第66話 バグネタ

 とりあえず、モンスターはほとんどやっつけた。

 再び静寂となったダンジョンを僕らは進んでいる。


「ねえ、さっきのモンスターたちは、大した経験値ではなかったわよ。この調子だと、レベルを99にするのに、かなり時間がかかってしまうわ」


 千奈の言う通り、このモンスターたちの経験値は高めだが、すんなりレベル99になるほどではない。


「ああ、さっきのは狙っていたモンスターじゃない。本命は別にいるのさ」


 さっきのモンスターは小手調べというわけか。

 更に経験値が高い敵がいるようだ。

 という事は、もっと強い敵が相手だと予想できるが……


「ボク達の狙いはこのダンジョンに出現するレアモンスター『孤独メタル』だ。さあ、メタル狩りの始まりだぜ!」


「え? 孤独メタルなの!?」


 孤独メタル……非常に経験値が高いレアモンスターで有名だ。

 だが、異常な防御力を持っており、すぐに逃げてしまうので、退治するのは至難である。


「メタル狩りなんて、逆に効率が悪くないか? あんなの滅多に倒せないだろ」


「これを使えばいい。聖水だ」


 リルが大量の聖水を皆に配り始めた。

 聖水とは、敵との遭遇率を下げるアイテムだ。

 こんなもの、何に使うんだろう?


「聖水は敵に直接ぶつけると、『10』の固定ダメージを与えられる。大したダメージは与えられないから、普段は使えない。だが実はこれ、孤独メタルにも効くのだ。孤独メタルは、防御力は異常だが、体力は8しかない。だから、聖水は孤独メタルにはうってつけなのさ」


 そんな裏技があったとは知らなかった。

 さすがは神ゲーマー。よく調べている。


「ククク、ちなみにこれ、ボクたちが生まれる前に発売された人気ゲームの初期出荷版にのみ起こるバグネタらしいぜ。ネビュラの奴、面白いネタを使うよな」


「へえ、人気ゲームなのに酷いバグがあるよね。よく炎上し無かったよね」


「他にも、8回逃げるのに失敗すると、攻撃が全てクリティカルになるバグもあったらしい」


「凄いな! でも、狙って8回も逃げるのに失敗するのは、無理じゃないか?」


「ヒント、ボス戦」


「…………ああ、なるほど」


 ボス戦は絶対に逃走が失敗するからか。


「まあ、8回も敵の先制を許すから、使いどころは限られるけどな」


「昔のゲームは、めちゃくちゃだったんだね」


「それでも当時は楽しかったんだとさ。今でも続編が出ている大人気ゲームだぜ」


 昔はバグがあっても、ゲームを楽める人が多かったみたいだ。


「ククク、闇の眷属であるボクが、聖水を使うのは、心苦しいがな」


「確かに中二病的には、抵抗があるかもしれないね」


 とりあえず、こんな便利な方法があるなら、せっかくなので使わせてもらうとしよう。

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