器による飛び道具だ。最大で八個まで使ってくる」
リルの魔法にはどうしても詠唱時間がいる。
魔法を唱えている間に、そのレーザーとやらでやられてしまうのだろう。
「とはいえ、そのレーザーは必ず近くのキャラを攻撃する特性がある。だから、誰かがボクより前に立っていれば、こっちにはレーザーが飛んでこない」
リルの作戦は分かった。
彼女が詠唱している間に、僕達がそのレーザーを引き付けておけばいいわけだ。
「問題はそのレーザーは頭に直撃すると、一撃で即死するほどの威力だ。しかも、素早さ50000の異常な速さだから、常人には回避不可能なのだ」
一撃で即死してしまうなら、底力が発動できない。これは困る。
僕は残念ながら、ネビュラ戦ではお荷物みたいだ。
「でも、ボクらのメンバーには、常人離れした反射神経を持っている剣士がいる」
リルの目が千奈に行く。
「なるほど。私がレーザーの引き付け役になるしかないみたいね。さすがに10000のスピードを持つ相手と接近戦をするのは無理だけど、飛び道具なら、距離さえ離れていたら見切ることができるかもしれないわ」
かもしれないとは、千奈にしては弱気な台詞である。
「レーザーはかなりの速さだ。いくらセンナでも、あれを見切るのは難しいかもしれない。しかも八個の魔法兵器が同時に撃ってくる可能性もある」
「それでも、その作戦しかないのでしょう? ふん。面白いじゃない。やってやるわよ」
千奈が決心に燃える瞳でリルを見ていた。
確かにこれは千奈じゃなければできない作戦だな。
「あの……私は何をすれば……」
「ヒカリはセンナがダメージを受けた時に、即座に回復してくれ。いくらセンナでも急所に直撃は食らわないにしても、何回かはダメージを受けてしまうはずだ」
この世界では、一度でもダメージを受けると痛みのせいで大きく不利になる。
「一秒でも早くセンナの痛みを消してやる必要がある。そうやって耐えていく作戦だ」
ヒカリがいれば傷は一瞬で治る。
万が一、千奈が攻撃を当てられても、リカバリーが効く。
「ボクがアルマゲドンを使ったら、そのタイミングで、ヒカリは沈黙草を使ってくれ」
「わ、分かりました。頑張ります」
「最後にトオルだが…………お前は基本的に『待機』でいい」
「う、うん。今回は役に立てそうにないよね。ごめんね」
最終決戦で指を咥えて見ているしかないとは。
自分の無価値さが痛感できてしまう。
「違う。痛みに耐性のあるトオルは、なにか不測の事態が起きた時のための切り札だ。もし、なんとかして底力が発動できれば、センナを手伝ってやってくれ」
「そうだね。分かったよ」
そうだ。
今の僕だって、できる事はあるはずだ。腐るのはやめにしたんだ。
「ネビュラは強敵だが、攻撃パターンは単純だ。近接攻撃とレーザーの二つだけ。だから、この作戦がうまくいけば、勝てるはずだ」
確かに話を聞く限りでは、この作戦しかなさそうだ。
色々とややこしい言い方をしてしまったが、まとめると、こうだ。
リルが魔法で攻撃する。
千奈が囮になって、詠唱時間を稼ぐ。
ヒカリが回復をする。
うん、シンプルだ。
最終決戦にこそ、シンプルな戦いが相応しいのかもしれない。
「さて、では決戦と行こう。準備はいいか?」
「ええ、オーケーよ」
千奈が軽くストレッチをしながら答える。
いよいよ、ラスボス戦が始まる。
リルが扉に手を当て、力を込めた。
ゴゴゴ、という大きな音を立てて、ゆっくりと開いていく扉。
僕には、その時間がやけに長く感じられた。
完全に扉が開いた先に、ネビュラは君臨していた。
初めにこの世界に来て出会ったきりなので、久しぶりの対面だ。
思えば、ここに来るまで色々とあったものだ。
前回とは違って、禍々しくも妖艶なドレスを纏っているネビュラは、魔王のようでもあり、女王のようにも見えた。
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