第74話 カオス・オブ・アルマゲドン!!

 敵も味方も壊滅させる禁断の魔法、アルマゲドンをリルが放った!


「ば、馬鹿な。本当に撃ちやがった!!」


 レオンが驚愕して目を見開く。


「ははは! 祭りの始まりだなぁ!」


 そして『俺』は期待に目を輝かせる。


「……ふん」


、千奈は目を細くして降り注ぐ隕石を見つめていた。


 そうして、襲い来る無数の隕石。


「ぐぎゃあああああ!」


「おおおおおお! いいねぇ!」


 レオンを巻き込んで、『俺』の体が隕石に貫かれていく。

 衝撃で両手足の鎖が砕けた。

 この鎖は物理攻撃が無効だが、魔法には弱かったようだ。


「はっ!」


 そして千奈の方は、なんと降り注ぐ隕石を手に持った剣で全て弾き飛ばしていた。

 普通は見切れない速度で降ってくる隕石もレベル99の千奈にとって弾くのは容易な事らしい。


「さあ、ヒカリ! 出番だ! 貴様の眠れし神を解放するがいい!」


「了解です! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール!」


 常人をはるかに超えた速度で回復魔法を連射するヒカリ。

 その速度は無数の隕石に遅れを取っていない。


 今の彼女は、ただ本能に従って回復魔法をかけているのだろう。

 そこには判別という概念はない。


 完全に無差別に放たれているその回復魔法は、隕石に貫かれた『俺』とレオンを一瞬で回復する。


 なおも降り注ぐ隕石。

 『俺』とレオンは隕石に貫かれては回復し、また貫かれる。


 そして、これこそがカオス・オブ・アルマゲドンの概要だ。


 説明すると、アルマゲドンは敵味方の識別はないが、千奈はその常人離れした反射神経である程度は弾き返す事が可能だ。

 しかし、『俺』の方はそんなスキルはないので、全部食らってしまう。


 ただし、隕石の一発の威力は低いので、決して即死することはない。

 つまり、ヒカリの高速ヒールが間に合う。


 ダメージによる激痛に関しては、『俺』は痛みを感じない……というか、痛みが嬉しい刺激になるので問題ない。

 ただし、相手にとっては……


「や、やめろぉぉ! 回復するな! 死なせてくれぇ!」


 レオンが懇願するように声を上げている。

 奴は不死身なので、一回死んでしまった方が、隕石による『痛み』から逃れられるから都合がいいのだ。


「おおっ! 素晴らしい! こんなに何度も回復ができるとは! 我の回復を見よぉぉぉ!!」


「よせぇぇぇぇ!」


 しかし、レオンの死は中二病状態となったヒカリの回復魔法によって、ことごとく阻止されていた。

 この世界で魔族は痛みが十分の一だが、それでもこの隕石乱射による激痛は耐えられるものではない。


 

 それがカオス・オブ・アルマゲドンなのだ。


「た、助けてくれえ!」


 たまらず離脱しようとするレオン。

 隕石の範囲外に脱出するつもりだ。


「はっはっはっ。どこへ行こうというのかね?」


 どこかの大佐のような声を出しながら『俺』はレオンの手を掴む。


「ここで逃げたら、魔人の名折れだぜ」


「は、離せぇぇ!」


 『俺』に掴まれてしまい、レオンはとうとうこの地獄から逃げ出す術を失ってしまった。


「ヲヲヲ、これほど回復ができるとは……これほどの幸福が存在するか!? いや、無い!!」


 ヒカリは完全に中二病を発動させていた。

 もはや誰にも止められない。


「く、狂ってる! こいつらは完全に狂ってるそぉぉぉ!」


 頭を抱えたレオンの絶叫が、いつまでも洞窟内へ響き渡る。


「そう言うなよ。あ、そういえば、お前は以前、俺の事をとか言ってくれたな。嬉しかったぜ。俺も同じ気持ちだ。さあ、同じ家族として、いつまでもこの痛みを楽しもう! そう、永遠に……な?」


「ひいいいいいい!?」


 家族、という言葉を聞いて、リルがピクリと反応した。


「お前も『家族』だ」


「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 延々と続く隕石による無差別攻撃とヒールによる無差別回復。

 隕石に貫かれ続けながら笑い続ける『俺』。

 ありえない速度で回復魔法を唱え続けながら、喜びを感じている死神ヒーラー。


 これぞまさにカオス・オブ・アルマゲドン!

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