第72話 天才VS魔人

 ヒカリ、千奈、リル。

 絶体絶命のピンチに仲間が駆け付けてくれた!


「レオンか! ち、厄介な奴が現れたぜ」


「ふ、リルか。狂気の神ゲーマーよ。今の俺は、お前よりも上だぜ」


 僕とレオンとリル。

 奇しくも始めは同じだった三人がこの場に揃っている。


 しかし、今は敵同士だ。

 この因縁に決着をつける時が来たようだ。


「に、兄さん……」


 僕の姿を見た千奈は血の気が引いた顔となっている。

 今の僕は炎と雷と氷で炙られている。

 酷い状況に見えるだろう。


「…………っ!」


 次の瞬間、千奈の姿が消えたかと思えば、レオンの目の前に移動していた。

 そしてレオンに向かって、鋭い剣撃を放つ。


「おっと!」


 驚きながらも、レオンは千奈の攻撃を避けた。

 千奈の攻撃を回避するなんて、さすがにレオンも相当の手練れのようだ。

 その隙に、ヒカリは僕に回復魔法をかけてくれる。


「覚悟はできているんでしょうね? クソ野郎」


 千奈の恐ろしくも冷たい声が洞窟内に響く。


「くくく、誰に向かってものを言ってるんだ? 女」


 その声を聞いて、レオンも挑発的に笑う。

 自分のことを『無敵』と言うだけあって、奴もかなりの自信があるようだ。


 千奈VSレオン。

 天才と無敵の戦いが、今始まろうとしている。


「許さない。絶対に許さないわ!」


「ふん。仲間を傷つけられて怒るか? 下らねえな」


 千奈の怒りが伝わってくる。

 傷ついた僕を見てこんなに怒ってくれているなんて、やっぱり千奈は僕のたった一人の妹だ。

 そんなこの子の気持ちが、心から嬉しかった。


「どういうことなの? 兄さん」


 ギロリ、と千奈の目が僕を睨み付ける。

 …………あれ? ちょっと待って。

 怒りの対象は……なの?


「私が必死で兄さんを探している時に、こんな奴らと楽しそうにして!」


「…………え?」


「本当に楽しそうにしていたわね! 私が普段から色々と、あんなことやこんなこともしてあげているのに、それ以上に嬉しそうにしているのはどういうことなの? 私じゃ不満だったの? それとも、兄さんはロリコンだったの?」


「ちょっと待てええええ!」


 色々待て! そんな言い方をしたら、誤解されるだろ。


「クク、トオル。お前は普段から妹に何をさせているんだ? それに、ロリコンだったのか?」


「ご、誤解だ! これは全て『俺』がやった事だ! なあ、千奈?」


「まだ私のことを分かっていないようね。私は兄さんの嘘を見抜けるのよ。兄さん本人も、ちょっと楽しんでいたのよね?」


「そ、それは……」


 やばい。見抜かれている。

 そう、本当は僕もちょっぴり拷問デビルの攻撃を楽しんでいた。


 でも『俺』のせいなのは本当だぞ!?

 必死で言い訳している僕の姿を、レオンは唖然とした表情で見ていた。


「おい。お前ら、俺を無視するんじゃ……」


「黙りなさい! この泥棒猫が!」


「ぎゃっ!?」


 怒りに燃える千奈がレオンを切りつけた。

 その剣の速度は、先ほどの不意打ちの比ではない。

 どうでもいいけど『泥棒猫』って普通は女性に対して使う言葉だよ?


「死ね!」


「つ、強すぎる! なんだ、この女は!? うわあああああ!」


 そのまま千奈はレオンの首を刎ねた。

 はやっ! 怖っ!


 あっさりと決着がついてしまった。

 これがレベル99の千奈の本気か。


 やはり恐ろしい子である。

 無敵とのたまっていたレオンも、千奈の前では形無しだったようだ。


「兄さん~?」


 そして再び僕に向かって恐ろしい目を向けてくる千奈。


「ま、待て。千奈よ。僕の話を聞いて……」


「センナ! 後ろだ!」


 千奈に言い訳を続けようとした僕だが、その声をかき消すようにリルが大声で叫ぶ。

 見てみると、そこにはが千奈に向かって剣を振り上げていた。

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