第70話 苦しんでいるフリをしてやり過ごす作戦……のはずが

 レオンが指を鳴らす。

 すると、ネビュラの城で見た小悪魔少女が出現した。

 奴の専属の部下だ。


「レオン様ぁ。あたしの出番ですかぁ?」


「ああ、『拷問デビル』よ。こいつを自由にしていいぞ」


「きゃはは! ありがとうございます」


 無邪気に牙を見せて笑う小悪魔。

 奴の名前は拷問デビルらしいが、嫌な予感しかしない。


「く、何をするつもりだ!」


「お前が強情だから、こいつにも手を貸してもらう」


「ふふふふ~」


 不気味に微笑んでいる拷問デビル。

 見た目は可愛い少女だが、その眼差しは凶悪そのものだ。


「もう一度聞くぞ。魔族に転生しないか?」


「ぼ、僕は魔族になんてならない!」


 瞬間、拷問デビルの指先から電撃が放たれた。

 その電撃は異常なほどの『痛み』が伴っていた。


「ぐああああああああ!」


「きゃは! いい声だねぇ、お兄ちゃん♪ 断り続けたら、もっと酷い事になるよ」


 拷問デビルは嬉しそうに舌なめずりをしている。


「痛いだろ? こいつは魔法の直接のダメージはゼロだが、『神経』にダメージが行くようになっている。そして、痛みが二倍になるという特性を持っているんだ。早く寝返った方がいいぜ?」


 二倍の痛みを神経に直接攻撃するなんて、恐ろしい魔法だ。

 まさしく拷問の為の魔法と言っていいだろう。


「そろそろ気が変わったか? なら、もう一度聞いてやろう。俺達の仲間になる気はないか?」


「はあ、はあ、僕の仲間は、ヒカリ達だけだ!」


 その答えを聞いて嬉しそうに微笑む拷問デビルは、今度は電撃に加えて炎の魔法を放つ。


「うわあああああああ!」


「きゃは、一回断るごとに、どんどんレパートリーが増えていくよ」


 よく見ると、ここは拷問部屋のようだ。

 つまり最初から目的は僕を殺すことではなく、僕をいたぶって魔族への転生を無理やり了承させることだったのだ。


「ああ、人を苦しませるのって楽しいぃぃ。あたしねぇ、人間をいたぶって拷問して屈服させるのが生きる喜びなんだぁ」


「ひ、人を苦しめて、喜んでいるのか!?」


「そうだよぉ、お兄ちゃん。これはあたしの才能なんだ。どんな心の強い人間でも、あたしの拷問を受けたら、最後には情けなくあたしにみたいなクソガキ屈服する。その瞬間が堪らない! 気持ちいい! それが、あたしの全てだよ!」


「く、狂ってる! この、悪魔め!」


「そう、あたしは悪魔。そしてこれが悪魔としての『誇り』。あたしはこの拷問に『命』を懸けている。まあ、お兄ちゃんみたいな低レベルな下等生物にこの『誇り』は理解できないよねぇ」


「くくく、流石は俺の専属の部下だ。よし、拷問デビルよ、もっとやれ!」


「きゃははっ!」


 更に氷が付け加えられる。

 痺れ、火傷、凍結、それらの全ての『感覚』だけが、僕の全身を駆け巡っていた。


「まだ屈服しないのか? お前、凄いな。新記録だぜ。どこまで行くか、試してみるか」


 更にそれぞれの威力が少しずつ上がっていく。

 終わりの見えない痛みの地獄。


 まずいぞ。これは、非常にまずいんだ。

 こんなことをされたら……もう、止められなくなるんだ!

 やめろ、やめるんだ!


「くく、くくくくく」


 突然の笑い声に、レオンと拷問デビルは目を見開いた。


「こ、こいつ? まだ笑う余裕があるのか?」


「が、頑張るね、お兄ちゃん」


 いや、違うんだ。これはそうじゃないんだ。



 ああ、『俺』が目覚めてしまった!



 ついに恐れていたことが起きてしまった。

 というか、そもそも僕は最初から痛みなど感じていない。

 苦しんでいるのは全て『演技』だった。


 辛そうにしていれば、まだ拷問は緩くなるかもしれないし、そうやって時間を稼いで、みんなが助けに来てくれるのを待つ作戦だった。


 でも、『俺』が目覚めてしまったら、この作戦は無意味となってしまう。


 僕は、どうなってもしまうんだ!?


「なあ、この程度じゃ俺の心は動かないぜ。もっとやってみろよ」


「強がりやがって。本気でやれ! 拷問デビル」


 強がりじゃないんだ。

 こいつ、本当に喜んでいるんだよ。


 『俺』にとって痛みは『喜び』。

 これは拷問ではなく、ご褒美になってしまうんだ。

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